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037.トラブルシューティング

ギルドの扉をくぐると、中にはそこそこの数の冒険者の姿があった。


奥を見ると以前にネックレスをプレゼントした職員さんを見つけてその前の列に並ぶ。


カウンターの受付は職員さんが三人並んでるんだけど、全員綺麗な女性で列は均等になっている。


個人的には前回の人に話通すのが一番楽だからここ一択だけど。


「こんにちはー」


前の冒険者の列が消化され、やっと自分の順番が来たので挨拶をひとつ。


「こんにちは。あら貴方は以前の手紙の方ですね」


顔覚えられてーら。まあ手間がなくていいんだけどちゃんと顔覚えてるの凄いね職員さん。


「ええ、覚えていてもらえてよかったです。本日はギルドマスターさんはいらっしゃいますか?」


「すみません、本日はギルドマスターは不在となっております。サブマスターでしたらお会いできるかと思いますがどうなさいましょう?」


「それじゃあサブマスターさんに面会の申し込みをお願いしてもいいですか?」


「かしこまりました。確認してきますので少々お待ちください」


「はい」


というわけで一旦奥へと消えていく彼女を見送る。


そいやネックレス着けてなかったなーと気付いたけど、あんまり評判良くなかったかな。


まあ仕事中だから着けてないって可能性もあるけど。


いっそ率直な感想を聞けたら参考になるかなと思ったんだけど、難しいかなあ。


なんて思っていると、さほど時間をかけずに彼女が戻ってきた。


「お待たせいたしました、サブマスターがお会いになりますのでこちらへどうぞ」


と前回と同じようにカウンターの裏から建物の奥へ。


「そういえば、前回頂いたネックレスなのですが」


「ええ、はい」


歩きながら、職員さんに話しかけられてちょっとビックリ。


「最近になってダンジョンから似たような物が手に入るようになったそうですね」


「そうですね、なにを隠そう私もあのネックレスはダンジョンで手に入れた冒険者から買い取った物なのです」


「そうなのですね、貴重な物を頂いてしまったようですみません」


「いえいえ、私が持っているよりもお綺麗な女性に身に着けていただいた方が価値もありますので」


というかダンジョンから算出するっていう希少価値を抜いたらそんな大した値段にもならないだろうしね。


まあシルバーじゃなくてゴールドなら気軽にほいほいプレゼントできないくらいの原価にはなるけど。


ただ、シルバーのアクセサリーでデザインが流行ってゴールドで同じ物が産出されれば原価よりかなりの付加価値が生まれたりするかなと思ったり思わなかったりもしてる。


流行りのデザインで、かつよく算出されるシルバー製ではなく珍しいゴールド製って構図ね。


一応偽造防止の技術も仕込んでるし。


まあそもそもデザインが流行らなきゃしょうがない話なんだけど、なんて話はともかく。


俺の言葉に彼女が綺麗な笑顔を浮かべる。


「そう言っていただけると嬉しいです。実は今も身に着けてるんですよ」


首のボタンを外した彼女が、シャツの中から取り出したネックレスを見せてくれた。


「気に入っていただけたなら良かったです。実はこういったものにはあまり詳しくないので、お渡ししても不評だったらどうしようと不安だったんですよ」


「そんなことないですよ! 他の同僚にも同じ物が欲しいって言われますもの」


慌てて否定する彼女の様子はお世辞って感じでもない。


なら評判は上々って思っておいていいかな。


「すいません、少し興奮しちゃいました」


「いえいえ、好評なようで安心できました」


なんて話をしている間に目的の部屋の前に着いていたので、彼女が扉を開ける前にネックレスをしまってから自己紹介をしてくれる。


「私、フローラといいます。またギルドにお越しの際はぜひ声をかけてくださいね」


「ジャックです。その時はよろしくお願いします」


ということで、奥までスムーズに通してもらえるようになった。やったぜ。




それから部屋の中に通されてお話が始まったんだけど、その相手というのが前回の訪問の時にギルドマスターの後ろにいた眼鏡の秘書さんで驚いた。


この人サブマスターだったんだ。


まあサブマスターが何する人か知らないから実質秘書なのかもしれないけど。


「本日はお会い頂きありがとうございます」


そいやギルドマスターさんもサブマスターさんの名前覚えてねえや。


まあよく考えたら俺も名乗ってないしイーブンってことで。


え? そもそも名乗れ?


いやあ、だって俺他人の名前に興味ないし自分の名前を他人に覚えられたいとも思わないしね。


しいて言うならルビィになら本名呼ばれてもいいかなと思うけど、主様呼びだし。


それに不満があるだけじゃないけど。


そもそも前の名前はこっちじゃ思いっきり浮いてるし、それに思い入れもあんまりないしね。


プロの引きこもりだったから本名なんて年単位で呼ばれることも名乗ることもなかったし、なんならTwitterのアカウント名かアプリゲーのキャラネームの方が印象深いまである。


なんて俺の内心は露知らず、サブマスターが一旦お辞儀をしてから話を始める。


「貴方が直接訪ねてきたなら重要な要件なのでしょう。でしたら直接お聞きするのが一番手間がありませんので」


まあそうっすね。話が早くて助かります。


俺も本音でいえばわざわざ外に出てまで人に会いになんて来たくないしね。


なんといっても元プロの引きこもりなんで。


そもそも外の人と仲良くなってもメリットよりデメリットの方がデカい感ある。


面倒事が増えるのもあるし、その相手に迷惑かける可能性もあるし。


仲良くなったら殺されないってオプションでもつくならぜひ仲良くしたいけど、そんなこともないだろうしなー。


ということで現状は、必要以上に人と関わる気はない。


とはいえ今日みたいに必要があれば出てくるんだけどさ。


「それでは、お伝えさせていただきます。本日、当ダンジョン内で冒険者が冒険者を襲うという事案が起こり、襲われている冒険者の安全を守るために私が襲撃者三名の命を奪いました」


「その話なら聞いています」


話が早い。


「そうでしたか。襲われていたのはヌアーラというブロンズ等級の女性冒険者、襲っていたのはこちらのギルド証の冒険者となります」


差し出した三枚のギルド証を秘書さんもといサブマスターが確認する。


「こちらも彼女、ヌアーラの報告通りですね。一先ず彼女の身の安全を守っていただき感謝します」


助けたことを感謝されるか、殺したことを責められるかは半々くらいかなと思ってたけど、彼女は一先ず感謝を選んでくれたようだ。


こうなると、こちらも話が長くならなくて済むから助かる。


「いえいえ、こちらの都合で助けただけですのでお礼は結構ですよ。それでお聞きしたことがあるのですがよろしいでしょうか」


「なんでしょうか?」


「彼女を含めた四人の情報を教えていただきたいのです」


俺の言葉に、サブマスさんは僅かに眉を動かす。


「四人ですか……。三人ではなく?」


「ええ、彼女が完全に無実だと判断できるような材料をこちらは持っていませんので」


まだ、あの襲われていた状況事態が何らかの企みの一環である可能性は否定できていないので、彼女の情報があるなら可能な限りは集めておきたいのだ。


「そうですね、通常ギルドに加入している冒険者の情報を外部の人間に伝えることはないのですが、今回は事情が事情ですし、それにこちらもさほど詳しい情報は持っていませんのでそれだけでよければお伝えいたします」


「お願いします」


「そうですね。彼女が当ギルドで受けたクエストは三回。どれも簡単な採集依頼ですね」


「なるほど、それ以前は?」


「当ギルドで冒険者登録をしていますので、それ以前は別の仕事をしていたようです。詳細まではわかりません」


「新人だったということですね。ちなみになぜ彼女は一人でダンジョンに来たかはわかりますか?」


「それはですね、最近冒険者パーティーが解散して再編されるということが少なくなっているのです」


へー。


「というのも原因はダンジョンにあるのですが」


って俺のせいかーい!


「ダンジョンで比較的安全に稼ぐことができるようになり、人死にや大怪我での解散が激減したということですね。まあこれ自体は良いことなのですが」


まあうちのダンジョンで冒険者が死んだのは今日が初めてだしね。


「外からこちらのギルドへと拠点を移す冒険者もいるのですが、そちらも結構な割合がパーティーでの移動となっていますね。個人も少数はいますが、彼女はパーティーを組む機会に恵まれなかったようです」


まあそういうこともあるか。


「ですので現状は、不審を疑う点はないかと」


「そうみたいですね。それでは次にこちらのギルド証の持ち主についてお聞きしてもいいですか?」


「はい、そちらの者たちは他所の都市からつい最近この王都に来たようですね。ゴブリン、大ねずみ等の討伐を何度か受けています。ですがあまり素行は良くなかったようですね」


でしょうね。


「とはいえそれ自体は除名に至るほどでは無かったようです。そもそも冒険者という職業自体が血の気の多い者も多いので」


まあ品行方正じゃない人間を全員クビにしたら結構な数がいなくなりそうだしね。冒険者って。


「そこは理解できます。一応親しくしていた者がいれば知りたいのですがわかりますか?」


「そういった情報はありませんね。しかし素行不良であること、まだ王都へ来て日が浅いことを考えればそういった者は少ないかと」


じゃあ連鎖的に面倒事が起こる確率も低いかな。


「なるほど、それでは最後に、当ダンジョンではこの者たちの名前と、こちらで処分したことを冒険者に告知いたします。なにかギルド様側で不都合などはありますか?」


まあ告知するのは決定事項なんだけど。そこのルールはギルド側から異議申し立てされても曲げる気はない。


「そうですね、こちらとしても同業者を襲った者となれば処分に不服はありません。しかしそれを告知するとダンジョン側が冒険者に警戒される可能性があるかと思いますが大丈夫ですか?」


「たしかに、人が死んだとなれば警戒する冒険者もいるでしょう。ですがこちらとしては人を襲えばダンジョンのルールで処罰されるという事実を受け入れられる冒険者の方にだけ探索していただければそれでいいと考えていますので問題はありません」


わざわざ面倒事を起こす奴に来てもらう必要はない。


「わかりました。それではこちらも、処分されたのは同業者を襲った人間であったという話をそれとなく流しておきましょう」


「ご協力感謝します」


ギルドがあいつらは犯罪者って断言してくれればそれが一番説得力あるんだけど、それやるとダンジョンとギルドが明確に繋がってるのがバレるから今後のことも考えるとあんまり嬉しくないのよね。


その点、噂という形で話を流せば出所をボカしたまま冒険者の心証を操作できるし、彼女ならそれをうまくやってくれるだろう。


「こちらこそ、当ギルドの冒険者を守っていただいたこと、重ねてお礼申し上げます」


「お気になさらずに、必要なことなので」


まあ殺さずに済めばそっちの方が良かったんだけど、被害者に危険が迫る可能性があるならそれを躊躇なく排除するっていうのは、ルビィとの事前のトラブル対応マニュアルを作った時に決めてたしね。


そもそも、ルビィが最初に俺を助けるために人間を殺しているから、俺も必要があればルビィにだけに手を汚させたままにはしないって個人的にも決めてたし。


あのグロ画像現場は最悪夢に見そうだけど。


ともあれギルドでの確認は終了したので、俺はお土産に苺を買ってダンジョンへと帰った。


まあ本体はずっとダンジョンの中だったんですけどね。




その翌日、捕虜確認部屋に新たな柱を生やし、そこに殺した三人の情報と罪状を刻んだ。


冒険者たちはそれを確認し、そしてその日の探索者は前日の半分未満にまで減った。


しかしその更に翌日、囚われていた冒険者が以前と同じように解放されたこと、競合相手が減った探索者が普段以上の稼ぎをあげて帰ってきたことから何割かの冒険者が再びダンジョンに戻った。


まあそこは俺とルビィが調整してバレない程度に報酬を大盤振る舞いしたって部分もあるんだけど。


そしてその更に数日後には、来訪する冒険者が以前と同数にまで復活していた。


これは多分ギルド側のステマが良い感じに作用してくれたんじゃないかな。


ともあれ、数日の収入減少はあったけどダンジョン側の意思を明確にしたことでこれからは人間を襲おうとする奴も居なくなるだろうし、長期的に見ればダンジョン運営にはプラスだったんじゃないかなと思われる。


一件落着。

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先日、誤字報告をいただきました。


予測変換でもそうはならんやろって感じの誤字だったんですが、原因はよくわかりません。


一応投稿前に一回確認はしているんですけど、それでもなぜかすり抜けたりするんですよね。


ともあれ、報告をいただいた誤字は修正させていただきました。ありがとうございます。

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