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025.ギルドに行こう!③

「それでは、二つ目の問題、通行料の話をいたしましょう。そもそも、冒険者が依頼をこなすたびに二回の通行量を払っていたら儲けを出すのは難しいと思われますが、その点がどういう仕組みになっているか教えていただいてもよろしいですか?」


俺が情報の確認のために尋ねると、ギルドマスターが後ろの秘書さんへ頷いて促す。


もう四人で同じ卓を囲んだ方が早くない?と思わなくもないけど立場があるとこういう仕組も必要なんだろう。タブンネ。


「通常城門を行き来する際には銀貨1枚の通行料が徴収されます。更に物品の持ち込み、持ち出しには関税がかかりますね。その例外として、ギルドからの依頼を受けた冒険者はその依頼をこなす目的での往復には通行料を免除される仕組みとなっています。依頼の証明は依頼書の控えの提示にて行われますね」


ここまでは捕まえた冒険者に聞いた話と同じで一安心。これなら事前にルビィと作戦会議しておいた話がそのまま使えるかな。


「なるほど、それではダンジョンで獲得できる魔石の回収をギルドの依頼として発行するのは如何でしょう? 依頼によって関税の免除を受け、そのままギルドで買い取る形で魔石の取引の独占すれば、それだけでかなりの利益になると思いますよ。そういう仕組みになるのであれば、ダンジョン側としては捕まえた冒険者から依頼書を没収しないという形でご協力できます」


「流石にそれは、各方面から睨まれそうですね」


「それでは、ギルドが解放金を払っていただく際に、その日に解放の冒険者を一纏めに解放し、そのままギルドの職員の方が引率する形で通行料を免除してもらう、といった形が一番分かりやすいでしょうか。当然ギルドには解放金の支払い契約をしてもらう前提になりますが、それでしたらこちらは解放のタイミングを統一するといった形で協力させていただきますよ」


そもそも冒険者の仕事と認められれば免除されるんだから、ギルドが保証するならそれも通るだろう。


「それはまた検討が必要ですな」


まあどっちにしても即決はできないか。


「こちらとしては今言った形での協力で済むのであれば、方法はそちらにお任せしますよ。ただし、あまりダンジョンとギルドが繋がっていると外部に見せるのは良くないかと思いますので、その点だけはご留意ください」


言うと、ギルドマスターが少し疑問そうに眉を動かす。


直接出向いておいて仲良くするのは良くないと言われたら不審に思われるだろうけど、こちらとしては譲るべきじゃない一線がある。


「元よりダンジョンとは魔に属するもの。私も人間とは言えませんし後ろにいる彼女も私の使い魔です。今日から仲良くやっていきましょうと手を取り合って信用して貰えるとは思っていません。ですからお互いに、利益を産み出せる関係になれればと、そう考えています」


仲良くなれなくても、互いに利益を享受し合う関係になればそれを壊すことにメリットがない。


それは策謀に巻き込まれずに平穏に関係を保つ一番の手段でもある。


それに、俺にとって、ルビィ以外の相手との関係とは割り切ったものでいい。


ルビィに命を助けられて、彼女の望みを聞いてから、俺とルビィとそれ以外には明確に線を引くことを事前に心の中で決めていた。


「それと、既にご存じと思いますが、我がダンジョンにはいくつかのルールを設けております。これは半分はダンジョンの利益のためであり、もう半分は冒険者様の利益と安全を守るためのものでもあります。そして私は、そのルールを破るものを処罰することに躊躇を持ちません。冒険者の行動を制御するのは不可能でしょうが、それだけは覚えておいてくださいませ」


だからこそ、ダンジョンとギルドはあまり近付かない方がいいというのもある。


そこの言葉に、対面にいる彼らの表情が少しだけ引き締まったものになった。




「主様」


「うん、ルビィ」


ギルドからの帰り道、草原に伸びる道を並んで歩きながらルビィと短く言葉を交わす。


周りにはそこそこの距離が離れてまばらに行き交う人々。中には馬車とその護衛の一団なんかも見えるかな。


王都は出るにもちょっとした手続きがあるから、自然と通行人の間隔は保証されることになる。


「多分、つけられてるね」


といっても俺に尾行を察する能力なんてものはないから、ギルドにいたメンツと王都を出るまでにメンツ、あと今後ろを歩いている人間を参照した結果である。


後ろといってもすぐ近くにいる訳じゃなくて、随分と離れた所だから上空にいる梟と片目だけリンクさせて把握できた事実なんだけど。


「どうしよっか」


「このまま止まってやりすごすこともできるかと」


「それはそれで露骨すぎる気がするけど、でもちょっと様子を見てみようか」


言ってから、ルビィの手を握ってくいくいっと引っ張る。


「どうなさいました? 主様」


「ちょっとルビィのこと抱きしめてもいい?」


「ええ、もちろんですわ。主様のお望みのままに」


「それじゃあ遠慮なく」


歩く足を止め、ルビィの肩を引き寄せ、そのまま抱きしめる。


ルビィの身体柔らかいなあ。


「尾行者、止まりませんわね」


一連の流れで反応するかを観察してみたけど、立ち止まるどころか全く反応しなくてちょっと驚いた。


ドッキリ、大失敗~!


逆にダンジョンから街に戻る冒険者の一行からはばっちり注目されたけど。


「そうだね。もう一組更に後ろから尾行している可能性もあるけど。んじゃ戻ろっか」


一組目の尾行がこちらを気にせずにそのまま通り抜けて、二組目が尾行を引き継ぐ、なんてことも考えられるけどまあ気にしてもしょうがない。


「あら、もうよろしいのですか?」


「うん、続きはまた今度ね」


「はい、また今度」


本当は名残惜しいけど、流石にこのまま抱き合ってたら不自然ってレベルじゃないので再び歩き出す。


「それじゃあこのあとはどうしよっか。とりあえず上の転送陣で帰るっていうのは無しかな」


ダンジョンの直上に設置してある転送陣を裏口として使っているんだけど、場所が把握されるのは直接的な実害が無いとしてもあまり気持ちいいものではない。


俺自身が認証になってるからそこから侵入、みたいなことはできなくても待ち伏せされて妨害工作、なんて話になったら困る場合もあるかもしれないし。


「そもそも、彼らの目的は何でしょうか?」


「とりあえず使える情報がないか確認したいんじゃないかな。もしくは俺たちが本当にダンジョンマスターかの確認」


「確認ですか?」


「詐欺師の中にはそれは無理だろーって大嘘をついて金を巻き上げる人間もいるからね」


向こうの世界でも超有名な塔のランドマークを権利者だと偽って勝手に売って大金をせしめた詐欺師の話、なんていうのもある。


「まあそれ自体は特定されるなら手間が省けていいんだけど」


こっちがダンジョンマスターだってちゃんと確認して帰ってくれるならそれ自体は大歓迎だ。


「問題はどこまで情報を見せるか、ですわね」


「だねえ。露骨に尾行をまくか、自然に尾行をまくか」


「ある程度警戒しておいたほうがいい相手だという印象は持ってもらった方がいいかもしれませんわね」


「そうだね、それじゃあそうしよっか」


必要以上に戦力を見せて危機感を煽る必要はないけれど、気軽に殴れる相手じゃないってことはわかっておいてもらった方がいい。


こちらに害意がなかろうとも、簡単に利益があるなら殺しに来る、っていうのはこっちの世界に来て早々に体験したしね。


こっちが助けてくれと言ったら言葉が通じるなんていうのは幻想だ。


方針が決まったので、薄っすら作戦会議をしてそのままダンジョンの前までたどり着く。


時刻は昼過ぎで、入り口の近くには戦利品確認をしている冒険者が一組だけ。たしかブロンズ冒険者のパーティーだったかな。


そのまま中に入ると、後ろの冒険者がついてくるのが見えた。


ダンジョンの中に入ったらもう俺の庭から監視も確認もお手の物だ。


俺が他の冒険者とバッティングしないように道を選び、スケルトンは配置をずらしてそのまま戦闘無しで進む。


スムーズに1階の奥部に辿り着いたところで、捕虜回収用に予め設定してあった転送陣を踏んでダンジョンの牢獄エリアまで飛んだ。


ちなみに転送陣はこちらで任意に発動できるし、運ぶものも選べるので後をつけられる心配はない。


そのままコアルームに戻りつつ確認していると、冒険者は俺とルビィが消えたところで隠し扉がないか確認している。


「転送陣のことは隠してないからすぐに思い当たるだろうけど、ダンジョン内を自由に監視できるのはまだ気付かれてないみたいだね」


「そうですわね、主様の能力は大きなアドバンテージになるかと」


「とはいえ過信は禁物だね。バレていても問題ないって前提で有効活用するのが一番いいかな」


こういう能力があることはそのうち気付かれるだろうし、それを逆手にとって騙されるかもしれない、くらいの警戒は常にしておきたい。


きっとこの世界でも賢い人間は俺の想像なんかよりもずっと賢いだろうしね。


「ところでルビィ、あの冒険者たちの顔見たことある?」


「いえ、記憶にありませんわ」


「んじゃ初見さんかな」


俺は人の顔を覚えるのがすこぶる苦手なので自信はないが、ルビィがそういうならきっと間違いないんだろう。


「もしかして高ランクの冒険者かな? いいなー、尋問したいなー」


「捕まえますか?」


「でも流石にそこまでやると挑発行為が過ぎるよねえ」


「そうですわね」


仮にも商談をしに行った帰りに階層に見合わない戦力で捕獲にしに行ったら全力で中指立ててるようなもんである。


まあそれ言ったらあっちもいくらか失礼ではあるけど、身元の確認の為と言われれた直接糾弾できるほどの理由でもない。


「んじゃやめとこうか。一応最後まで監視はしておいてくれる?」


「かしこまりましたわ、主様」


ということで俺とルビィは並んで遠隔人形の安置部屋まで移動する。


そのまま人形を寝かせておくために作ったベッドに二人で並んで横になって接続を解除した。




それから三日後、ギルドから正式に解放金肩代わりの契約が開始され、俺はルビィと一緒にいる時間を確保できるようになった。


めでたしめでたし。

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