031.ダンジョン観察中
コアルームのソファに横になりながら、目を閉じてダンジョンの中の様子を観察する。
そもそもダンジョンの中でどういったことが起きているのかは大雑把に把握することができるんだけど、個別の冒険者の様子を眺めるにはこうして視点を集中した方がやり易いのだ。
現在拡張されているダンジョンは9層まで、その中でブロンズ等級の冒険者はおよそ3層までに収まっている。
理由は階層が深くなるほど罠や魔物の編成が強力になること、更に深く潜れば潜るほど戻ることも難しくなることかな。
スケルトンで稼ぐなら他の冒険者と競合しない程度の密度で狩れればそれで問題ないしね。
まあ1層だと流石に討伐済みのスケルトンを発見する頻度も上がるから2層3層へと下がっていくんだけど。
こっちとしてはスケルトンを復活させるだけならすぐにできるんだけど、魔石を組み込むのがちょっと手間なんだよねえ。
宝箱も同上の理由で、補充頻度はそこそこにしている。
こっちは開けられてから即補充すると戦利品に困るっていうのもあるけど、冒険者の定点稼ぎ対策でもあるかな。
回収補充回収のサイクルを上げすぎると、もうずっとそこで稼いでるのが最適解になっちゃうしね。
わざわざ出待ちしてる冒険者を避けて補充するのも手間だし。
まあ完全に補充しないとそれはそれで朝一ダッシュが最強になっちゃうからほどほどの補充は必要なんだけど、その辺は冒険者が空箱ばっかり見つけてがっかりしない程度を意識している。
1層なんかはその補充頻度も落としてるんだけど、生成魔法の武器は彼らの報酬で買えるような武器と比べるとかなり上質らしいのでそれでも問題ないっぽいけど。
あと排出してる武器だと、剣に並んでメイスが人気でちょっと驚いた。
鉄の棒の先にお好み焼きくらいの鉄板3枚を上から見て*型にくっ付けただけの簡単なものなんだけど、スケルトンを殴り倒すのに便利だということで特にブロンズ等級の冒険者に人気になっている。
実際に観察すると、まさに今も2層の宝箱からメイスを手に入れて喜んでいるブロンズ冒険者の姿が見えた。
そして4層より下に進むと、アイアン等級の冒険者の割合が増える。
というかほとんどアイアン冒険者だ。
わりとアイアン等級の中でも戦力差があるようで、上の方と下の方では一目で動きが違うのがわかったりするのは最初は気付かなかったけど。
6層を初見で抜けた双剣持ちの双子とか、あれでシルバーじゃないんだって感じの動きだったしね。
そしてその6層が一度降りたらある程度探索をしないと戻ってこれない階層という情報が知られてからは、実力の境目になっていたりする。
そういえばスケルトンの投擲部隊は今は4層まで降ろしてるよ。
最初は2層から配置してたけど、階層が増えてあんまり1層に人が多すぎるのも好ましくない状況なのでそれを見ての配置変換。
特に訓練の成果が出てるスケルトンは赤く塗ったり下の階層に優先的に下ろしたりで、上の方はやっぱり相対的に優しいけどね。
そして6層からのゴーレムくん。
こっちは未だ無敗の最強ファイターだ。
まあ本気で彼らに迎撃させるとアイアン冒険者じゃどうやっても太刀打ちできないから、基本は回避できるような配置にして冒険者を誘導する係なんだけどね。
たまに避けるのに失敗した冒険者や、討伐を試みて返り討ちになっているような冒険者が捕獲されるけどそれくらい。
そして魔物に併設して活用している罠は現在は落とし穴がメイン。
飛び出す槍とか置きたい気持ちはあるんだけど、運が悪いと普通に死にそうだからその辺はまだおあずけ中。
落とし穴の用途は治癒魔法を使わせて魔力を回収する用と、スケルトンと連携して冒険者を捕まえる用かな。
実際にダンジョンの中を眺めると、4層で誘い出しからの落とし穴からのスケルトンの前衛冒険者タコ殴りからのスケルトンメイジの睡眠コンボが決まってるのが見えた。
こうやって観察してると昔やってたトラップ設置するゲームみたいでちょっと楽しい。
まあ実際にそれで怪我している人間がいるんだけど、世界一のダンジョンを作るというのが至上命題なので気にしない。
自由意思で探索に来ている冒険者に魔石を配る代わりに魔力を回収するのは必要なことだからしょうがないのだ。
俺だって平和で安全に魔力を集められるならそれが一番いいけど、残念ながらそんな方法はないしね。
気にしてもしょうがないことなら気にしないのが一番だ。
まあルビィの願いを叶えるのに一番効率が良い方法なら、それの善悪に俺は頓着しないけど。
ともあれ、そのままゲッツされた冒険者一行はスケルトンによって各階層毎に設置された転送陣まで運ばれて、そこから転送の後に再びスケルトンによって独房まで運ばれていく。
急ぎでヒールしないと行けないような場合は魔導人形を派遣しないといけないんだけど、今回はそれも必要なさそうなのでサックリだ。
どっちにしろ後で冒険者の治癒師に働いてもらわないといけないんだけど、この辺も自動化したいなーっていうのは最近の課題。
実際にダンジョン全体を俯瞰して観察すると、3層までに留まっているブロンズ冒険者が全体の4割ほど。
残りの6割のアイアン冒険者は4層と5層に3割、6層から8層までで3割といった分布。
ちなみに9層の現在探索者は0名ね。
一応過去に何組かの冒険者はここまで辿り着いているし、劇的に難易度を上げているわけでもないんだけど、やっぱり帰り道のことを考えると奥まで来るのは大変みたいだ。
まあ冒険者の練度が上がればだんだんと深層に人口分布が上がってくだろうけど。
あと、うちのダンジョンのことが話題になって他所から訪れる冒険者も増えている。
今だとピークタイムは探索者と捕虜合計で100人超えるので、多分2割か3割くらいは他所からの冒険者なんじゃないかな。
そしてそろそろ10階の拡張に乗り出せるくらいのくらいの魔力が貯まってきたので、そろそろ次の段階に進みたいかな。
「んー」
ダンジョン観察は満足したので今度はソファに座りながら、魔導書のモンスターのページをペラペラと捲りつつ声を漏らす。
魔導書のカタログは基本的に必要な魔力が小さい魔物から並んでいて、今眺めているのは万越えのページ。
「なにかお悩みですか? 主様」
いつの間にか近くに居たルビィの声に頷いて顔を上げる。
「うん、折角次で10階だからボスでも置きたいなと思って」
「ボス、ですか?」
「簡単に言うと節目だから強い魔物を置きたいって話ね。ドラゴンとか」
「ドラゴンは流石に、難しいですわね」
「そうだねー」
なんといってもドラゴンくん、カタログの最後のページに載ってるからね。
その必要魔力、驚きの100万~である。~ってなんだよ~って。
「召喚の際に注ぐ魔力を増やすことによって、その個体を通常より強力なものにできるということですわね。更に変異種や上位種などもございますわ。ただし、要求魔力10万の魔物に100万の魔力を注ぎ込んだとしても、ドラゴンほど強くなるということはありませんのでご注意くださいませ」
「なら基本的にカタログスペックで召喚するのが一番効率がいいのね」
「そうですわね」
んじゃあやっぱりこの辺かなあ、と眺めるのは万越えのページ。
ちなみにこの万とか言ってる魔力量はカタログに直接そう書いてあるわけじゃないんだけど、一番最初のスケルトンを100とした時の換算が一番わかりやすいので俺とルビィはその基準で話している。
ぺらりとページを捲って現れたのは当ダンジョンでも雇用中のゴーレムくん。
未だダンジョン内で無敗を誇っている彼らは、通常の召喚魔力で1体3万ほど。
素体に岩を使っている彼らの一番良い所は、なんといっても岩をくっつけるだけで修復できるメンテナンス性の高さだろう。
活動を停止するまで本格的に破壊されなければ、スケルトンと同じような労力で修復できる。
あと事前に触媒の岩を用意して作り出せば召喚コストを多少削減できるという優れものだ。
ちなみに金属を触媒にすると更に高性能なゴーレムにすることができるらしい。夢があるね。
流石に金属ゴーレムはその分、必要魔力も多いけど。
「でもボスに用意するならゴーレムよりも強い方が良いかなー」
既にダンジョン内に設置しているゴーレムより弱い魔物を置いておくにはインパクトに欠ける感が否めない。
「ですが主様。ゴーレム以上の魔物を用意するとなると、攻略できる者がいなくなるのでは?」
現状の冒険者はブロンズとアイアンの冒険者がほとんどだ。
しかしゴーレムですらシルバーランクのパーティーと互角なレベルなので今の侵入者を相手にするにはオーバースペックである。
「その辺は一応考えてることはあるんだよね」
ということで、ルビィにはその案を伝えておく。
「なるほど、それでは召喚する魔物は人語を解すものが良いですわね」
「そうだね。あとある程度の知能もあった方が良いかな」
「でしたら、こちらなどがよろしいかと」
ルビィが開いたページは魔力10万相当のページ。
確かにそれは目的に合致している魔物だった。
君に決めた!
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累計10万文字を越えました。まだもうしばらくは毎日投稿できると思うので、これからもよろしくお願いします。




