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目指すは異世界で最強の王道ダンジョンマスター。~王都徒歩5分『美人秘書』付き~  作者: あまかみ唯
三章

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102.聖典と質問

紅茶を口へ選ぶ。


「今日の紅茶も美味しいですね」


「お口に合ったならよかったです」


今日は聖女様のお屋敷での二回目のお話。


穏やかな昼過ぎにお茶をしていると、なんだか心まで優雅な気持ちになってくるね。


彼女の淹れてくれる紅茶はお世辞抜きで美味しいのだが、とはいえいつまでもゆっくりお茶会をしている訳にもいかないので本題に入ろう。


「それでは聖女様、こちらの前典をお貸しいただき感謝いたします」


「迷宮主様のお役に立ったのであれば幸いです」


「とても興味深いお話でした。それでいくつか質問があるのですがよろしいですか?」


「もちろんですよ。聖典を読み解きその解釈を伝えるのも聖女の務めですので」


「それでは……」


ということでいくつか補足してもらいたい所を質問していく。


「この魔物の肉を口にするべからずと神が定めるくだりなのですが」


聖典の多くは逸話の形式であり、教会はそこから教義を決めるのだが、いくつかは神が直接禁じる形でルールを定めた物がある。


魔物肉を食うなというのもその中の一つだ。


「聖典の中では魔物の肉の危険性が書かれていますが、実際には王都でも広く食されています。現在でも教会ではこれを禁じているのでしょうか?」


王都の中でも多くの民は教会を信奉しているが、それと同時に魔物の肉は屋台なのでも多く提供され、実際に俺も口にしたことがあった。


「それに関しましてはいくつか前提となる流れがあります。まず魔物の肉に毒などの危険性を含む物が数多くあるのは事実です。更に魔物は魔力によってその性質を変化させるものも少なくなく、同種に見えるものでも口にすると危険性があるといったケースもありますね」


「なるほど」


「現在では魔物の種類とその毒性は大別され、比較的安全に口にすることが可能となりましたが、それでも変質による事故はなくなっていません。そして聖典が記された遠く昔にはその大別もされていなかったという事情もあり一律に禁止されたのではと教会の間では考えられています」


つまり昔の魔物肉は毒入りガチャだったから全部アウト認定されたのか。


「そのような経緯で魔物の肉は今では広く食されて居ますが、信仰に忠実な者の中にはあらゆる魔物の肉は口にしないという者も居ますね」


「聖女様もですか」


「はい。論理的でないとお思いになりますか?」


「いえいえ、そんなことはないですよ。情報を正しく伝えることは難しいですし、妥協なくルールを守ることには価値がありますから」


インターネットがある時代ですら正しい情報を広く認識させるのはとても難しく、それより遥か昔にルールを守らせる為には簡略化して明確にするのは重要だっただろうことは推察できる。


そしてルールをどこまで守るべきかというラインを動かすと、そのままズルズルと低きに流れていくというのも理解できた。


まあどっちにしても自分で守るわけじゃないから言えることだけどさ。


「とはいえ守らない人間を罰したりはしないんですね」


「教会や修道院の中であれば魔物の肉を口にして罰を受けることもありますよ。市民においてはその限りではありませんが、それも教義によります」


具体的には殺人なんかは一発アウトとのことだけど、それをどう裁くかはその土地の統治者との折り合いがあるため場合によるらしい。


ともあれ、教会の関係者は魔物肉は駄目とのこと。


その知識を使う機会があるかはわからないが一応覚えておこう。


「それでは次に、神がその位に昇った時の逸話なのですが、これは具体的には何処にあるのでしょうか」


具体的に言うと神はその場所を自身の旅の目的地とし、そこに着いた時に神になったというのが前典の最終章の内容だ。


「神が辿り着いた約束の地は、現在では教国の首都であり聖地として認定されています」


じゃあ気軽に見学には行けないか、残念。


「それではその地で他に神の位に昇った者はいないのでしょうか?」


神が全知全能ではないとはいえ、異世界から人を引っ張ってくるくらいの力を持つならその位にどうやったら到達できるのかというのはかなり興味がある。


なんなら向こうに帰れるようになるかもしれないしね。


とはいえ、そう上手くはいかないらしい。


「神の力は唯一無二であり、それに続いた者はおりません。またそれは不可能であるというのが教会の考えでもあります」


「なるほど」


不可能って言うけれど唯一神と同じ立場を目指すこと自体が不敬って考えもありそうな気がするかな。


多神教だとわりと頑張れば神になれますよ!(ニコニコ)みたいな感じあるけど。


まあどっちにしろあんまり聞くと機嫌を損ねそうだからやめておこう。


「そういえば神は偶像崇拝を禁止していたと思うのですが、これは大丈夫なのでしょうか」


と聞きながら聖典の表紙を指さす。


偶像崇拝とは簡単に言うと神のフィギュアを作って拝んではいけないってルールなんだけど、広義でいえばイラストもその範疇に入るのでアウト判定だ。


「絵画や彫刻などの美術品は、それ自体を崇拝するのではない限り許されるとされています」


あっ……。(察し)


うん、この話題は戦争になりそうだからやめておこうか。


「別の話にしましょうか」


「ええ、そうしていただけると助かります」


もしかしたらこの時初めて俺と聖女様は気持ちが一致したかもしれない。


聖典を読む限り、絵画などを認めるのは黒よりのグレーだ。


それでもセーフ判定しているのは、金になるから、布教に便利だから、権威付けに利用できるからなどなど。


どれもろくな理由ではないが、そもそも聖女様がここへ来ることになった切っ掛けも教会の人間の汚職が原因なのでさもありなん。


まあ聖女様がそれを納得していなくとも、一人でルールを変える力は流石に無いのだろう。


それに俺も彼女を論破して気持ちよくなりたいわけではないのでここはスルー安定かな。


少なくとも、聖女様のスタンスがわかっただけで今日は良しとしよう。




「本日はとても参考になりました」


「こちらこそ、とても有意義な時間が過ごせました」


聖典に関する質問会とそれにまつわる講義を終え、再び聖女様の淹れてくれた紅茶に口をつける。


うん、美味しい。


「そうだ、こちらはお返ししますね」


忘れる前に前典をお返ししておく。


「はい、確かに受け取りました。それにしても、本当に全て読んできたのですね」


「ええ、なかなか興味深いお話でしたよ」


テキストを読んで疑問点と考察をまとめるのは大学時代のレポートを思い出してそんなに嫌いじゃなかったかもしれない。


まあ読んだ一番の目的は、ダンジョンにどう役に立つかだから聖女様からしたら邪道も邪道だろうけど。


「それでは、こちらは後典となります」


「たしかに、お預かりします」


受け取った後典は忘れないようにバッグへとしまう。


さてそれじゃあ今日のやるべきことはこれで終了だけど、その前に聖女様の感想でも聞いておこうかな。


「ここまでのお話、とても勉強になりました。イングリッド様はとても信仰に篤いのですね」


「ええ、私は信仰が人々を救うと信じています」


まあ彼女が敬虔な信徒であればあるほど、ダンジョンの立場から見ると困ったことになるんだけど、それでもどうにかする道筋は見えてきたかな。


「イングリッド様は、私と話してみてどう感じましたか?」


「そうですね、正直とても驚いています。迷宮主様と話す感覚は人と話した時のそれと変わりませんので」


まあ元人間だしね。


「むしろ今までそういった魔物はいなかったのでしょうか?」


「そうですね、魔物の中でも高位の存在、特に人の形を模倣する魔族の中には言葉が通じるものもいるといいます。とはいえここまで価値観に相違が見えないのも珍しいかと」


まあ元人間なんでね。


ともあれ直接そう言っても面倒なことになるだけなので、相互理解できそうアピールでもしておこうかな。


「私は人間を害する気もないですし、紅茶も美味しいと感じるんですよね。むしろなぜ魔族は人間と敵対するのかが不思議ですね」


言葉が通じるなら分かり合えるなんて言えるほどロマンチストではないけれど、それでも言葉が通じるなら共存できる者くらい出てくるんじゃないかとは思わなくもない。


「私も魔物の考えはわかりかねますが、とはいえ現在は融和の兆しはありません」


「魔物自体は神が生まれる前からいるんですよね」


「ええ、その通りです」


創作だと人も悪魔も神様が作ってマッチポンプしてるとか、逆に人の神と魔族の神がいて対立してるとかあるけど、この世界ではそんな感じでもないっぽい。


うーん、人間側の視点だけじゃどっちにしろよくわかんないかな。


いつか会話できる野良魔物に会ったら聞いてみよう。


「そういえばイングリッド様は以前に聖歌隊に所属していたと聞きましたが本当でしょうか?」


「ええ、よくご存じですね」


「こうして話すに際して、失礼がないように事前知識は入れさせてもらいましたので」


地雷踏んだら困るしね。


「そうですね、以前は教会でよく歌っていました。今は聖女としての務めが忙しくそうする機会もありませんが」


聞くと聖女として布教活動の広告塔になったりその癒しの力でお偉いさんの相手をしたりお偉いさんの相手をしたりと忙しいらしい。


まあ彼女の能力が規格外であれば、それだけ忙しいのも納得だろう。


それならこうやって俺と話している暇はあるのかって話になるけど、王国との利権まで絡むとそういうにデカい案件ではあるからおかしくもないかな。


とはいえこうやってお茶している分にはそこまで忙しい時間って訳でもないし、彼女にとって心落ち着ける時間になればそれが一番良いのかもしれにない。


「それでしたら、今度イングリッド様の歌声を聞かせてください」


そんな俺の提案は予想外ではあったのか、彼女は目を丸くする。


そんなに変なことを言ったかな?


ちょっと心配になった俺だが、聖女様は快く承諾してくれた。


「ええ、では次の機会にぜひ」

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