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023.ギルドに行こう!①

解放金の仕組みを冒険者に告知してから数日、現在までに合計5名の冒険者が解放されていた。


ちなみに内訳は女4男1ね。


これは俺とルビィが事前の作戦会議で予想した数よりも多かった。


とはいえその全てがブロンズ冒険者であり、ダンジョンの稼ぎとしては微々たるもの。


まあ解放された冒険者がまたダンジョンに潜れば、そこで魔力を回収できるのでそこまで損をしているわけでもないけど。


出来ればもっと解放してもらいたいんだけど、そもそも本人が捕まっているのにわざわざダンジョンまでお金を払いに来るような縁者がいる冒険者が少ないというのが一番の問題。


ということで俺とルビィはその問題を解決してもっとゆっくりするべく、転送陣を使った裏口からダンジョンの上の森へと出た。




入口の扉を開けるとカランカランと鐘が来客を知らせる。


中には正面にカウンター。横に目を向けるとテーブルと椅子が何組かあり、壁には所狭しと掲示物が貼られている。


いくつかの視線を感じつつ、そのまま真っすぐ進んで受付へ。


「こんにちは」


職員の若い女性が、愛想良く挨拶をしてくれる。


「こんにちは、本日ギルドマスターさんはいらっしゃいますか?」


「おそらくいると思いますが、どういったご用件になりますか?」


「会わせてほしいって言っても、はいそうですかとはなりませんよね?」


「そうですね、お約束がなければ難しいかと。ご用件をお聞きして取次することはできますが」


うーん、丁寧な対応で良い職員さんだ。


「それじゃあ、この手紙を直接渡してきてもらってもいいですか?」


取り出したのは封筒に入れた手紙。それを確認した彼女が再びこちらに視線を向けた。


「ご署名が無いようですが、よろしいですか?」


「ええ、その封蝋を見てもらえばおそらくわかると思うので。何も言われなければそのまま戻ってきてもらって大丈夫ですよ」


「かしこまりました」


「ああそうだ、良ければこちらを受け取ってください」


手紙を渡した後に、もう片方の手から別の物を彼女の手のひらに乗せる。


「これは貴女への贈り物です」


渡したのはうさぎのペンダントトップがついたネックレス。


シルバーで作ったそれは、うさぎさんの目の部分に小さなルビーが紅く輝いている。


「よろしいのですか?」


「ええ、お手数をおかけしますので。お手紙よろしくお願いします」


「ええ、確かにお届けしますね」


一度頭を下げた彼女がペンダントを制服のポケットにしまい、そのまま奥の扉へと消えていく。


あれ自体は加工の手間を除けばあれも大した価値じゃないのでチップみたいな物だけど効果はあったんじゃないかな。


わりと袖の下が無くても渡してくれそうな気配だったからこの世界の民度の高さにちょっと感心したけど。


基本的に民度の高さと人の豊かさは正比例すると考えると、わりと中世というか近世に近い世界観なのかな。


ある程度世界が豊かな方が平和なダンジョン運営もやりやすいので、これはありがたいことだけど。


ちなみに女性にプレゼントと一緒に頼みごとをするのは、向こうの世界の映画でやっていた手法のパクリなので俺のオリジナルではないと言っておきたい。


まあ詐欺師の手口だね。


「それじゃ、ちょっと待とうか」


「はい、主様」


後ろで待っていたルビィと共に壁に寄る。


あっちのテーブルに座ってもいいかなと思ったんだけど、職員さんがすぐに戻ってきたら手間かなと思ってやめておいた。


「ギルドの職員さんの制服っていいね」


上はキチッとしたシャツに下は細目なスカートでとても良い。


「主様は、ああいった格好がお好みですか?」


「んー、どうだろう。でもルビィにあの服を着てもらいたいって気持ちはあるかな」


普段のルビィの格好も好きだけど、ああいう格好をしているルビィも見てみたい気持ちはある。


ちなみに今のルビィは旅装のローブね。俺もお揃い。


「主様がお望みでしたら、いくらでもお見せいたしますわ」


「それじゃあ手に入ったらお願いしよっか。あと単純にギルド職員の制服って持ってたら便利そうだよね」


「ギルドに立場が保証されているようなものですわね。その分悪用には目を光らせているかと」


「確かにねー」


あっちの世界でも、警察官のコスプレは厳しく取り締まられてるなんて話を聞いたことがある。


まあこっちの治安維持機構は衛兵だろうから、ギルドの制服はそこまでじゃないとしても安易に同じものが手に入らないようになってるんじゃないかな。


そう考えるとプレミア感がある、じゃなくていつか活用できる日が来るかもしれない。


まあ活用するときはほぼイコールで悪用と読む感じだろうけど。


そんなことを話しながら待っていると、先ほどの職員さんが戻ってきて、そのまま来客用の奥へ続く扉を開けてくれた。


「お待たせいたしました、ギルドマスターがお会いになるとのことですので一緒に奥までお越しください」


「はい、お願いします」


そのまま彼女の後を続き、階段を二度上って三階の部屋にたどり着く。


職員さんがコンコンとノックをしたのち、中から「どうぞ」という声が聞こえた。


「失礼します」


「どうぞ、あちらの席へお座りください」


制服が素敵な職員さんに促されて、長椅子に腰かける。


ルビィはそのまま後ろに回って俺の背後へ。


向かいにはギルドマスターと思われる壮年の男性が座っていて、更にその向こうに眼鏡をかけた女性が立っている。


ギルドマスターさんは髭が立派で体格もしっかりしたイケオジだ。おそらく若い頃は冒険者で成功していたんだろうという風格がある。


後ろの女性はは長い金髪を後ろで巻いているのが印象的でデキル女って感じ。


あっちとこっちで鏡写しみたいな配置だ。あの人は秘書さんかな。


「初めまして、ギルドマスターのドランドと申します。貴方はこの手紙の差出人で間違いありませんかな?」


差し出された手紙は二つ。


一つは先ほど届けてもらったもの。もう一つは最初に捕まえて解放した冒険者に届けてもらったもの。


どちらにも、カットした宝石の模様の封蝋がついている。


「ええ、私で間違いありません。ただし、ここにいるのは私が操る傀儡になりますので予めご了承ください」


ここで俺を殺せばダンジョンが消滅して面倒事が消滅!なんて短慮をされたら困る。


あと生身で来ていると思われて無用に警戒されても困るしね。


「それでは、本日お越しいただいたご用件をお聞きしてもよろしいですかな?」


「手紙にも書かせていただきましたが、本日はここ王都からほどなくの距離の場所に構えるダンジョンを運営させていただくことになりましたのでご挨拶をと思い参上させていただきました。当ダンジョンには本日付で100名を越える冒険者様に探索してだいております。既に解放された冒険者様がいらっしゃいますのでご存じと思いますが、当ダンジョンでは可能な限り生命の危険を排除した運営をさせていただいております。当然、ダンジョン内で戦闘不能となり、虜囚となっている方々も全員ご無事ですのでご安心ください」


「その者たちの無事を確認することは可能ですかな?」


「現在虜囚となっている方々は5日以内に全員解放されますのでそちらでご確認くださいませ」


「ですがそうなりますと、新たな者が捕虜となりますな」


「そうですね。ですが今すぐに虜囚の無事を確認しても、明日以降にまた冒険者が捕まれば同じことかと」


結局冒険者の無事を恒久的に確認するなんて、冒険者の立ち入りを禁止でもしなければ不可能な訳だ。


「たしかにそうですな。これは失礼をいたしました」


「いえいえ、無事を確認したいと望むのは自然なことかと」


まあギルドとしては冒険者個人の生死にはそこまで気を使ってないだろうけど。


一定の身元を保証する代わりに危険な仕事を外部委託する相手、程度の関係だろうし。


とはいえ、そういう関係の相手が結構な数安否不明になっているという事実が気持ち悪いという理屈は理解できる。


「迷宮主殿、一つ質問をよろしいですかな?」


「ええ、私にわかることでしたら」


「それでは、貴方のダンジョンの目的をお聞きしてもよろしいですかな? ダンジョンといえば財宝で人間を誘い、そして喰らうもの。しかし貴方のダンジョンでは冒険者を解放している。その真意を知りたいのです」


それは至極全うな疑問というか質問だ。


問題は俺が正直に答えても信用してくれる気配が微塵もないことだけど。


「私たちの一番の目的は、やはり生命の安全ですね。ダンジョンコアには大きな価値があり、それを狙う冒険者から身を守るために階層を増やす。それが現状一番の目的です」


「更に魔物の戦力を増強すると」


「そちらはあまり重視していませんけどね。どちらかといえば地形と罠を用いた方が防衛の観点でいえば効率が良いので」


「なるほど、それでは冒険者を解放している理由は何故なのでしょう?」


「殺してしまえばそこでおしまいですから。しかし解放すれば再び金品を運んできてくれる可能性が高い。ならばそちらの方が利益が大きいという合理的な考えですよ」


「つまり必要があれば殺す……、と」


「まずダンジョンで捕まえた冒険者の処遇を決めるのは、管理者としての権利だと私は考えています。ダンジョンの内部は私の土地であり、持ち出される財宝は私の物ですから。それを奪いに来た者の処遇は私が決めます。とはいえ、現状のお互いに好ましい関係が維持できるのであれば最良と考えていますが、ギルドとしては如何でしょうか?」


ギブアンドテイク、もしくはwin-win。どちらも素敵な言葉だ。


「そうですね、ギルドは冒険者を管理する立場にありますが、その行動を全て決める権限はありません。合理的な理由がなければ、ダンジョンに入るなと言っても聞きはしないでしょう。それに元来ダンジョンとは危険と引き換えに富を求める場所。であれば失敗しても命が助かるだけ有情ですかな」


その言葉に、彼がギルドマスターであると同時に元冒険者であることを実感する。


身近な危険があるならば対処する必要性を理解しつつも、危険と隣り合わせのロマンに身を委ねる感覚をまだ失ってはいないのだろう。


当然、だからと言って油断も安心も信頼も出来るわけではないのだけど。


ギルドマスターとダンジョンマスターというお互いの関係を考えればそれでいい。


ということで、ダンジョン側の意思表明は出来たので次の商談のお話。

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