105.24F-26F②
「こんにちは。皆様は始めましてですね」
ここは牢獄が並ぶ区画の中。
俺はいつものように仮面をつけて冒険者対応モードで話しかけている。
「お前は?」
「私はこのダンジョンの捕虜担当をしている者です」
「つまり私たちは捕まった、ということですね」
牢屋の中にいるパーティーメンバー五名と、そこに外から話しかける俺という構図は、その言葉の通り。
「私のせいでごめんなさい~~~!」
「クドリャフカはんのせいやないから、気にしなくていいんよ」
まあ実際に一番責任があるのは探査役の彼女だろうけど。
とはいえこれまで階段は完全なセーフゾーンであり、24階層から25階層への螺旋階段もなにも仕掛けられてなかったという前提で、全員が警戒する意識を持っていなかったので彼女ばかりを責める訳にもいかないだろう。
そんな共通認識で、前衛の大盾使いがこちらに顔を向ける。
「罠にかかったのは事実だが、それでも一発転送はちょっと卑怯なんじゃねえか?」
まあ転送陣の問答無用さに文句をつけたくなる気持ちも分からなくはない。
とはいえこれも罠の一種なので提示している前提の範囲内だ。
「ダンジョンとしては戦闘不能に近い状態を投獄の基準の一つとしております」
「私たちはまだ十分に戦えますが」
「そうですね。ですがテレポーターに関しては、そのまま全員を戦闘不能な状態にする、ということも可能です。とはいえその手間は必ずしも必須ではないので省略して直接投獄する、という形になりますね」
密室に転送してから衰弱する限界まで待つとかもできるけど時間の無駄だしね。
まあ要するに、普通のダンジョンなら即死してもおかしくないところを投獄で済んでラッキーって思ってくれって話である。
そんな俺の説明でこれ以上の抗議は無駄だと悟ったのか言葉が途切れた。
「それでは最初に確認しておきますが、ギルドでの解放金の契約はなされていますか?」
そんな俺の質問に、弓使い女性が代表して頷く。
「結構です。それではこの後皆様には独房に移動していただき、順番に質問に答えていただきます。それを終えれば予定は終了となりますので、翌朝の支払いと共に解放となります。既に他の冒険者様から聞いてご存じでしょうが、質問は簡単なものなので正直に答えていただければすぐに終わりますのでご安心ください」
彼らは捕まるのが初めてとはいえ、他の冒険者から捕まったらどんな流れになるかは聞いているだろう。
そんな共通認識は、細かい説明の手間や説得パートが省けるので有り難い。
それからこの空間は転送陣で隔離されているので脱獄は不可能であること、俺には人質としての価値はないので無駄なこと、あとルールに従わない者には相応の対処をすることを伝えておく。
「ちなみにこれは虜囚の立場に限りませんが、ルール違反を犯した上でダンジョンの外まで逃げおおせた場合には出入り禁止措置をさせていただきますのでご承知ください」
「出入り禁止なんでできるん~?」
「ダンジョンの入り口で進入拒否とは出来ませんので、正しくは『戻ってきたらどんな方法を使っても相応の罰を受けさせる』処遇となりますね」
「それは怖いな~」
「とはいえこちらはルール違反者への措置ですので、ルールを守って探索していただければ問題はありませんよ」
実際にルール違反で処罰される冒険者がほとんどいないというのは実績として証明されているので、一行の顔に露骨な警戒の色はない。
「それでは、申し訳ありませんが皆様には少しだけ寝てていただきますね。危害は一切加えませんので、安心してお休みください」
なんて言っても実際に安心する冒険者はいないだろうが、そんな本人たちの意思とは関係なく白い煙が牢へと流れ込む。
これは睡眠効果のある煙で、一人一人をそのまま独房へと運ぶとなんか間抜けかなあと思ったので実装したものである。
粉自体は宝箱の罠にも仕掛けている特別でもないアイテムだ。
通常なら捕まえる時点である程度は戦闘不能になっているケースが多く、一人ずつ独房に直送できるので、そういう点ではテレポーターは後処理がちょっとめんどくさいかな。
特に逃げ場の無い牢屋の中であれば問題なく全員を眠らせることができる効果がある、はずだったのだがそんな中で一人だけ目を開け続けている冒険者がいた。
「貴女はなんで寝ないんですかね……?」
「んー、多分これのおかげだと思うんよ~」
そう答えた狩人の女性は、自分の指輪をこちらへと見せる。
なるほど、対睡眠のエンチャントかあ。
かなり珍しい類いの品物だから予想してなかったわ。
あんまり長時間眠らせるつもりもなかったから、煙が効果弱めの物なのも原因だろうけど。
「スケルトンメイジ、ちょっと来てくれる?」
俺が呼ぶと隣まで来たスケルトンメイジに指示をして、彼がキファーと呼ばれていた女性冒険者へと杖を向ける。
そのまま『落睡』の術が放たれるが、やはり彼女には効かなかった。
「うーん、やっぱり効きませんね」
呪文ならワンチャンと思ったけど、やっぱりダメらしい。
「申し訳ないんですけど、その指輪外してもらっても良いですか?」
「うちが寝ても酷いことしないでくれるん?」
「それはもちろん」
「ん~……」
笑顔で答える俺だが、彼女にはイマイチ信用されていないようであった。
まあ仮面を着けてるから営業スマイルは見えないんですけどね。
それに不意打ちの睡眠粉も心証は良くないだろうし。
「わかりました、それでは指輪はそのままで結構です。その代わりに両腕を出してもらえますか?」
ということで躊躇いながらもこちらへとグーの手を出す彼女へと、鉄格子越しに手枷をはめる。
「やっぱり酷いことするん……?」
「しません。ちゃんと独房に着いたらこれも外して差し上げますよ」
実力行使で眠らせることも出来なくはないけど、別にそこまで眠らせることに拘る必要もないので彼女には自分の足で移動してもらおう。
まあ今指輪没収しなくても後で装備は全没収なんだけどさ。
ともあれ折角なので彼女には余計なことをしていない証人になってもらおうかな。
という理屈で牢の外へと促した彼女に続いて、他の四人を四体のスケルトンが抱き上げて運び出す。
「おにーさん、うちもあれしてくれる?」
あれと言うのはスケルトンに抱き上げられている様子のことだろう。
なにが気に入ったのかはわからないが、彼女も運搬されるの希望らしい。
スケルトン自体はもう一体連れてきているので出来なくはないのだが、とはいえめんどくさいのでそのまま話を進める。
「貴女は起きてるんですから自分で歩いてください」
「えー、いけずやわあ」
「はいはい」
文句を言いながらも誘導にはちゃんと従う彼女を連れて、俺はそれぞれの独房へと冒険者を運んで仕事を済ませた。
「あとひとつお願いがあるんよ、おにーさん」
最後に独房に入ってもらった彼女に、去り際に声をかけられて足を止める。
「なんでしょう」
「お湯を使わせてほしいんよ~」
そう希望する彼女の姿を見る。
元々は膝下までの水位とはいえ、その中で行軍してきた彼女の服はかなりの部分まで濡れて肌に張り付いていた。
探査担当の彼女は動き易く身体のラインにフィットした装備をしているので、余計に張り付いて動きづらいのかもしれない。
まあこのまま風邪を引かれても困るし、それに彼女は温泉を楽しみにしていたという流れもあるのでこのまま放置するのは酷だろうか。
「わかりました、それではあとでお持ちしますよ」
「ありがとうな~」
「いえ、それではまたあとで」
ということで多少もたつく部分はあったが、虜囚の移動は問題なく完了した。




