021.ルビィと魔石作り
「んー……」
「どうなさいました? 主様」
俺がテーブルに置いた魔導書のページを眺めていると、向かいで書類仕事をしていたルビィが視線を上げる。
ここは地下二階に移築したコアルーム兼リビング。
俺の後ろにはダンジョンコアが浮遊していて、最初よりずっと多い魔力を宿している。
とはいえその魔力を無駄使いできないのが最近の俺の悩みの一つだ。
「うん、属性魔石高すぎるなーと思って」
魔導書のページには火や水といった属性魔石の生成ができる魔法が記されている。
といっても難しいことはないので他の生成魔法と同じく念じれば一発なんだけど、問題はその魔力量。
例えば魔力を100込めて生成した魔石と同程度の魔力量の属性魔石を作るとき、その魔力の必要量は1000ほどになるらしい。
高すぎ!
「それは変化させた属性の性質を持たせるという部分に多く魔力がかかっている訳ですわね」
つまり、魔石を作るだけなら魔力を結晶化させるだけなので、ダンジョン建築に使っ
ている変形させる魔術の延長線上のようなもの。
それに対して属性魔石は属性を新たに生む過程で、金属を無から生み出すのと似たような処理を必要とするということらしい。
「これが節約できればいいんだけどねー」
確か買取で金貨3枚って王都の店員さんが言ってた火の魔石が金貨1枚の無垢の魔石と同じくらいの大きさだったから、金額比3倍で必要魔力10倍だと結構な損である。
実際のはお宝にバリエーションが生まれるっていうのはガチャ商売思考的には有効だと思うんだけど、それはそれとしてちょっと気軽に作るには尻込みする魔力量だ。
まあそもそも存在しないものを自由に作れるって時点で魔力がかかろうがチートレベルなのは間違いないんだけど。
「主様、少しよろしいですか?」
「どうしたの?」
「少し試してみたことがあるのですが」
「いいよ」
「それでは失礼いたしまして」
言ったルビィが向かいの席から移動して俺の隣に座る。
髪の隙間からちらりと見える首筋がとてもセクシーだ。
このまま抱きしめてもいいかな? だめかな。
「例えばの話なのですけれど、主様が魔石を作る際に、わたくしが火の魔力を込めるというのはいかがでしょうか?」
「んー、あー」
確かに俺は火の魔法を使えないがルビィはそうじゃない。
ならルビィが属性の魔力を作って俺が封じ込めて魔石にすれば、生成魔法で無から有を作るという過程を省けるかもしれない。
「でもできそう?」
火を生み出すんじゃなくて火の魔力を作り出すなんて、俺にはさっぱりピンとこない感覚だ。
「絶対にとは言いませんが、可能性はあるかと」
「じゃあやってみようか」
「よろしいのですか? 上手くいかない可能性もありますけど」
「うん、出来たら大儲けだしね」
あとルビィがそういう提案をしてくれたことが嬉しい。これは秘密だけど。
「それでは、お手をよろしいですか?」
促されて左手を差し出すと、手のひらを合わせるようにルビィが手を重ねる。
その手の感触と体温が少しくすぐったい。
「いつでもいけますわ」
「うん、いくよ」
重ねた手のひらの中で魔石を生成するイメージをすると、ルビィの手が少し熱を帯びたように感じる。
そのまま手の中に生まれた魔石の感触を確かめて、ルビィが離した手の柔らかい感触を名残惜しく思いつつも確認すると、そこには通常の黒色の魔石ではなく、代わりに赤い染みが封じ込められた魔石が残っていた。
「おおー」
「成功ですわね」
「ルビィのおかげで大成功だよ。ありがとう」
「勿体ないお言葉ですわ。それに半分は主様の魔法ですから」
「じゃあこれは二人で作り上げた魔石だね」
「ええ」
そう言われると手の中の魔石がとても縁起がいい物に思えてきたので、ダンジョンコアの隣に大切に保管しておくことにした。
「ちなみにルビィ、あの魔石にどれくらい魔力込めた?」
「そうですわね、100ほどでしょうか」
「俺は100くらいだけど、多分売れば俺が魔力1000くらい使って生成した火の魔石と同じくらいの値段になるね」
つまり結構な大儲けだ。
流石にこれを気楽に配りすぎると相場がぶっ壊れて大変なことになるのが目に見えているけど、それでもデカい儲けになるのは間違いない。
ちなみに通常の魔石は産出量が増えたことによって多少の相場が下がり、逆に活用法が多岐に渡るおかげで他所から買い求めに来る商人が来ているとか。
王都が魔石の名産地として有名になるも遠くない話かもしれない。
「流石に無垢の魔石に比べると属性魔石は用途が限られるんだよね」
「左様ですわね」
だから相場には注意しないといけない。
火の魔石は魔力を込めれば火に変換することができるのと、着火する仕組みさえ用意すれば魔力を扱えない人間でも中の魔力で火を起こすことができる。
これだけ考えれば相当に便利なんだけど、高頻度の消耗品って訳でもないから供給を増やすとすぐに欲しい人間に行き渡ってしまう。
ちなみに込められている魔力の過多で変換容量が変わるらしい。
小魔石だと火の勢いがライター程度だけど、大魔石だとガスバーナーとかそんな感じかな。
ついでにこれを強い力で急速に圧縮すると、反発する力で爆発するらしいよ。
こっちはかんしゃく玉みたいなものかな。
剣に埋め込んで良い感じに魔力を制御する仕組みを作れば炎の剣とかも作れるかもしれない。
あと属性魔石は火と水と氷と光が人気で、風が普通。
土と雷と闇は不人気らしい。
あっちの世界じゃ大人気な電気はこっちの世界じゃ不人気とのこと。
まあ光の魔石あったらわざわざ電球を発明しようとか思わんよなあ。
ちなみに攻撃魔法としても雷は強力ではあるけど扱いがすこぶる難しくてあんまり人気はないんだとか。
電気を飛ばして相手に当てるのは、魔力の補助があっても難しく、それなら火球の方が扱いやすいんだって。
ともあれ、魔石が自由に使えるとまたトラップの幅が広がりそうでそういう意味でもワクワクするかな。
「ルビィは魔石を自由に使えるならどういうトラップが作ってみたい?」
「そうですわね、パネルを踏んだら雷撃が飛ぶトラップなどでしょうか」
「確かにそれは強力そうだね。個人的には氷の魔石で全面凍結ダンジョンとか作りたいかなあ」
「冒険者の嫌そうな顔が目に浮かびますわね」
「そうだね」
言って二人でクスクスと笑う。
性格が悪いと言われても否定はできないけれど、ダンジョンマスターなんて性格が悪い方が向いているだろうからこれでいいのだ。
それからも、ルビィと二人で魔石を使った悪巧みを続ける。
そのアイディアを活用するためにも、ルビィには沢山手伝ってもらおう。
「それじゃあ次は水の魔石を作ってみようか」
「はい、主様」
と言って再び手を重ねる。
二度目だけどやっぱりルビィの手の柔らかさに少しだけドキドキした。




