017.収益配分と治癒係
「んー」
俺がペンをくるくると回しながら声を漏らす。
「どうにか魔石の消費を抑えたいよなあ」
魔石を生成してお宝として冒険者に配る=その分魔力を消費するということなので、できるなら一番抑えたい所がここになる、んだけど。
「冒険者の稼ぎを考えたらやっぱりそこそこは配らないと人来ないよなあ」
シルバーランクの冒険者なんかは10日程度でも金貨1枚以上を稼ぐなんて言うから、それ相応の稼ぎを配らないとって話になるんだけどそれが難しい。
俺だったらギルドの報酬で月給金貨1枚あったら、最低でもそれと同じくらいの稼ぎが見込めないとわざわざダンジョンなんて来ないもんなあ。
「んー」
と再びペンを回すと、近くに居たルビィに声をかけられる。
「主様、少しよろしいですか?」
「どしたの?」
「この配分なのですが、もっと低くても大丈夫かと」
この配分、というのは冒険者に配るための魔石の想定支出の欄。
「その心は?」
「主様は外で依頼をこなした場合の報酬と同程度を前提と考えていらっしゃいますが、このダンジョンに来る冒険者にその考えは必要ないかと」
「つまり、平均的な稼ぎは期待してないと?」
「左様ですわ。おそらくですが大きく稼ぐ一部の人間がいれば、それ以外の人間はそれを見て当ダンジョンに潜りに来るのではないかと」
「あー、なるほど」
つまり、当たれば大当たり、外れれば儲け無しの一種の賭博みたいなものか。
あっちの世界でも、ガチャ10連3000円は高すぎだろって言われても大人気だったしな。
某競馬アプリが流行った時に、競馬の還元率は75%、宝くじの還元率は50%だとか聞いた記憶がある。
殆どの人間が損をするという前提でも、大きく当たる可能性があるなら人は金を出すという理屈は一理あるかもしれない。
そもそも冒険者という職業に平均化して安定した稼ぎをっていう前提が間違っていたのかもな。
「それに、当ダンジョンは冒険者の命を取ることを目的としておりませんから、そういう部分でも冒険者の挑戦のハードルは下がるかと」
「確かにそうだね。ルビィは賢いなあ」
つまりアプリゲームのガチャと同じようなものと考えればいいのか。
「宝箱開けたら虹色に光るようにでもしようかな」
という訳でダンジョンの控除率は冒険者から得られる金品総額の5割と仮に決めてみた。
もしこれで冒険者があんまり来なかったら、デカ目の魔石を配ってみて客寄せにしよう。
やっぱりルビィが居てよかった。
「スライムはやっぱり優秀だね。召喚するための魔力はそんなに多くなかったのに」
冒険者を現在進行形で撃退している当ダンジョンだが、スライムくんはエースとして大活躍してくれている。
不意打ちで冒険者に取りつかせたり、魔術師だけ地形で分断したり、そもそも炎を出せない狭い所に誘い込んだりと活用法は様々だ。
「魔力の総量が全てではありませんから。当然内包される魔力の量が大きければ強くはなりますが、それ以上に魔物の特性を利用するのが重要ですわね。その点主様はお見事かと」
「ありがと。でも半分はルビィのアドバイスのおかげだよ」
スライムの性能を教えてもらって活用法も一緒に考えたので、その成果の半分はルビィの手柄だ。
「他にも魔物を召喚いたしますか?」
「そうだなー、あんまり撃退用の魔物は必要ないかもね。ああでも魔法使い対策はあった方がいいかな。基本的に地形作成とトラップが有用だからそれ以外はスケルトンとスライムで間に合う気がする」
それに魔力の節約にもこの二つは優秀だ。
まああんまり同じ魔物しか出てこないと冒険者に飽きられそうだからそういう意味でも変化はつけたいけど。
とはいえその辺はもうちょっと階層が増えてからかな。現状の戦力で変化をつける腹案も一応あるし。
「そうだ、魔法使える魔物って居たりする?」
「どういった魔法がお望みですか?」
「一番欲しいのは治癒魔法かな」
「そうですわね……、戦闘と治癒魔法を両方使えるようなものは召喚する魔力も大きく難しいですが、治癒のみを求めるのであれば召喚可能かと。それでもあまり大きな治療は難しいかもしれませんわ」
「とりあえず、打ち傷切り傷と体の内部の不調を治すくらいできればいいかな。もちろん切れた腕を生やせるくらいの治療ができればそれはそれで嬉しいけど」
「後者は難しいかもしれませんが前者は可能でかと」
「じゃあそれで、候補を教えてくれる?」
「はい、主様」
ということでルビィが魔導書をパラパラと捲って挙げてくれる候補の中で目に留まったのがこれ。
「自立魔導人形ですか。こちらは戦闘力は全くなく、治癒と身の回りの世話をするためだけのものとなりますがよろしいですか?」
「うん、特に女性型っていうのが気に入った」
「主様……?」
「いや、違うんだよ。別に俺の趣味がどうこうって話じゃなくてね。そもそも論として治療を必要とするのは現状捕虜だけってことになるんだよ。それならなるべく警戒心を持たれず親しみやすい姿の方がいいじゃん? 治療するのに一々怯えられても面倒だし」
あとダンジョン内で動くのが難しいような怪我をした相手を出向いて治療する必要もあるしね。
「なるほど、つまり他意はないと」
「……」
「主様ー?」
「いや、冗談だよ冗談」
「まあ主様がお望みでしたら他意があろうとわたくしに止める権利はありませんが」
「なに言ってるんだ、俺の隣にいるのはルビィ一人で十分だよ」
まあルビィが俺に苦言を呈しているのはルビィ以外の相手を求めているように見えることよりも、我欲に負けてダンジョン運営よりもそちらを優先したように見えたからだろうけれど。
そもそも行動と実績で示さなければ信用されないのは当然なので別に気にしない。
まず自分が、ちゃんと目的を見間違えないように意識していればそれでいいのだ。




