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104.24F-26F①

「またか」


24階にたどり着いた冒険者の一行、その先頭を歩いていたオーグが呟く。


大盾を左に携えたその男が階段から足を下ろすと、彼の巨体に相応しい大きな水しぶきがあがった。


「深さは前と変わらないようですね」


オーグに続いて水面へと足を入れたカタリナが、膝下まで水に浸かった足元を見てそう分析する。


彼女はオーグと共にこのパーティーの前衛を務めているが身長はそこまで高くなく、相対的に足元の水の抵抗には苦労をしている様子が見えた。


「早く戻ってお風呂に入りたいんよ~」


そう愚痴をこぼすキリエは、最近ダンジョンで発掘された弓を握っている。


話す言葉に独特なイントネーションを持つ彼女は、こことは離れた土地の生まれだろうか。


罠の探知役も兼ねる彼女は、前衛より一歩遅れてその目を光らせていた。


そしてその後ろに魔術師のケフと治癒師のクドリャフカが並んでいる。


後ろの二人はあまり自分から喋らない性格で、結果的に前の三人がよく口を動かしつつ24階層を進んで行く。




「オーグはん、ストップ」


前衛の二人の内、更に半歩前を歩いていたオーグをキリエが制止する。


それに合わせて進行を止めた一行は、停止指示を出した彼女の矢をつがえる動作を見て意図を察した。


「ケフはん、よろしゅうな」


言われた魔術師のケフが無言で頷くのを見てから、通路の先の空間へと矢が放たれる。


風切り音と共に離れていく矢は暗闇に飲まれた先でカンッと小さな音を立てた。


「ゴーレム、来るえ!」


矢とぶつかり合う音で判断したキリエが警戒を促すと同時に、攻撃を感知した魔物の一行が水音を立てながら接近する。


「ゴーレム1、リビングアーマー2、スケルトンメイジ2!」


持ち前の視力でいち早く敵を判別したキリエの分析で、ケフが魔術を準備する。


少しだけ敵を引き付けてから、左右に別れたスケルトンメイジの内、ゴーレムの影にならずに狙いやすい方へとケフは狙いをつけた。


『爆炎』


彼の杖の先から放たれた火球は緩く放物線を描き、床に落ちる前に爆ぜた衝撃でスケルトンメイジとリビングアーマーの一体ずつを無力化する。


それに呼応して魔術を放とうとしていたもう一体のスケルトンメイジは、ゴーレムの脇の隙間からキリエに弓で狙い打たれて首を飛ばされる。


「あとはお願いするんよ~」


「応!」


「任されました!」


残りの魔物はゴーレムとリビングアーマーが一体ずつ。


脅威度が高いのはやはりゴーレムだろう。


そのゴーレムは、背丈を越える丸太を握り距離を詰めて来ている。


「オーグ、ゴーレムの相手はお任せを」


「ああ!」


丸太を握ったゴーレムの間合いはほぼ通路の幅全域に及ぶ。


そのためオーグとリビングアーマーがその間合いの外側で睨み合う状況が生まれ、ゴーレムの正面に相手取るカタリナはスッと摺り足で距離を詰めた。


同時にゴーレムが丸太を横に振り抜く。


その勢いは凄まじく、当たれば前衛であっても大怪我は必須であろうそれをカタリナは避けずに更に一歩踏み込んだ。


同時に彼女が振った刀は丸太と正面からぶつかり合い、そのまま軌道を曲げずに振り抜かれる。


壁に物が当たる硬い音に遅れて、水しぶきがひとつ。


切り落とされた丸太の先端が水へと沈んでいた。


「刀は無事のようですね」


カタリナが自分の握る刀を観察して刃の無事を確認する。


彼女が握るのはこのダンジョンの宝箱から算出したので、強度上昇のエンチャントが施された物。


それによって通常のロングソードなどよりは高い強度を保っている刀なのだが、振るうカタリナは新しく刀の修練を始めた者なので性能を確かめるような運用となっていた。


とはいえゴーレムの丸太に合わせて切り落とす技の切れ味は、既に十分それを使いこなせていると言えるだろう。


そして再び迫り来る丸太を前に、カタリナは先程とは逆に刀を振り抜きそれを切り落とす。


この時点でゴーレムの握る丸太の残りは元の7割程度。


今度はそれが全力で振り下ろされるのに合わせて、踏み込んだカタリナが垂直に切り上げる。


「オーグ、あとは任せます!」


「任せときな!」


邪魔な丸太をほとんど根元から切り落として無力化したカタリナは、隣でリビングアーマーの処理をしていたオーグへと立ち位置を交代する。


無手となったゴーレムが今度は自信の拳を武器として振り下ろした腕を、オーグは握った大盾で正面から受け止める。


背丈ほどもある金属盾が甲高い音を立て、その衝撃でオーグの体が後ろへと持っていかれる。


それでも水中で踏ん張り受け止めたオーグが、右手の大鎚をゴーレムの腕へと叩きつけた。


その衝撃で弾き飛ばされた腕をカタリナが斬りつける。


「こちらも問題はなさそうですね。この調子で行きましょう」


丸太より硬いゴーレムの本体を斬りつけた自分の刀の無事を確認したカタリナが再び距離を取り、オーグが受けてカタリナが削る作業を繰り返していく。


「クドリャフカ、治癒を頼む」


「あ……、はいっ。『癒しの恵みよ』」


オーグが要求したその術で、ゴーレムの拳を受けて痛みを感じてきていた腕が癒やされる。


その術は弱い治癒の効果を長期的に発生させるので即座の治療には不向きだが、こういった耐久作業には適した選択であった。


それからほどなくして、オーグが受け止めた腕を鎚で叩きつけると、カタリナが入念に削っていた部分から砕けて折れる。


「ここまでは順調だな」


「あとはイレギュラーさえなければ……」


「不吉なこといったらあかんよ~」


前三人がそんな軽口を叩きつつ、ゴーレムの討伐はつつがなく進んでいった。




24階層に降りてから二度の戦闘と一個の宝箱に遭遇したあと、一行は壁に大きく文字が書かれているのを見つけた。


「1だな」


「1ですね」


「壁に穴も空いてるけどなんやろね~」


壁にはこちらの世界で数字の1を意味する文字が書かれており、指を二本くらい入れるのが丁度いい穴が添えられている。


「壁が動く気配はないな」


「穴の向こうにもなにも見えませんね」


「なにか……、仕掛けでもあるんでしょうか……?」


「でも周りにそれらしい仕掛けは見当たらないんよ~」


「はうう、すみません……!」


「……」


パーティーメンバー全員の意見が出たので少しの間周辺を捜索するがやはりなにも見つからない。


結局そのまま先に進むと、もうひとつ2の文字が刻まれた壁をスルーして、更にその先に階段を見つける。


「お、もう探索完了か?」


「流石にそうではないようですね。過去の階層と比べると位置はまだフロアの半ばですし通行止めもされていません」


「きっと降りてまた戻ってくるんやと思うんよ~」


「多重構造……ですね……」


「それではどうしましょうか」


というカタリナの問いかけは、このまま下に降りるか、それともこの階層を全て探索するのを優先するか、という問い。


「ん~、階層が繋がってるなら先に降りた方が儲けは大きいかもしれんな~」


「そうですね、先行者のメリットを活かすならそちらの方が良いかと」


基本的にこのダンジョンは階層が進むほど報酬の質は上がっていく。


そして希少品でも流通する数が増えればそれに応じて買取の金額も下がる。


その二つの条件から、なるべく先に進んで良い物をより早く手に入れるのが稼ぎを上げるコツだ。


「んじゃ先に下だな」


そんなオーグの言葉に異論はなく、全員が頷き階段を降りた。




それから一行は25階層へと降り立ち、今度は5の数字の書かれた壁を発見する。


結局そこにも仕掛けは見当たらず、歩を進めた一行は追加二度の戦闘を経て、更に下へ続く階段を見つけた。


「今日は調子が良いな!」


「そうですね、日頃の行いの賜物でしょうか」


ここまであった何度かの分かれ道で突き当たりに行き着くこともなくほぼなく進んできた一行は、ある意味でかなり幸運に恵まれていると言えるだろう。


「お宝楽しみなんよ~」


24階層実装直後に26階層の戦利品が手に入るとなれば期待は自然と膨らんでいく。


そんな期待を胸に一行は螺旋状の階段をコツコツと降り始めた。


「階段は水が無くて快適ですね」


「歩くのに邪魔だからなあアレは」


前衛の二人の言葉の通り、階段には水がなく常に水没している通路と比べるとかなり歩きやすい。


ある意味濡れた靴で歩く気持ち悪さや足を滑らせないように注意する必要はあるが、それでも冒険者視点で見れば快適な部類だ。


「それにしても、複数階層が繋がっているのは珍しいですね」


「もしかしたらこの先にもなにか新しい仕掛けがあるかもな」


「すっごいお宝でも見つけたら嬉しいんよ~」


そんな会話をする前の三人に続いて、無言の二人も後ろから階段を降りていく。


ケフとクドリャフカの二人は自分から喋る性格ではなく、必要なコミュニケーションも取れているので当人たちとしても問題はなかったのだが、この時は運が悪かった。


トントンと階段を降りていく一行、その途中でクドリャフカは踏んだ床の感触に僅かな違和感を覚えて下を向く。


「……?」


「あっ」


疑問を浮かべるクドリャフカと察したキリエがそれぞれ反応する。


その直後には回避不可能な速度で転送陣が浮かび上がり、全員の視界が切り替わった。

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