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人造人間 ~Clone Girl~  作者: 鈍行彗星
6/6

6.人造人間のオルガニズム(集合体)

真っ白の世界に飲まれた後、僕が見た物は―――

    6 人造人間のオルガニズム


「………」


 …今日は実に、静かな目覚めだった。

 目覚ましも無い、誰かが揺すってくれたわけでも、優しい声を掛けてくれたわけでもない。ただ静かで、真っ白いだけの部屋が、僕を無感情に迎えてくれただけった。


「………………どこだ、ここ」


 開きっぱなしの扉の向こうには廊下があって、白い服を着た女の人が歩いていくのが見えた。

 僕のいる部屋をチラリと見たかと思うと、何かに驚いたような反応をして部屋に入ってきて、何かいろいろなことを聞いてきた。

「今目が覚めた? どこか痛いところはある? 手足は動く?」

 慌しい問答の後、僕の頭の上にあったらしい、内線電話を使ってどこかと連絡を取っていた。

 ぼんやりとそのやりとりを見ていたら、女の人はパタパタと走って部屋から出て行ってしまった。

 部屋の壁、歩いている女の人、それから僕が眠っていたベッドのシーツや、着せられている半纏みたいな服も、全部白。

 頭の血の巡りが良くなってきて、僕は今病院にいるんだな、と気がついた。


―――――――


 それからたくさんの白衣達が来たけれど、全員初めて見る顔の人達で、聴診器を当てたり、問診をしたり、手や足を触って行ったりしたら、すぐに戻っていった。

 実際のところ、僕自身はどこも異常が無いように思っていた。だけど、一歩ベッドから立ち上がってみようとして、筋肉が思うように動いていないことに気がつかされた。

(………重い?)

 動かそうとした所に思うような力が入らなくて、完全に動かないわけじゃないけれど、ビリビリと、何か、体の中で何かが破れて、突き破りながら進んでいるような、そういう不快な痺れのようなモノが、体を動かすたびに感じた。


「………腕もなんだか、ただの水っぽい肉の塊みたいで、なんだか気持ち悪いな………」

「その表現はなかなか面白いな。しかし、実によく的を射ている」



 ホント、唐突にいつも現れる。

 あの白衣の先生がドアの所で、ポケットに片手を入れた状態で、立っていた。


「………先生って、昔は忍たまだったんじゃないですか?」

「おやおや、今でも私は赤影のつもりだがね。まぁそんなことはどうでもいい。………まずは、よく生き延びてくれた」


 いつものような、何か含みを持っていそうな、試すような発言じゃなかった。本当に、思ったままをそのまま口にしたのだろう。


「…もっと、入ってきてくださいよ」

「ふむ………。実は今、面会を一人連れてきていてね。是非とも君に会わせたかったし、本人も会いたいと言っている。そこで待っているのだが、まずは、本人の許可を得ようと思う」

 面会? 誰だろう、お父さんかお母さんか、あるいは    

「―――――どうぞ。入ってください」


 先生はうなずき、一度廊下に出ると、すぐ戻ってきた。

 相手は車椅子に乗っていて、僕と同じように白い服を着ている。

 違うのは、服からはみ出ている部分、手や足、顔にさえ、ミイラのように包帯を巻きつけている点だった。


「この包帯は、手術後に本人が自分の体を見るのが怖いと言って、隠したいと希望していたんでね。その辺りは、是非とも理解してあげてもらいたい」


 体の大きさからして、僕と同じくらいか。いや、男か女かもわからないから、想像がつかなかった。


「………その人は?」

「君がよく知っていて、実はよく知らない人。といったところか。

 彼女の名前は、とりあえず少女Aとしよう。」


 誰だろう。包帯で顔が見えないから、分かるはずがないけれど。


「――――あなたのことは、手術が終わった後から聞きました。

 あなたが私の命を救ってくれたんだ、って。

 私、そんなことになっていたなんて、全然知らなかったです」


 包帯の中から聞こえてくる声はとてもこもっていて、よく耳を澄ましていないと聞きもらしてしまいそうだ。

 か細い女の子の声。もともと、声は大きくないほうなのだろう。


「………あれ? 先生、もしかしてこの人は―――――」


 先生は頷き、彼女の肩に手を置く。


「君の察しの通りだろう。この子は事の発端となった事故の唯一の重傷者であり、そして…『あの子』の元となった少女だ」


 この子が………『あの子』のオリジナル――――――


「そうだ……あの子は!?  『あの子』は今、どこにいるんです!!? 」


 二人は、なかなか答えようとはしなかった。その沈黙が、僕に最悪の想像力を与えているというのに。

「………君のすぐ近くにいるよ。その前に、よく思い出してもらいたいことがある。どうして『あの子』は産まれてきたのか、何の為に産まれてきたのか、ということを」


 そんな遠まわしな言い方はしないでくれ。そんなの……むしろ僕が辛くなっていくだけなんだ。

「…………ごめんなさい」

「どうしてあなたが謝るんですか………」


 それが意味することは何ですか? 教えてください、『あの子』は今………どこにいるんですか………。


「予定が狂ったことは知っているだろう?

 君じゃない、あの男のせいでだ。

 奴は今回の計画を根底から台無しにしてしまったのだからな。

 しかし、それで簡単に終わるようなことではないだろう。

 我々は二人の生きている人間を救わなければならなかったのだからな。

 そして、その結果として、今ここにいる君達二人がいるのだよ」


 じゃぁ、彼女は――――――


「………オリジナルである彼女の治療には、特に臓器は、とても使えない体となってしまった。

 だが、私はそこで一つの偶然を発見し、一つの可能性を見出した。

 君と彼女はね、血液型が一緒だったんだよ。

 そして、君が損傷した箇所と、『あの子』の使用可能部位は、奇跡的にもその大半が一致していた。





 君 の 治 療 に使われたんだよ。





 だから彼女は、今も君のすぐ傍にいるし、君は死ぬまで、彼女と一緒にいることができる」






―――――――――死んで、しまったんですか―――――――――




「ごめんなさい!!

 ……私のせいで………私のせいで………!!!」


 うなだれているのかな、僕は。急に全身の筋肉が、言うことを聞かなくなってしまったよ。


「……フォローするというわけでもないが、何もしなくても彼女は死んでしまう運命だったんだ。

 臓器や皮膚を提供するために産まれてきた彼女に、バンクが協力してくれるわけもない。

 彼女を助ける術が、そもそも無かったんだ。

 だが、彼女は役目を果たせた。

 君達二人に自らの血肉を分かち、君達の未来を守ったのだ。

 君との時間は決して無駄では無かった。

 あの子をあの男から、君は守ってくれたのだから」

 先生は僕のベッドの近くに来て、顔の高さに合わせてしゃがんできたらしい。らしい、って言うのは、僕の顔が動かなかったから、先生の顔が見えなかったからだ。


「スパイの話は、君が関わる前から噂さてれいていた。

 そして、あの救急車の事故があった時から、私は、彼女はいつ殺されてしまってもおかしくない状況下にあると認識していた。

 できることならば、時が来るまで君の家で預かってほしいとも考えていたのだが、道路が復旧するのも早かったし、君が交番に通報していたことが早くの内から伝わってしまっていた。

 誰がスパイなのかもわからない以上、私が不審な動きをするわけにもいかない。

 私が疑われる可能性もあった。

 君には申し訳ないと思ったが、君の感情を煽り、そこから予想される行動を利用させてもらったよ」


 目だけが、動いた。先生の顔をまともに見たのは、もしかすると初めてかもしれない。

「じゃあ、暇つぶしって………」

「文字通りの意味でもあったのさ。

 彼女の体が必要な大きさになるまでは、彼女は手術には使えない。

 それまでの間、彼女をどこで、誰が守るのか。

 施設の中ではスパイが自由に出入りできてしまうし、人間も誰が信用できるのかも判断しかねる。

 …だが、君ならば。

 救急車の中から彼女を救い出した君ならば、私は彼女を守れると信じた」

 君が何もしなかった時のことは、あまり考えていなかったがね。先生はそうも付け足した。

「でも僕は………」


 結局、彼女を守れなかった。

 彼女を死の運命から解放することは、できなかった。


 オリジナルのこの女の子を救うことはできたのかもしれない、だけどそれは………僕には、関係ないことだ………。

「…君の言いたいことはわかる。

 君には感謝してもしきれないが、 申し訳ないが、君が一番望む形での礼を私はすることができなかった。

 私の力が及ばなかったことも認める。

 しかし、仕方が無かったのだ。

 今の技術では、彼女達二人ともを助けることができなかったのだ。

 なら………どちらを助けるべきか。

 それを決められるのは、私ではなかった」


 ごめんなさい!

 ガチャリ、と、車椅子の揺れる音がした。


 彼女は包帯の下で、いったいどんな顔をしているのだろう。

 でもそんなことを知っても、何の意味は無いんだな。


「そう…今の技術では、移植皮膚と移植臓器を短期間に、それも拒絶反応を起こさない完璧な物を製造することはできない。

 どうしても、あの子を生み出さずしては、彼女は救えなかったんだ…………」


 時間が経ったおかげなのか、僕の頭は清々とし、不思議なぐらいに冷静になってきていた。前向きな思考がふつふつ浮かんできているのがわかる。


 あぁ……彼女は僕の治療に使われたのか。

 だから僕の中には、彼女がいる。

 今も彼女は、僕の中で生きているんだ。



 彼女は――――――、死んでなんかいない。
























「彼女は死んでなんかいませんよ」

「え………?」

 また、白衣の女の人がドアの所に立っていた。

 今度の人は、見覚えがある、あの銀縁眼鏡の人―――――なんだけど、今は眼鏡を掛けていないみたい―――――だ。

「今、なんて――――――」

「先生、いいかげんにしてください。

 本気にして彼が自殺でもしたらどうするんですか!! 」

「いやなに、ちょっと少女誘拐の懲らしめをしていたんだ。

 君ももう少し声を小さくしたらどうだい、ここは病院だぞ?」

 ハッ、と口を押さえる女の人だが、すぐ怒った顔になってズカズカと歩いてきた――――――と思ったら、バチンっ! なんて音がした。

「今ので帳消しです!」

 何がだろう? 先生は頬を押さえながら苦笑いしていた。

「悪かった、悪かった。

 しかし私は一つしか嘘をついてないぞ。

 ほとんどアレを使わなかった場合の、事実だったさ」

「一つでも嘘が人を殺すんです! あなたは最低の医者です!!!」

 いったい何がどうなっているんだろう? それより、僕はさっきの言葉の真偽を確かめたかった。

「あの………嘘って、どういうことなんですか?」

「実はまだ実験段階の、特殊な治療法があってね。

 今まで世界中で見ても、おそらくまだ実用例は無いはずだ。

 私はその方法を使って、彼女と、君と、そして、『あの子』の治療を行った。

 嘘というのは、君の治療に『あの子』の体を使ったということ、ただそれだけだ。

 だからそれ以外の話は、全部本当だ。

 スパイの話も、君に『あの子』を託す賭けをしたことも、全て本当だ」

「だって、そこの彼女が、ごめんなさいって………」

「いえ………私もてっきり、その子は死んでしまったものだと思っていて…その後どうなったかまでは知らなかったんです」

 包帯の女の子は申し訳なさそうにうなだれていた。怖い目になった白衣の女の人が先生に向いて、すかさず先生が弁解した。

「いや、彼女はクローンの少女を造ることになってしまったことに対して、彼に謝りたいと言っていたんだよ。

 別にそのせいで死んでしまったと話していたわけでもないし、………彼女は、何も悪くない」

「えぇわかっていますとも。全部あなたが悪いんですから」

 すごい………。あの男がこんなにもタジタジになってる姿なんて、今まで想像もできなかったのに。

何者なんだろう、この人。

 と、先生を無視して、その女の人が僕の前に屈んできて、話しかけてきた。

「ごめんなさい。本当にあなたには迷惑を掛けてしまいました。

 でも、もうこれで全部終わりです。

 あなたの体ももリハビリをすれば元通りに治りますし、退院して元の生活に戻れます。

 全部、終わったんです」

「……なら、一つお願いがあります」

 僕はできる限りの力を振り絞って、掛け布団を外して、両足をベッドの外に出した。先生も、女の人も、包帯の彼女も、何も言わずに、僕の次の言葉を待っていた。


「あの子に………会わせてください」



――――――――



 先生が持ってきた車椅子に乗って、僕ら四人は白い廊下の中を移動していた。ここは本当に一般の病院らしくって、看護士さんや、点滴を持った患者さんとか、お見舞いに来ている私服の人とか、たくさんの人と途中ですれ違った。

「再生医療というものが、今注目されていてね」

 唐突に、先生は切り出した。

「再生医療………?」

「人間に限らず、全ての生き物は細胞の(かたまり)でできていることは知っているだろう。

 元々その細胞はどうやって出てくるのかというと、元はたった一つの細胞だったのだ。仮にこの一番最初の細胞を、原始細胞と呼ぼう。

 その原始細胞が分裂を繰り返して、肌や、筋肉、骨、そして目や臓器、爪や髪の毛でさえ、細胞が分裂してできていくのだ。

 この原始細胞をもし、分裂する前の段階で一部を保存することができ、また、自由に要求した器官や部位に成長させることができれば、たとえ病気になったとしても、病気になった部分と新しく交換をすることができる。

 当然材料が自分なのだから、拒絶反応も起こさないし、血液型も同じ、全く同じものができる。

 部分クローンといえば、わかりやすいかな」

「……それが、僕らに使った、特殊な治療法ですか?」

 先生はうなずきながら、続きを話した。

「トカゲのしっぽがいい例だろう。

 あれもどうやって復元しているかというと、切断面から細胞が活発に分裂して、新しい尻尾を作り出しているのだ。

 では人間はと言うと、残念ながら大きな損傷については、完全には自己修復をしてくれない。

 むしろその前に絶命してしまう方が大半だろう。

 君みたいに大きく損傷してなお存命していたのは、それだけでも奇跡だったと言える」

 包帯の彼女のことだ。彼女は、黙ったまま耳を傾けていた。

「そもそも人間の成体の、分裂してしまった後の細胞は既に完成体であり、再び分裂・製造することを想定していないのだ。

 細胞は、再び新たな臓器を作り出す能力を持っていないのだ。

 しかし、受精卵ができたばかりの頃の、原始細胞は違う。

 全ての臓器、器官に変化する設計図を全て持っている。

 もし、その原始細胞の一部でもそのままの状態で保存することができれば………話は全く変わる。

 この、まだどこの部位にもなっていない未分化細胞はよくES細胞と呼ばれ────」

 何か、スゴイ話をしてるのだろうけど、話が長いせいで何がなんだかサッパリわからない。僕はもっと簡単に説明してほしいと頼んだ。

「はっはっは、努力したつもりだったんだがね。

 いいだろう。

 つまりね、人間は生まれつき、体のどんな部分も作れてしまう『魔法の細胞』を持っているものなのさ。

 でもそれは、成長するに連れてその能力を失っていく。

 生まれる前、つまり、母親のお腹の中にいる、まだ小さな卵の時にしか取り出すことができない細胞なんだ。

 後々病気になったからといって、その細胞を取り出して臓器を作れるかと言ったら、そもそもその細胞が無くなっているから無理なんだよ」

 でも、他人の細胞を使ったって別にいいんじゃないだろうか? その、い~……なんとか細胞って。血液型とかが一緒なら、使えそうな気がするけれど。

「違うんだな、自分から取り出すことに意味があるんだ。

 拒絶反応という言葉をさっき使ったが、自分の意思とは無関係に、体が新しくやって来た臓器を異物と判断して、追い出そうとしまうことがあるんだ。たとえば─────」

 先生は車椅子を止めると、僕の前へ回り込んでしゃがんだ。

「口を開けてみなさい」

「口……ですく、ふがぅ!!?」

 何をしてきたのかと言うと、先生はいきなり僕の口の中に指を突っ込んできたのだ。気持ち悪くなって、むせて先生の指を噛みそうになってしまった。

「おっと、危ない危ない」

「危ないのはこっちの方ですよ! 何するんですかいきなり!?」

 先生は悪びれる様子もなく、『それが拒絶反応さ』と言った。

「それと同じことが臓器移植の時にも起きるんだよ。

 体内に他人の何かが入り込めば、異物として取払おうとする。

 それが正常で健全な臓器だとしてもだ。

 それゆえに、臓器移植手術は血液型が一致していても、失敗することがある」

「………そう、なんですか…?」

 聞いたのは包帯の彼女だ。自分が一番関わりのあることなだけに、その声色は重い。先生の言葉にも、少し陰りが見えた。

「少し考えてみれば、すぐにたどり着くことだよ。

 さっき彼は、私の指を口に含んだだけでああなった。

 …では、臓器では、どうなるだろうか」

 仮に僕の胃袋が、誰とも知らぬ別人の物と取り換えられたなら─────考えただけで、吐き気と寒気が止まらなくなってくる。

「そこで、だ。今度は自分の指を口の中に入れてみたまえ、一本でいい」

 言われた通りにやってみた。今度は、別に何とも無かった。

「自分の物だと分かっているから、それを異物だと判断させる要素は無く、体は安心してそれを受け入れてくれる。

 臓器移植も同じだ。

 自分と全く同じ物が入ってくるのだから、拒絶することなく、すんなり受け入れてくれる。

 どうだい、簡単なことだろう?

 ………さて、ここからが本題だ。

 どうして私達はクローンの少女を造ったか、そしてなぜ、オリジナルの少女Aが生きていて、クローンの少女も生きていて、更にはなぜ少年、君までもが生きているのだろう、か。

 実を言うとね、少年。

 君はあのなだれに巻き込まれた後、もうあと少し発見が遅ければ完全に凍死していた、という状態で発見されたのだよ。

 どうだい、実感はあるかい?」

 そんなの無い………って言ったら、嘘になるな。だって実際、こうやって体が動かないわけだし。

「そうだな、君は奇跡的に助かった。

 しかしながら、雪に埋もれていた君と、クローンの少女は凍傷がひどくてね。部分的には、皮膚移植も必要だったし、拳銃の弾丸が臓器を貫通している箇所もあった。本当に、よく死ななかったなと驚いたものだよ。

 さぁ、ここで種明かしをしよう。

 まずはオリジナルの君、君がどうして今無事生きていられるのか。

 本来であれば、君は、クローンの少女の臓器や皮膚といったものを『そのまま』移植して延命手術が行われる予定だった。

 だがしかし、君のいる病院にクローンの少女が辿り着いた時、既にクローンはオリジナルである君よりも年齢を取りすぎてしまっていた。

 しかも、少年と同じく、雪に埋もれて凍傷持ち、はっきり言って虫の息だった。

 これではとても移植手術には使えない。

 ではどうしたか?」

 先生は、僕の両肩を掴んで答えを求めた。ここまでの話の流れから来たら、答えは一つしか無いだろう。

「………その、細胞がなんたら、って奴ですか? 再生治療って」

「そうだ。

 しかし、実はオリジナルの彼女は、普通の分娩で誕生している。

 つまり、人為的な細工は一切行われずに産まれてきた、つまり産まれる前に原始細胞は採取・保存はされていなかったんだ!

 でも彼女は現に生きている、原始細胞から作り出された自分の臓器と皮膚を手にいれ、無事に生きている。

 なぜ?

 いったいどこからその原始細胞は手に入ったのだろうか?」

 オリジナルの彼女の原始細胞が無かったのだとしたら、じゃあつまり―――――、


「………そうか、クローンの原始細胞………!!」


 先生はウィンクして僕を指差した。ついでに、少し後ろの白衣の女性にもやったみたいだ。


「まさか…急に手配できた移植用の臓器や皮膚っていうのは…」

「そうだよ、原始細胞から作った培養物さ。

 クローンとオリジナルは全く同じ人間、だとすれば、その臓器や皮膚も全く同じ。

 クローン人間を作るには体外授精を行わなくてはならないから、その際に私は、受精卵ができた際に、原始細胞を採取し、保存・培養をしていたのだ。

 そしてクローンが誕生するまでの数ヶ月間、私はただオリジナルの君の皮膚を張り替えていただけでなく、移植に使う臓器も同時進行で培養していたのだ。

 万が一クローンが失敗した時の保険でもあったし、そして飛躍的な医学の進歩にもつながる原始細胞の研究を、私は進めていたのだ。

  安心したまえ、あの子もオリジナルの彼女と同じ、培養した臓器と皮膚で手術を行った。

 だから彼女も、無事に生きている。

 バラバラになど、結局されなかったのだ」

 それを聞いて、僕は安堵のため息をついた。こんなにでっかく胸を撫で下ろしたのは、生まれてこの方初めてかもしれない。

「あれ、でもちょっと待ってください?

 彼女達二人がその方法で助かったのはわかりました。

 でも、僕はどうなんですか? 

 同じ治療法を使ったって言ってましたけど、僕のES細胞はどうやって手に入れたんです?

 僕は普通の人間ですし、普通に産まれてきました。

 産まれた後からじゃ、原始細胞は手に入らないんじゃなかったんですか?」

 すると先生は、何だ知らなかったのかね、と驚いた仕草をした。

「ご両親から聞いたことは無かったのかい?

 君はね、人工授精で産まれた子供だったんだよ」


 …人工授精? どういうことだ………?


「ふむ、君に手術を行う上で、君の病歴などを色々調べまわっていたんだ。

 そうしたら、君のご両親はなかなか子宝に恵まれなかったらしくてね。

 人工授精、つまり体外授精をすることを決意していたそうなんだ。

 それを見て、もしやと思ってね。

 原始細胞が採取・保存されていないかどうか、確かめたんだ。

 君は運がいい。

 君を担当した医者は、僕みたいな研究家肌だったらしくてね。

 バッチリ保存されていたんだよ、君の原始細胞が」


 それはとても、運のいいこと―――――なのだろうか。

「奇跡の域だ。

 当時はそもそも、人工授精というものさえしっかりとは確立していなかったし、原始細胞などはそれこそほとんど知られていなかっただろう。

 君達はいったい、私にいくつ奇跡を見せ続けてくれるんだろうね。

 もう私は目が回りそうだよ」

 

 奇跡。僕自身、そうとしか思えないことが、今までいくつも重なってきていた。

 そのたった一つでさえ、もしも奇跡が起きていなかったなら、僕はおろか、オリジナルの包帯の彼女も、クローンのあの子も、生きてはいなかったのだろう。

 ああでも、そんなことはもうどうでもいいかもしれない。

 そうこうしている内に、僕らはとある個室の前で集まっていた。

 ネームプレートが入っていないのに、しっかりとドアが閉ざされた病室。鍵は無いらしい。



―――――この向こうに、あの子がいる―――――



「さぁ、ご対面だ。

 …だがその前に、君達はこれから現実とも対面しなければならないことを確認しておこう。

 君達はそれを見て、それを受け止める覚悟が本当にあるだろうか。

 部屋に入る前に、それだけは確認しておきたいと思う。

 どうかね?

 もちろん、君もだよ?」


 包帯の彼女のことかと思ったら、指されたのは白衣の女性の方だった。本人も寝耳に水で、キョトンとしている。

「…私、ですか?」

「そうだよ。君にも覚悟がいる結果がこの先に待っている、つまりはそういうことさ。───覚悟は?」

 二秒、いや、三秒ためらった後に、

「………できています」

という、鉛玉を投げたような声が飛んで返っていった。

「君は?」

 次は、包帯の彼女。

「…………できて、ます………」

 習字に使う半紙が、風になびいているかのように。そして、

「………君は?」

 僕は、務めて落ち着いた声を出そうと、音が出ないように空気を吸い込み、肺を膨らませた。

 そこで何が待っていようとも、僕は─────


「……………覚悟は、できています」


─────僕は、現実を受け止める。


 先生はゆっくりと頷いた後、ドアをノックした。中から看護婦さんが顔を出してきて、僕らを確かめると、一礼して中に招いた。

 中にはもう一人看護婦さんがいて、ベッドの傍でしゃがんで脈を取っていた。

 部屋には一枚の大きな窓があり、そこからは暖かな光と風が流れ込んできている。小さな戸棚とカーテンがあって、あとは清潔な白い壁が連続しているだけだ。

 そして、その窓のすぐ下にある大きめなベッド。

「ご苦労様です、少し変わりましょう。何か動きは?」

「いえ、変わりありません。脈拍、心電図は共に正常です」

 答えたのは最初に出てきた看護婦さんだ。脈を取っていた看護婦さんは壁に寄って、窓の方に顔を向けて俯いていた。

 それが物語る物は、僕らにも十分と伝わっていたし、何よりも入った瞬間から、僕はもう、先生が言う現実というものに、ぶち当てられていたんだ。


ベッドでは、点滴を打ち、頭に包帯を巻いた一人のやせ細った




 老  婆  が、音も無く静かに眠っていた。




「…………そん、な……………」

 わざとくさい驚きの声が、冷たく耳の中を通り抜けていく。

「そういえば君は、自分がどれぐらい眠っていたかを知っているかい?

 なだれがあった日から数えて三〇日、つまり一ヶ月が既に経っているんだ。

 彼女の体のことは覚えているだろう、眠っている間だけ、三六五倍の早さで成長すると。

 しかしそれは、一日八時間の睡眠をすると仮定した場合の話だ。

 だから一日中、眠っていたとしたらどうなる?

 一日は二四時間だから、日毎に想定の三倍以上の成長時間が与えられているわけだ。

 単純に計算して、彼女は三六五倍の更に三倍、一〇九五倍の速度で成長する。

 もっと分かりやすく言えば、一日で三年、つまり三〇日間で、九〇年分もの成長を遂げてしまったのだよ。

 もっとも、そこまで進む前に、成長ホルモンを抑制させる手術を行ったから、正確にはもっと少ないはずだ。

 だが、見てみたまえ。彼女の体はもはや、年老いた老人のそれに他ならないだろう。

 残留していた成長ホルモンが彼女の体にブレーキをかけさせなかったのだよ」

 

 冷たい風のような声が耳を通り抜けていくのを感じながら、僕はいったい何を考えていただろうか。

 考えることすら、はたしてできていたのだろうか。


「あの雪の町で再会した時、君は断固として彼女を我々から守ろうとしていた。

 その行為自体は否定しない、だが結果としてこうなったことを、君には認識してもらわないといけない。

 自分のとった行動がどういう結果を生んだのか、それを確かめる義務と、その結果に責任を持つ義務が、君に限らず、全ての人間にはあるのだ。

 もちろん私にも。

 憲法や法律で定められているとか、そういう問題ではない。

 人間として生きる者の最低限のモラル、マナーだ」


 どういう結果を生み、それを確かめ、責任を持つ。当たり前なようでいて、その実全く守られていないな、と僕は思った。

 僕は目を逸らさない。現実から、そして、あの子から。

 車椅子の固い手すりを握り、足の血管がバリバリと破れる音を聞きながら、床に立ち上がった。ベッドの手すりを掴んで、僕は彼女の顔を覗き込む。


 そこに僕の知っている『あの子』の面影は全く無くて、顔には、本来何十年とかけてできるはずの堀の深いシワや、シミやほくろでいっぱいになっていた。時々動く口と鼻が、生きているという証明を僕に示していた。

「………僕は決意したんです。彼女をずっと守っていくと、絶対彼女から離れないと、彼女のために生きていくんだ、と。

 だから僕は現実から目を離さないし、責任も取る。どんなことにだって、彼女と一緒に受け止めていくと決めていたんです」


 僕の背中は、他の人達にはどう見えていたんだろうか。きっと、震えて見えていたに違いない。だって僕の足は、手は、こんなにも小刻みに揺れているんだから。


「………でも先生、僕はあなたに一つだけ、言いたいことがあるんです。

 そして、お願いがあるんです。

 どうか僕の言うことを、真面目な耳をもって聞いてほしいんです。

 できることなら、後ろにいる二人の看護婦さん、それから白衣の人、そして彼女のオリジナルの人。

 みんな、僕の言うことを………真面目に聞いてほしいんです」


 先生や、他の人達がどういう顔をしていたのかはわからない。僕はまだ『彼女』の顔を見ているから。


「………何かね」


 コトリ、と靴が近づく音がした。僕の肩に触れる手、それは先生の物で間違いないだろう。

 斜めに揺れていた心臓が、まっすぐ落ち着いたような気がした。


「このベッドで寝ているのは―――――」


 僕は『彼女』の頬に手を触れて、ゆっくりと皆に向かって振り返った―――――。

























「僕のおばあちゃん…………じゃ、ないんですか―――――――」




 ――――――はっあっはっはっはっは、ハハハハハハハッ!!!

 ―――――あはははっは、あっはっはっはっはっはハハ!!!

    

 誰かは両手を叩き、誰かは両膝を叩いて、誰かは指をさして、誰かは口を押さえながら、………まるで部屋の中は、シャンパンのコルクがスッポンっ、と勢いよく抜けてった時みたいに、笑い声でいっぱいになっていた………?


「な、なんで…………?」

「ふはははははあっはっはっは!!

 いやー、ありがとう、実に良い演技でした!

 ノーベル賞物、いや、文化勲章物ですよ!」

 先生はふとんをめくると、どこにも刺さっていない点滴のチューブを抜いて、耳元でもういいですよ、と言っていた。

 途端、今まで眠っていた(フリをしていた)彼女、いや、“僕のおばあちゃん”がベッドから起き上がって、あくびなんてことをしながら両手を伸ばしていた。

「ほんっとうに、あなたという人は…………」

 笑っていなかった内の一人、白衣の女の人は別な意味で声が震えているらしい。包帯の女の子はというと、どうも事情が分からないからか放心してしまっているように動いていなかった。

 そして残りの二人の看護婦さんだけれど………やっぱり最初にドアを開けた人の方はあっ気に取られていて、なぜか窓の方を向いて俯いていた人の方が、先生みたくお腹を抱えて大笑いしていたのだった。

「ちょ、ちょっと待ってください!

 じゃああの子はどうしたんです!?

 あの子に会わせてくれるんじゃなかったんですか!!?」

 その問いの答えは、ある意外な方向から聞こえてきた。


「おにいちゃん、私はずっとここにいるよ!」

「…………え?」


 僕は後を振り返った。包帯の彼女、ではないらしい。

 ましてや白衣の女性、でもない。

 僕は更に後ろを振り返る。

 先生、おばあちゃん、扉を開けた看護婦さんでもなければ――――――



「………あなた、が………?」



 もう一人の、最初に脈を取っていた看護婦さんが、僕の方を向いて、笑っていたんだ。




――――――――



 診療室の寝台に寝かされた僕は、両足を投げ出していた。

「いてっ。もう少し優しくお願いします………」

「やれやれ、さっきの元気はどこへ行ったのかね」

 面倒くさい説明を聞かされた後、先生は僕の足をマッサージしていた。

 要約すると、ろくにリハビリもしていないにのに立ち上がったりものだから、急にたくさんの血液がしかも勢いよく血管を流れて立ちくらみを起こし、とどめに精神的に大きな衝撃があって、僕はキュー、バタンと倒れてしまったらしい。

「足は第二の心臓だ。人間は寝ているだけでも生きられると思ったら、大間違いということだ。

 引きこもりのいじめられっ子達は今にいなくなる、皆死ぬからな」

「………それってすごく嫌な世界じゃないですか?」

 今度は、足の指をグリグリ回している。血の巡りが良くなってきているのかな、少し体が暖かくなってきた気がする。

「きっとニートもいなくなるぞ。暗い部屋でパソコンばかりやっている奴らなんか、もう五年もすればみんないなくなる」

「………そういう人達だって、いつまでも同じままじゃないと思うんですけどね」

 ヒザのところで曲げて、上げたり下げたり。

「ふむ。しかしいじめられっ子にしろ、ニートにしろ、自分自身で変わろうと考え、行動しなければ、いつまでも同じ状態は続いていくだろうさ。

 体が大きくなるだけが大人になることではない。

 むしろ君みたいに、小さい頃からしっかりした考えを持っている人間が、立派な大人へと成長していくのだ」

「………僕は大人じゃありませんよ。でも、子供って言われるのも嫌だな」

 今度は自分で動かしてみなさいと指示された。足全体を上げ下してみたけれど、さっきみたいな血管を破る音は聞こえなかった。

「たとえばもし、人間が機械の体を手にいれて、いつまでも長生きができるようになったなら。

 世界は完璧な人間で溢れるだろうか。君はどう思う?」

「昔のマンガでそんなのがありましたね。確か、完璧どころか堕落して、遊び呆けてしまうんです。

 結局機械の体をほしがっていた主人公も、生身の体のままその星を脱出するんです」

 寝台から足を下ろし、僕はスリッパを履いた。先生はそれを見て、よし、とうなずいた。

「限りある命だからこそ、生きている喜びがあるのだ。

 そして、短い時間でいかに楽しくて、面白くて、すごいことがたくさんできるかを、人は競い、争う。

 だから人は、もっと長く生きようと、色々な知恵を絞る。

 だが所詮は悪あがき、限界数はある程度は見えているのだよ。

 それでも人は、その上、その上を追い求めて生きようとする。

 そして、微々たる物でも上を勝ち取れた時、人はとても喜ぶだろう。

 人間なんて、いつ死んでもおかしくはないのだからな。

 そういう暇つぶしが、必要なんだよ」


 暇つぶし。全ては、その言葉が始まりだった。

 人生は死ぬまでの暇つぶし。今になって思えば、それはとても当然のことだったんだ。

 たとえどんなに『長生き』する人がいたとしても、『死なない』人はいない。

 『死』を否定することはできない。

 『光』ある所に『影』があるように、

 『生』があるから『死』がある。


 『死』の無い『生』はありえない。


 僕があの子を『死』から守ろうとしたことも、『暇つぶし』に過ぎなかった。それでも、僕はこれからも彼女を守っていくだろう。

「………僕には難しいことはわかりません。

 でも、そういうのが先生の暇つぶしなんですよね。

 そして……………彼女みたいな『人造人間』を作ることも、あなたの暇つぶしの一環なんですね」

 先生はその言葉に、不気味な笑いを浮かべて答えてくれた。

「『人造人間』なんて、言葉のままの意味であるならばそこら中にたくさんいるものだよ。

 人工授精も、人の手が掛かった自然の摂理に反した人間だ。

 そういう意味では、君も彼女と同じ、『人造人間』だよ。

 たとえば私も、この辺りが人造人間だがね」

 そう言うと、先生はおもむろに頭を揺すり、頭髪を持ち上げた。

 くるりとそれを手元で一回転させると、僕にそれを投げて見せた。


「……ヅラだったんですか?」

「彼女には、内緒だよ?」

「もう見ました」

 振り返ると、あの白衣の女性が腕組みして立っていた。その口は奇妙に釣り上がっているように見えるのは、なんでだろ。

「………あぁ、隠すつもりは無かったんだが、」

「別にどうだっていいんですけどね」

 先生は僕からカツラを受け取ると、またていねいにかぶり直していた。あぁ、確かに今見てみれば、生え際の色が違いすぎてる。


「……彼女と同じなら、僕は光栄です。そして、あなたとも」


 そう。彼女は僕らと同じ、人間なんだ。

 クローンという人造人間ではあるけれど、いや、僕だって人工授精で生まれた人造人間なんだ。


 なら、人造人間って何だ?


 カツラをかぶった先生も人造人間?

 あの眼鏡をつけていた女性も、人造人間?

 世界は、人造人間で溢れている?


「せんせ~」

 そこに、看護婦姿の彼女が車椅子を押してやってきた。その車椅子には、あの包帯の少女が乗っていた。

「ごめんなさい先生、その………私も見ちゃいました、頭………」

「ありゃりゃ」

 先生はわざとらしく目を回してずっこける真似をした。クスクス笑っているのは、彼女と、白衣の女性だった。

「それで…私、もう包帯を外します。

 私ばかりが現実から逃げているわけにはいかないんだって、その人を見てて思ったんです。

 私の知っている顔や体がそこに無かったとしても、私はずっとこれから、この顔と体で生きていくんだから。

 包帯で隠して、逃げることはできないから。

 私は、受け止めたいんです」

 先生は頷き、彼女の前まで行ってしゃがみこんだ。『本当にいいんだね?』そう確かめた後、それまでか細かった声とは対照的な、力強い声が先生に返された。

「はいっ。お願いします、先生」

 しゅるしゅると、音をたてて床にほどけていく、白い包帯たち。

 封印されていた時間が再び動き出したかのように、解き放たれた甘い芳香は僕の方にまで香ってきた。

「そうか………」

 光を浴びに出てきたのは、おどろおどろしい妖怪のような顔でも、ツギハギだらけの黒男のような顔でも無かった。

 僕がよく知っている綺麗な黒髪のショートカットが、少し恥ずかしそうに、ゆっくりと目を開いた――――――。

「鏡を持ってこよう。とってもキレイだ」

「………そう、ですか?」

 先生が持ってきた手鏡を恐る恐る覗き込んだ彼女は、たちまち頬が緩んで、一緒に覗き込んでいた彼女に抱きついていた。

「変な顔じゃなかった!」

「うん! あたしといっしょ!」

 やった~!! と黄色い声で叫び、笑いあう二人を、僕らは見ていた。彼女達の笑いを囲むように、僕らも自然と顔が優しくなっていていた。


 あぁ、自分達のしてきたことは間違いでは無かったんだな。

 彼女達の笑顔は、僕らにそんな安心を与えてくれたんだ。



――――――あったかい、生きてるっていう喜びが、

       満ち満ちている笑顔だ―――――――――



「さてこれからが大変だな。

 移植が終わって役目を終える筈だった彼女は、これからも生きていく。

 二十歳の体になったからとはいえ、もう普通の人間なんだ」

 先生が小声で話してきた。その先に言いたいことはもうわかっている。

 だから僕は、あえて大きな声で言ったんだ。



「わかっています。もうずっと前に決めてたんです」


 この娘が安心していられるよう、

 笑っていよう――――――――


 ずっと彼女が安心して、

 笑っていられるように-――――――そして、



「彼女と最後まで暇つぶしに付き合うと、僕は決めたんですから」




The Story of

“Organism of Orgnized Organism”

Case.Ⅰ ~CLONE GIRL~


――― The END ―――


挿絵(By みてみん)

人造人間のオルガニズムIは、今回でおしまいです。ご愛読ありがとうございました


注)

再生医療・ES細胞は実在しますが、現在研究段階のものです。作品に都合よく改変されている部品も多々あるので、鵜呑みにしないでください。


この小説はフィクションです。

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