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108.セッション

「んんー……」


「どうかなさいましたか、主様」


いつものようにコアルームで俺が声を漏らすと、ルビィに声をかけられる。


「聖典読むの飽きた」


「それでは、別のことをなさいますか」


「ふっ、ルビィのそういうところ好きだよ」


「ありがとうございます、主様」


ルビィの甘やかしが止まらない。


まあ聖典はもう半分以上読んでるから、このまま聖女様に会いに行っても問題ないっちゃ問題ないんだけどさ。


明後日聖女様に会いに行くことを考えると、全部読みきるには頑張らなきゃいけないからそういう点でも面倒なんだよね。


うん、やめた。


「それじゃあなにをしようかな」


よし決めた。


ということで俺が右手を出して生成魔法を使うと、30センチくらいの筒状の物体が生成される。


「それは、なんでしょうか主様」


「これは笛だね」


もっと言うとリコーダーという正式名称だ。


完全に雰囲気で作って見たんだけど、頭の部分をキュポッと外して確認してみるとちゃんと穴が空いているので音は出せそうかな。


流石に穴が詰まっててブブッてなったら恥ずかしいしね。


「ん」


ということで笛先に口をつけて息を吹き込む。


プピーという音に続いて穴を指で押さえると、音程が変わるのてそのまま一曲吹いてみる。


曲はお馴染み、エーデルワイスね。


手癖で吹き始めたんだけど案外覚えているもので、一曲吹き終わるとパチパチとルビィの拍手が響く。


本当に感心したような表情で、彼女のそんな表情を見るのは珍しい。


小学校の頃の音楽の授業がこんなところで役に立つとは、世の中何が起こるのかわからない。


見た目で言えばフルートとかサックスとかの方が好きなんだけど、あいにくその辺は上手く吹けないのでパス。


まあフルートは俺が吹いても似合わないだろうけど。


サックスはカッコいいよね。管楽器なら一番好き、見た目が。


あとどっちも正しく音が出る構造を再現できる気がしないんだよね。


その点リコーダーは形状も構造も実際に何度も触って頭に入っているので安心だ。


それからもう何曲か披露してルビィの拍手に気持ちよくなってからリコーダーを置く。




「んー、じゃあ次は」


次に作りたいものを頭の中で思い浮かべる。


んー。なんか足りない気がするな……。


完成のイメージ図がなんとなく物足りない気がしたので、ひとまず椅子を作ってそこに腰掛ける。


ちなみに腰掛けの部分をくるくると回すと高さが調節できるオプション付き。


この時点で勘が良い人はなにを作りたいのか予想できるんじゃないかな。


それから俺は目をつぶって、あたかも実物がそこにあるかのように素振りをしてみる。


んー、んー。


よし、たぶん大丈夫。


ということで目を開けると同時に、生成魔法を発動させた。


その結果出来上がったのはドラムセット一式。


うん、ちゃんと揃ってるかな。


そこから追加でスティックを両手に作り、手首のスナップを効かせるようにドラムを叩く。


ダカダカダカダカ……。


一番近くのドラムからシンバルとフットペダルを合わせて音を広げていくと一気に賑やかになる。


うーん、懐かしい。


ゲーセンでドラム叩いてた頃のことを思い出すね。


もうだいぶ昔のことだけど、それでも一曲再現するくらいのことはできる。


まあドラムの音だけあってもあんまり盛り上がる感じでもないんだけどさ。


「主様は多芸ですわね」


「ありがと。でもこれくらい普通だよ」


リコーダーは義務教育の範囲内だし、ドラムもゲーセンで遊んで覚えた程度のものである。


ついでにゲーセン式だからリアルのバンドじゃ使えないしね。今はドラム単独だから誤魔化せてるけど。


「ルビィもやってみる?」


「教えてくださいますか?」


「もちろん」


ニッコリ笑って席を交代。


「とりあえずスティックは軽く握って。それで手の中で揺らすようにこんな感じ」


「こうでしょうか?」


「そうそう上手上手。それじゃあ次はフットペダルを……」


といった感じに椅子に座るルビィへと後ろから手を添えて基礎を教えていくと、すぐに上達して指導もいらないくらいに上手くなった。


俺なんて手と足で別のリズム取るのに最初は苦労したのに、もうルビィはその点も完璧だ。


「ふぅ……、もう俺から教えられることなんて何もないよ。免許皆伝だ」


「大袈裟ですわ、主様」


とはいえもうドラムの技術について俺が教えられることなんて無いのも事実だ。


「それじゃあ最後にスティック回しでも教えようか」


ということでドラムのスティックを手の中でクルクル回す遊びを教えてあげる。


まあそれもルビィはすぐに習得したんだけど。


どうでもいいけど、スティック回してる手ってよく見るとちょっとえっちだよね。


何言ってるのかわからない? アッハイ。


そんな感想を浮かべながら、折角だしルビィとセッションでもしようかと思ったけどよく考えたらドラムと合わせられる楽器がないことに気づく。


うーん、ギターならゲームで触ってたからワンチャンあるんだけど、問題はエレキじゃないと音が負けそうってことだよね。


ならエレキって言いたいけど流石に電子機器は生成魔法でも作れない。これは以前ゲーム機を作ろうとして失敗したから間違いない。


同じ理由でキーボードもボツ。まあそっちはそもそも音を調整できないけど。


トランペットとかサックスはそもそも吹けないし。


そういえば王城にはトランペットみたいな管楽器もあるって聞いたし、複製して新しく練習してみようかな。


どうせ時間はあるし。


でも作るならやっぱりトランペットよりもサックスが良いかな。


理由は見た目の印象10割だけど。


あとボーカルは論外。


歌とか陽キャの文化すぎて引きこもりに求めるものじゃないんよ。


幸い学生時代に『バンドメンバー募集。当方ボーカル希望』とかいう黒歴史を作ることもなかったし。


ともあれ、今必要なのは音量だ。


「なるほど……、それでは魔術で音量を上げてはいかがでしょう?」


「それだっ!」


唐突だがエレキギターの仕組みをご存じだろうか?


エレキギターは弦の下の位置に埋め込まれたピックアップという磁石で音を拾い、その音をスピーカーに繋げて爆音を発生させるというものである。


ということでそのピックアップに音を蓄積する特殊な鉱石を使い、それを音を伝えるエンチャントした金属ケーブルで繋ぐ。


最後に音量を増幅させるエンチャントを施したスピーカーでドラムに負けない音を発生させるという仕組みで完璧だ。


うーん、まさか昔楽器屋でバイトしてた経験が活きるとは……。


特にエレキの分解とメンテはよくやらされたしね。


ということでエレキギターの完成。


スピーカーの摘みを捻ってから弦を弾いて音を鳴らすと、ギュイーンという電子音が響く。


よく考えたらこれも大抵こっちの世界では凄い発明なのでは?


まあいいか、思いついたの俺じゃないしね。


ジャーンジャーン。


うーん、ご機嫌な音だ。


「折角だし一緒に鳴らしてみようか」


「よろしいのですか?」


「もちろん」


俺が頷いてから促すと、ルビィがタンタンタンとスティックを鳴らしてからドラムを叩く。


それに合わせて俺がギターを鳴らすと、拙いながらも即興のセッションが成立する。


ルビィは基本的なリズムの繰り返しだし俺の技術もお察しなので本当にお遊びレベルだけど、それはそれとして音を合わせるって行為は中々悪くない。


まあ人と合わせるなら極論カスタネットとかトライアングルとかタンバリンでも盛り上がれるしそういうものなのかもしれないね。


そんな中でルビィが音の拍子と密度を一段階上げたので、それに合わせて俺も指の動きを少し早める。


うーん、やっぱりあっちにいた頃よりも指の反応が良い気がするかな。


今ならゲーセン行けば個人ハイスコアも更新できそう。




ということでそこからもセッションは盛り上がり、最終的に俺がジャーン!と盛大に鳴らしてからルビィも続いてシンバルを叩いて曲を締めた。


ふぅ、と一息つき、首からストラップを外してギターを置くと、数キロの重さか解放された首が軽くなったような感覚だ。


地味に重いんだよねエレキギター。


まあ魔力が原動力のこれをエレキと呼ぶのは明らか間違ってるけど、外に持ち出す予定もないので気にしないでおく。


「初めてのセッションはどうだった、ルビィ?」


「そうですわね、なぜだかとても胸がドキドキしていますわ」


「それは多分俺も同じ気持ちだよ」


「主様もですか?」


「うん」


その感覚は言葉にするのは難しいけれど、ダンスを一緒に踊った時のような気持ちなのかもしれない。


一体感と高揚感と言葉を使わずにコミュニケーションと取っている感覚は、一言で言えば気持ちいいという感覚だった。


「主様」


「なにルビィ?」


「もう一度、よろしいですか?」


「もちろん。ルビィが望むなら何度でも」


「ありがとうございます、主様」


ということでそのセッションは、俺の肩が上がらなくなる真夜中まで続いた。

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