035.ひとやすみ
「主様、隣よろしいですか?」
「もちろん」
コアルームでゆっくりしていると、ルビィがソファの隣へと腰を下ろす。
そういえば防衛の観点から一応階層を拡張する毎に下に降ろしてたコアルームなんだけど、10階はボス部屋作ってもスペース余ったから20階を拡張するまではここに固定で配置することにしたよ。
ボス部屋階層はスペース一杯に迷路を並べなくていいから空いた空間を有効活用できて良いね。
まあ独房は各階層の外側に配置してるんだけど。
コアルームはそのままパズルみたいにストンと下に降ろせるから良いんだけど、その他の施設はわざわざ最下層に集めるのもめんどくさいのよね。
そのうちリッチみたいな知性持ちの魔物が増えたら待機部屋も作ろうかと思ってたりするけど、それはともかく。
「ルビィもお菓子食べる?」
「よろしいのですか?」
「もちろん。っていうか二人で食べるために買ってきたんだしね」
王都で買ってきたクッキーは1枚銀貨1枚という結構な金額だったけど、それに見合ってあっちの世界と比べてもそこそこ美味しい。
折角なので、俺がクッキーを指でつまんでルビィへと差し出してみる。
「あーん」
俺が促すと、ルビィがそのまま顔を寄せて、クッキーの先にぱくりと齧りつく。
パキリと割ったクッキーの欠片をこぼさないように手皿で回収しつつ、彼女がもぐもぐと咀嚼する姿を見るのはマナー違反かと思ったりもしたけど嫌がる素振りもないからいいかな。
あと身体を寄せた際に触れてる太ももがとても柔らかくてあったかい。膝枕とかしてくれないかな、だめかな。
「美味しい?」
「はい、とても」
「それならよかった」
ルビィの好物リストにメモっとこう。
「主様もお食べになりますか?」
「それじゃあ貰おうかな」
答えると、今度はルビィが俺の顔の前にクッキーを運んでくれた。
「かしこまりましたわ。あーん」
「ん、ふふっ、……ちょ、ちょっと待って」
ルビィの大人な雰囲気からは想像できない素朴な仕草がツボに入って思わず笑ってしまった。
「なにか変なところでも御座いましたか?」
「ううん、ルビィが可愛くてびっくりしただけ。もう一回やってくれる?」
「かしこまりましたわ。あーん」
「ん、美味しい」
ぼりぼりと咀嚼すると自分で食べてたときよりも3倍くらい美味しい。
前世というかあっちの世界じゃこんな経験なかったから最高っすね。
「それじゃ折角だしこれからの話でもしよっか」
「はい、主様」
ということでそのまま作戦会議へ。
「とりあえずこれからの予定は、シルバー等級冒険者の来客数を増やして、11階層以降で戦ってもらうことかな」
「そのためには、戦力を整えないといけませんわね」
「そうだね」
魔力回収を考えるなら、シルバー等級とまともに戦える魔物を用意しないといけない。
「あと、報酬のバランスも考えないとね」
「シルバー等級冒険者を階層から溢れない程度に誘い、ゴールド等級冒険者は来ない程度の報酬ですわね」
「依頼の相場自体はギルドの張り紙でだいたい把握してるから基本は問題ないかな。10階で結構な報酬渡してるからそこから差し引きで考えるなら必要はあるけど」
まあ後からでも微調整はできるので、間違ってゴールド等級が遊びに来ない程度に調整しておけば問題はない。
まあゴールド等級自体の報酬がかなり高額だから、かなり設定ミスらないとわざわざ来ないだろうけど。
「10階層の選定はどうなさいますか?」
「そうだね、しばらくはシルバー等級基準でいいかな。そこから何階層か拡張したらアイアンの上澄みも通すようにしようか」
シルバー等級冒険者がそんな急に増える予定もないから、あんまり多い階層占有させててもスペースの無駄だしね。
ただしリッチに捕まえてもらえば投獄までの処理がスムーズで楽なので積極的に微妙な冒険者は捕まえて欲しいっていう事情もある。
「あとはやっぱり報酬のバリエーションも増やしたいね」
属性魔石はあんまり配ると相場が壊れそうだからほどほどにしておきたい。
エンチャント武器、スクロール、あとポーションとかの魔法薬もありかな。
「エンチャントとかスクロール作成等は魔導書の魔法でも可能だけど、やはり高度な技術は専門家に聞いた方が良さそうかなー」
やっぱり餅は餅屋だ。
今でも武器に魔力を付与して軽く強度を上げたり切れ味を向上させたりなエンチャントは10階報酬でもやってるんだけどね。
「捕虜から得られた情報では、王都にも何人か専門家がいるようですが、接触するのは少し難しいかもしれませんわ」
「王家お抱えの魔術師とかどう考えても厄ネタな気配しかしないしねえ」
そもそも専門的な職業過ぎて絶対数が少ないっていうのもあるんだけど。
まあそのおかげで、活用できれば付加価値は高くなるから良し悪しかな。
「そのためにも、素材の調達を考える必要が出てくるかと予想されますわ」
「あー、そうだね」
高度な魔法武器を作るには専用の金属が、魔道具を作るには専用の魔物の素材が必要になる場合もある。
そしてそれは必然的に高価な代物で気軽に手にはいるわけではない。
「一応魔法で生成できる物もあるけど、必要な魔力がクソバカだしねー」
上級魔物の素材一個に数十万とか普通に要求されるからね。流石に金貨で買うわ。
いや、買うのもそんなに手軽ではないんだろうけど。
「一応金策も視野に入れておく必要があるかもしれませんわね」
「あー、それはあんまりやりたくないんだよね」
現状は冒険者から回収した資金でやりくりしてる当ダンジョンだけど、ぶっちゃけ金貨を稼ごうと思えばいくらでも荒稼ぎできる環境がある。
なんといっても生成魔法がチートすぎるし。
とはいえそれをやると、外部からヘイトを大きく稼いだり関係する人間の思惑に巻き込まれて面倒事が発生する可能性が高い。
なので現状は、冒険者のみを相手に限定して間接的に金集めをしている。
あとこれは、外部の人間の策謀から自衛するって意味合いもあるのだ。
正直外部の人間と直接関わって、貴族とか商人との知恵比べすることになった時にとても勝てる気がしないのよね。
まあそういった人間の全員が全員賢いわけじゃないだろうけど、賢い側の人間は間違いなく俺より賢いだろうし。
その点冒険者とのギブアンドテイクの関係は、単純な分詐欺にあう心配もほとんど無いから安心できる。
可能性が皆無とは言わないけどね。
「まあ、金策するにしても資金繰りに困ってからかな」
いっそやるなら大規模なねずみ講でも始めて自動で上納金だけ入ってくるシステムでも作ろうかな。まあ冗談だけど。
「色々あるけど、最初にやることはやっぱり11階層の設定だね」
ここでシルバー冒険者を数多く誘い込めるようになれば、ダンジョンの収益はもう一段階加速させることが出来る。
それに必要なのは冒険者を誘う報酬の設定、そしてそれを迎え撃つ戦力の準備。
「とはいえ実際に動くのは魔力が貯まるまでお休みかな」
「そうですわね、主様もゆっくりお休みくださいませ」
「ありがと、ルビィ」
それじゃあちょっとだけゴロゴロさせてもらおうかな。
なんて考えたら、ルビィが自分の膝を揃えて太股をくっつける。
「よろしければ、お使いくださいませ」
「いいの?」
「もちろんですわ、主様」
美しく笑ったルビィに甘えて、ごろんとその太股に頭をのせる。
柔らかい。
丁度良い高さのその太股は、最高級の枕だ。
そのまま上を見ると、視界の半分にはルビィの胸が、もう半分には微笑みが見える。
宝石よりも綺麗な彼女の真紅の瞳は、俺が最初に見惚れた時から同じように輝いていた。
ここが天国か?
なんて言ってもまあ、ゴールはまだずっと先なんだけど。
腕を伸ばし、そんな彼女の頬を撫でる。
その指先が耳に触れると、ルビィはくすぐったそうに僅かに身を震わせた。
「これからもよろしくね、ルビィ」
「もちろんですわ、主様」
ルビィのそんな微笑みが、俺の一番の活力源だな。
なんて、本人には言わないけど。
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という訳で、これで一章完結です。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
もし面白いと思ったから評価よろしくお願いします。
感想もお待ちしてます。あのキャラ再登場希望とかでも良いですよ。




