019.ルビィと遊ぼう!
「ルビィいるかー?」
2Fの増築が一段落して、ゆっくりする間にルビィに癒やされることにする。
声をかけながらルビィの部屋を覗き込むと、すぐに彼女の視線がこちらへと向いた。
まあルビィが俺の頼んだ用事以外でどっかに行くこともないんだけど。
「お呼びですか、主様」
「うん、ちょっと付き合ってくれる?」
「主様がお望みとあればいくらでも」
ということで新しく作った広い部屋に移動して、ルビィに道具を渡す。
「これは、なんでしょうか?」
「グローブっていう道具。左手にはめてみて」
「かしこまりました」
促すとルビィが野球用のグローブを模して俺が作ったものを左手にはめる。
「ちゃんと入ったかな?」
「はい、主様」
「どこかキツイところとかある?」
「そうですね、この辺りが少し……」
と指摘された親指の付け根の部分に手を触れて、魔法でちょっとだけ余裕ができるように作り変える。
「これでどう?」
「問題ありませんわ」
「それじゃあ、こんな感じに構えてみて」
俺もグローブをはめて、胸の前あたりで斜めにそれを構える。
「こうでしょうか?」
「うん、上手上手。それじゃあこれをグローブでキャッチしてね」
ポケットから取り出したこぶし大の革製ボールを下投げでポイッとルビィの頭上に放ると、彼女がそれをパシリと綺麗にキャッチした。
その拍子に胸がたゆんと揺れたのは見なかったことにする。
次回からは運動着を用意しよう……。
「主様、これでよろしかったですか?」
「ああうん、十分だよ。これは向こうの世界でキャッチボールって遊びなんだ。折角だしたまには運動でもしようかと思ってさ」
向こうで引きこもっていた頃は自分の部屋から出る必要性を感じなかったけど、遊ぶ相手がいると変わるもんだね。
ということでキャッチボールの概要を説明する。
そもそもなんの為にキャッチボールが存在するかと説明するために野球というスポーツのことをわかりやすく伝えないといけなかったので若干苦労したが。
「つまり、このキャッチボールを極めると大金が得られるということですわね?」
「うん、まあ間違ってはないかな」
若干の誤解があるが、まあ俺以外誰も真実を知らないだろうから放置でいいかな。
「それじゃ、今度はボールを投げてみようか」
最初は俺がキャッチしようかと思ったんだけど、もしも意図せず豪速球が飛んできて俺の頭が潰れたトマトみたいになると困るからやっぱり最初は壁に投げてもらうことにした。
ルビィに戦闘してもらう予定はないから測ったりはしてないんだけど、身体能力もちょっとヤバそうなんだよね。
ということで、最初は俺が投げるのを見てもらう。
うーん、こうやってピッチャーフォームでボール投げると野球部やってた頃を思い出すなあ。
遊びでフォークの練習しすぎて指がクソ痛くなった思い出が蘇ってしまった。
あんなん人間の投げる握りじゃないんよ。
まあそもそも投球フォーム自体が人体でやるべき動きじゃない的な説があるけど、それはともあれ。
「それじゃルビィも投げてみて」
「わかりましたわ」
ということでやってみてもらったんだけど、俺の心配は的中せず、ルビィは見事な女の子投げだった。
「主様のように上手く出来ませんわ……」
「あはは、俺も左で投げようとするとそんな感じになるから大丈夫だよ」
実際に左手にボールを握ってやってみると山なりでコツンと壁にぶつかったボールがそのまま戻ってくる。
わりとボールを投げるのってそれ自体が高等技術なのよね。
「とりあえず、フォームをゆっくり動かしてみて」
ということでルビィのフォームを何度か修正してみる。
「ストップ。ちょっと動かすよ。肘が前に出る時はもっと高く上げて、そこから鞭をしならせるような感じで……」
後ろから腰を支えつつ、肘と腕の動きを一緒に動かして慣らしていく。
触れるルビィの身体は凄く柔らかいのに実際の出力はヤバいのが不思議だ。まあ魔力の力なんだろうけど。
それを三回くらい繰り返すと、ルビィはすっかりピッチャーフォームを習得していた。
「うん、これなら甲子園でも戦えるよ」
「甲子園、ですか?」
「そうそう、凄い人が集まる所ね」
実際慣れたルビィの投げる球は、その常人以上の身体能力も相まって殺人兵器のような様相を呈している。
結構な音を出しながら壁にぶつかったボールが遠くへ転がっていくと、この前召喚したうさぎさんが咥えて持ってきてくれた。
それを受け取ってからよしよしと長い耳の根元を撫でてあげるとうさぎさんは気持ち良さそうにきゅっきゅと鳴いている。
かわいい。
流石にルビィの本気を受けたら俺も危ない気がしたので、もうちょっと手加減をしてもらってキャッチボールを始める。
実際に向かい合うと、腕の振りに合わせて大きく揺れる胸に加えてちらりと見える腋がちょっと刺激的だったけど気にしないようにしておく。
「もう俺よりずっと上手いなルビィは」
「主様の指導のおかげですわ」
「そう言ってもらえるとありがたいけどね」
まあ殆どはルビィの才能だろう。
ともあれ、二人でパンパンとボールを投げあってるとそれだけでも結構楽しい。
自分で投げるのもだけど、ある意味偶に逸れるボールをキャッチするのが楽しい気がするんだけどなんでだろうか。
「そういえば、こういうのもあるんだよ」
と言うだけ言って、ルビィにボールを放るとその球がグラブの直前で横に曲がる。
パシン。
良い音がしてルビィがグローブに収まった球を不思議そうに眺めた。
ルビィの身体能力なら大丈夫だろうと思ってどっきりで投げたけど流石の動体視力と運動神経だ。
「今のは、何をなさったんですか? 主様」
「変化球って言って、ボールを曲げることができるんだ」
「それは魔法か何かですの?」
「あはは、ある意味そうかもね」
原理を知らなきゃ本当に魔法と変わらないだろう。
昔はそもそも変化球っていう物の存在自体が懐疑的に扱われていたなんて言うしね。
ということで試しにルビィにカーブを教えてみたら、肉眼でも余裕でわかるレベルでぎゅんぎゅん回転してる球がピンポン玉みたいに曲がるようになった。
超ウケる。
途中から俺が腰を落として本格的にルビィのピッチングを受けたり、逆にルビィにキャッチャーになってもらって変化球の練習したりしたけど、ルビィも結構楽しんでくれたんじゃないかな。
「お疲れルビィ、付き合ってくれてありがとね」
「いえ、わたくしも楽しかったですわ、主様」
「それなら良かった」
気持ち良さそうに笑うルビィは汗で髪が肌に張り付いていて、普段とはまたちょっと違う魅力に溢れていた。
ちなみにキャッチボールの成果は、最終的に俺の知る限りの変化球の握りを教えるとルビィはあっちの世界の人間のスペックじゃ投げられないレベルの魔球を編み出していた。




