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114.あったかい

「はい、完成」


生成魔法なら作る作業は一瞬なので、さほど時間がかかることなく暖房器具が完成する。


「少し、奇妙な形になりましたわね」


「そうだねー」


出来上がったそれは平たく四角い台座の中央に火を出すための穴が開いており、その穴の周囲を6本の鉄棒が囲っている。


そして台座の側面にはつまみが一つ。


はい、どう見てもガスコンロです。本当にありがとうございました。


「このつまみで火力を調整できるのですわね」


「そっちの方が便利だろうしね」


ちなみにこの仕組みは魔石から吸い上げる魔力の量によって火の強さを変えられるようにしているので、仕組み自体も完全にガスコンロである。


「ところで主様、この囲いはなんの役割なのでしょうか?」


「それは鍋を乗せる台座だよ。だからこれは調理器具でもあるね」


「なるほど」


流石に暖炉オンリーだと寂しいかなということでガスコンロの仕組みも取り入れてみたんだけど、もはやただのガスコンロじゃんとつっこんではいけない。


まあこっちの世界じゃそうツッコミができる人間もいないけどね。


あとこっちの鍋は底面が半月状がデフォなので、六本足の台座は安定するように広めに幅を取ってるよ。


そんなこともあり食卓に乗せてすき焼きに使うようなガスコンロよりは一回り大きくて厚さもあるからずっしりしてるので、あっちの世界の人間が見たら原始的な印象を受けるかもしれない。


昔の家電って今より全体的に大きかったよね、ブラウン管テレビとかCDコンポとか。


「火の勢いを一定に保てるのは、確かに料理に活用できるかもしれませんわね」


「こっちの世界じゃ弱火を維持するのもめんどくさそうだしね」


当然この世界で料理をするなら薪や炭で過熱をするわけだけど、それで火力を維持するのがめんどくさそうなことは想像に難くない。


その点これならコンロのつまみを調節すれば、魔石が尽きるまでは同じ火力でじっくりコトコト煮込むことも可能だ。


あー、スープを煮込んだラーメン食いてー。カレーでも可。


「あと火力は十分あるから、ちゃんと暖房にも使えるよ」


実際につまみの位置を最大火力に合わせると、家庭用コンロの数倍の熱量で炎が上がる。


「これで料理をしたらすぐに丸焦げになりそうですわ」


「直火じゃなくてもすぐに真っ黒だろうね」


これには火力が命の中華料理人もご遠慮したくなるだろう。


とはいえ室内暖房として考えるならこれくらいはやっぱり欲しいところではあった。


「あと危ないからこれね」


よいしょと金属製の器具を持ち上げてガスコンロに覆いとして被せる。


引火防止用に乗せたそれは円柱状の柵が取り付けられて、装着後はガスコンロから筒状ストーブに様変わりだ。


筒の高さは50センチ、幅は30センチほど。


天板は火傷防止に断熱素材を使っているので物を載せても大丈夫なはず。


あと溝をはめる形で固定してるから簡単に倒れたりはしないはずだけどそれでも火事には気を付けてほしいかな。


「ところで主様、中央の筒はなんの部品なのでしょうか?」


ルビィが指摘したのは防護柵の更に内側、下からの火が直接当たる位置に設置された金属の筒。


この金属は蜂の巣のように均等に穴が開いた形状に加工されている。


「これは熱を均等に広げる為の形状かな」


まあ前世の記憶のまま再現しただけなので機能は当てずっぽうだけど。


たぶん穴から360度に満遍なく放熱する為の形状、だと思う。


「確かに、何もないよりも熱が外へと広がってる感覚がありますわね」


熱は上に逃げる性質上、そこに蓋を付けたから横に熱が流れるようになったって理由もあると思うけど、どっちにしろ暖房としての機能は上がってるので無問題。


「んじゃしばらくは試運転しておこうか」


「はい、主様」


頷いたルビィと一緒にストーブから少し離れたソファーへと並んで腰を下ろす。


至近距離では顔が照らされて肌の乾燥が気になるほどだった熱気も、数歩離れればエアコンの弱暖房程度の快適さだ。


「魔石の消費が心配だったけど、一先ずは大丈夫そうだね」


「そうですわね。最大火力でも目に見えるほど減ってはいきませんし、勢いを抑えれば冬の間は常用できる程度にはなるかと」


それも裕福層を前提とした話だけど、夜中も使うようになるとそれはそれで火事が怖いかな。


今の家庭にも暖炉は存在するんだし、こっちの作った機構に問題が無ければ自己責任で済むか。


「結局流通させるにはいつもの買取商に持ってくし、そこで試験運用でもしてもらおうか」


なにか問題があればそこで確認してもらえるだろう。


「魔石の需要増加は見込めますが、素材の金属が多い分だけ利益が出るかは確認しないといけませんわね」


金属自体は冒険者から回収した武具を主な素材にしている訳なので、売れば儲かるから儲かるだけ作るなんてしていると材料が先に無くなってしまう。


なら儲けた金貨で集めればいいかと言われれば原材料の不足から相場の高騰って流れになったらそれはそれで困るし、魔力で直接生成するにはそっちもちょっとコストが気になるレベル。


絶対にノゥって選択肢でもないけれど、慎重に検討しておきたいくらいには原材料が気になる部分ではあった。


「やっぱりこれが使えるだけの裕福層への需要次第かな。今相場自体はどれくらいだっけ」


「無垢の魔石は前回のランタンを販売する前よりまだ高いですわね。光魔石の相場も同様で、他の属性魔石は緩やかに下降中となっていますわ」


ランタンに使う魔石はその需要が生まれてから一時的に相場が上がり、そのあと緩やかに下降しているがそれでもまだ値段は戻っていないとのこと。


光魔石の方は魔力を光に変える変換器としての役割のみですぐに使い切ることはないんだけど、それでも変換のために徐々に内在する魔力は消耗していくから一定の需要は生まれている。


それに今では王都が魔石の産地としてランタン共々それ以外の土地に出荷されていくので産出量が増え続けても相場の下落はとても緩やかだ。


「んじゃこれからは火の魔石の産出を増やしていこうか。ストーブ以外にも冬なら需要は増えるだろうしね」


「それがよろしいかと思われますわ」




話が一段落し、隣に座るルビィと共に正面へのストーブに視線を向ける。


「暖かいねぇ」


「そうですわね」


こうやって少し距離をとって暖房に当たると、なんだか眠気を誘うような心地好さがあった。


「たまにはこうやってゆっくりするのも悪くない、かな」


「主様は忙しく働いていますから、たまにはゆっくりされるのもよろしいかと」


「それを言ったらルビィの方が働いてるでしょ」


「わたくしは休まなくとも苦にはなりませんので」


まあルビィは文字通り、仕事が生き甲斐だからそういうものなのかな。


「それじゃあ今も仕事したい?」


「そうですわね、ダンジョンの為に働くのも良いですが、こうやって主様と一緒に過ごす時間も嫌いではありませんわ」


「それなら良かった」


もし暇してるなら無理やり付き合わせるのも心苦しいしね。


「それじゃふたりで一緒にゆっくりしようか」


「はい、主様」


そう言ってから俺が本格的にゆっくりする体勢になってソファーに深く身を沈めると、同じように力を抜いたルビィと互いの肩が少しだけ触れた。


そのまま互いに寄りかかると、頭の距離がゼロになってコツンと当たる。


「そういえば、ルビィの冬服も用意しないとね」


今の格好は肩だしのセクシーなドレスなので目には嬉しいけど外に出たらどう見ても寒そうすぎる。


「主様が選んでくださいますか?」


「ルビィがそれで良いなら、喜んで」


「それではぜひ、お願いいたしますわ」


ルビィの生肩を見れなくなるのは少し寂しいけど、それもまた来年のお楽しみかな。


そんなことを考えながら目を閉じると、ストーブの熱気と共にルビィの体温がより鮮明に感じられるようになった。




うん、あったかい。



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