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射抜く眼差し


まさか二週間もあくとは、申し訳ありません。


リアル生活が忙しく、執筆時間をうまく取れず。



その分いつもの倍ほどの尺なので、楽しんでいただけると嬉しいです。






 今日は全クラス合同の町内清掃だ。


「あっちー。この日差しにジャージはきついわ」

「わかるけど仕方ないだろ、今日は指定されてるんだから」

「それな。六月入るまで夏服にも変えられねえしさー。てか袖まくっとこ」

「あ、俺もやろ」


 ヒロと二人でせっせと袖を肘までまくる。


「でも、ジャージ姿の女子を拝めるのは眼福だよな。うちのクラスレベル高えし」

「まあ、そうだな」


 実際に他のクラスと比べたことはないけど、B組の女子は可愛い子が多い印象はある。


「でさー、そん時いきなり大耶が腕の中にニュッと出てきて。ほらあれ、モグラ叩きのやつみたいに」

「ぷっ、あんたモグラだってさ」

「なにをー!」


 特に晴海は、元のプロポーションがいいのでもっさりしたジャージを着ていても映えてた。


 前のチャックをしっかり上まで閉じているのがどこか新鮮だ。肩を揺らして笑う度に、ゴムで結ばれたポニーテールがつられて動くのを目で追ってしまう。


「俺らが着ててもパッとしねえけど、女子が着てるとグッとくるのはなんでだろうな」

「否定はしない」

「おや? アキさんは誰を見て言ってるのかにゃ?」

「あー……ってお前、わかってるだろ」

「さあねー」


 愉快そうに笑うヒロは、今回も確信犯だった。




「なあ、あいつが晴海の?」

「らしいぜ」


 ……にしても、他クラスの連中からの視線が地味に痛い。


 半月以上交際が続いていることで、近頃は単なる噂ではなく本当に付き合ってると周知されつつあった。


 正直、自意識過剰と思いたい。けど昔からこの類の目線を受けてきたので敏感に感じ取れてしまう。


「なんかパッとしねえな」

「な。案外晴海ってハードル低いタイプ?」

「ワンチャンあったりして」


 ……そしてその全てが、単なる好奇心には留まらなくて。 


 だからどうするってわけでもないけど。晴海と付き合うことにした時点でこうなるのは目に見えてたし、いちいち反応してたらキリがない。


「つかさ、終わったらどっか遊び行かね? せっかく授業なくて早いし」

「悪くないな」

「おっ、やりー。どこ行く?」

「それじゃ──」


 出しかけた言葉が、途中で止まる。


 答えに困ったからではなかった。


 では何故かと理由を探せば──その射抜くような眼差しに気がついたからだろう。




 一人の見知らぬ男子が、俺を見ていた。


 そいつの目つきは単なる好奇や悪意などではなく、何かもっと強い感情を込めたもので、だからこそ特別に印象的。


「……?」

「お? 今度はどした?」

「あ、いや……」

「お前ら番号順に整列しろー」


 っと、出席を取り終わったみたいだ。


 クラスメイト達が列を作っていく中、ふとさっきの方向を見れば、もうそこにあの男子はいない。


「……なんだったんだ?」


 不思議に思いながら、俺も列に加わった。


 全生徒が整列を完了したところで、学年主任が話をはじめる。


 改めて今日の活動の概要や注意事項が説明され、それが終わると担任が決めた男女二人ずつの班に分かれた。


「高峯、よろ!」 

「よろしく。木村と谷川も」

「うーす、よろしく」

「ほんとよく一緒になるね、あんたら」

「自分でもそう思う」


 うちの面子は晴海に谷川、そして木村。知った顔ばかりだ。


「じゃあ早速、役割分担しよっか」

「だね。トングは二つに……袋は予備含めると三つか」

「無難なやり方だと、半分がゴミ集めでもう半分が袋持ちって感じ?」

「それにすっか。一人ずつでペア作ってやるべ」

「はいはい! あたしゴミ集める方やりたい!」

「お、陽奈やる気じゃん。高峯は?」

「じゃあ、俺は袋を持つよ。晴海と一緒に回ることにする」

「おっけー」

「頑張ろうね。じゃんじゃん拾うから、あたし」

「おう」

 

 最後に谷川は木村を見る。


「あんたはどうすんの」

「うーん、俺は集める方で」

「決まりだね。私らの班は住宅街の方だっけ?」

「合ってる合ってる。よっしゃいくぞー!」

「「「おー」」」


 晴海の音頭を皮切りに、俺達はその場から移動を始めた。


 


 校門を抜ける時、たまたま同じクラスの班とタイミングが被る。




(……あ)




 その中に小百合の姿があった。


 目の前を通り過ぎていき、その後ろを会話に興じている班のメンバーがついていく。


 そのまま一歩先に外へ出て、俺達が向かうのとは反対の方向に行ってしまった。


「高峯、置いてくぞー」

「あ、待てって」


 見送るようにしていた視線を前に戻し、晴海達と足並みを揃える。





 ……何故だろう。


 ただ一人迷いのない足取りだったあいつの姿が、一瞬だけ。






 前よりずっと、周囲から切り離されたように見えたのは。






◆◇◆

 

 

 


 

 カァ、とカラスの声が響く。






 住宅街の監視者である彼らは、電線や石垣の上から俺達を眺めてはゴミ袋を虎視眈々と付け狙う。


「よ、っと。案外探せばあるねー」


 晴海がガムの包装紙らしきものを拾い、そう言った。


「こういう小さいのが割と多いな」

「袋開けた時の切れ端とか、気付かないうちに落としてない?」

「あー、わかる」


 まだ三十分くらいしか歩いてないのに、そこそこ溜まってる。普段気にしてないだけであるもんだな。


「あっ、またはっけーん」

「さっきから見つけるの上手くね?」

「ウチじゃ掃除は日課だしねー。はいこれ」

「おう」

 

 また新たなゴミを拾った晴海の表情はとても清々しそうで、つい呟く。


「なんか、楽しそうだな」

「ん? そう見える?」

「ああ」


 普通、こういう行事は面倒臭がるやつが大半だろうに。純粋に掃除が好きなのかもしれないが。


「ほら。こうやって綺麗にしてったら、誰かがここを通った時に気分良くなるかもじゃん? したらあたしも嬉しいし。そんだけかな」

「……そっか」


 飾ることもなく、そういうことを言えるんだな。


「それにさ。どうせあんたと一緒にやるなら、テンション上げてった方が絶対いい思い出になると思うから」

「っ!」

「あ、ねえこれもお願い。って、立ち止まってどうしたの?」

「……いや、なんでもないよ」

「そ? 歩くの早かったら言ってね」


 晴海が振り向かせた顔を戻すのを見計らい、自分の頬を軽くつねる。


 ……まずいな。あまりに何気なく言うものだから、つい見惚れていた。


 


 最近、気がつけばこうだ。


 結局、いいよと口にしてくれたわけでも、ましてや〝一緒にいてほしい〟などと求められてもいないのに、側にいたい思いばかりが強くなる。


 それはかつて、一度は経験した事がある感覚にどこか似通っていて。




(たった半月くらいなのにな。俺って案外……)




「うわー、腰だりぃ……」

「シャキッとしな。だらけてると終わんないよ」

「ういー」


 俯きかけていた顔が、近くから聞こえた会話で元に戻る。


 見ると、木村が谷川にせっつかれてせっせとゴミを探しているようだ。


「谷川って結構、人を引っ張るタイプだよな」

「だよね。姉御肌って感じ? 相談とかも乗ってくれるし、面倒見はいいと思う」


 一種の統率力と言うべきか。


 谷川には場を仕切る力があるのだと思う。いつものグループでも、中心にいるのは晴海でリーダーは谷川って印象が強い。


「さっ、木村みたいに怒られないよう探そうっと」

「そうだな」


 俺も目を皿のようにしよう。



 

 それからも晴海のやる気は大したもので、次々にゴミを見つけては拾っていった。


 あまり集まらないかなという当初の予想を裏切り、一時間もする頃には木村達が拾った分も合わせるとそれなりの量に。


「結構集まったねー」

「ちょっと達成感出てくるな」

「やり甲斐あっていいじゃんいいじゃん!」


 三分の二ほど溜まったゴミ袋にやる意味も出てきて、空気も和やかだ。


「おっ」

「あっ」


 その直後、道角を曲がった先で偶然にも他のクラスらしき班と鉢合わせする。


「谷川じゃん」

「うーす。そっちどう?」

「そこそこって感じ? あ、晴海もいるじゃん」

「やっほー」


 どうやら晴海達の知り合いだったようだ。もう一人も加わってそのまま立ち話が始まってしまった。


「ふいー。つっかれた」

「ノンストップだったからな」


 脱力する木村に倣い、俺も一度ゴミ袋を地面に下ろす。


「ん? うわっ」

「いきなりどうした?」

「いや、あっちの班のやつなんだけど。お前めっちゃ睨まれてね?」

「え?」


 その指摘に向こうを見たら、確かに俺を見ている男がいた。


 さっきのやつだ。校庭の時と同じく強烈な目線に、思わず生唾を飲む。


「知ってるやつ?」

「いや……」

「あれか? また晴海絡みとか?」

「わからん。謎だ」


 改めて顔を見てもやはり覚えがない。名前はおろか、話したことさえないはずなんだが。


「したらもう少し……って。ちょっと、あんた」


 気圧されていたところ、友達と話していたはずの谷川がいきなり男に声をかけた。


「なんだ」

「ガン飛ばし過ぎ。何、なんか気に入らないことあんの?」

「別にそうじゃない」

「だったらそれやめろって。あんたさぁ、また(・・)勘違いされるよ」

「む……わかった」


 驚いた。


 男は谷川が苦言を呈した途端に、素直に言うことを聞いて吊り上げていた眉を戻したのだ。


 すると元から目元が鋭いことがわかる。力んでたから余計に威圧感が出てたのか。


「悪かった」

「いや、別にいいけど」

「……」

「……あの。俺、お前と何かあった?」

「……何も」


 うわあ、明らかに含みのある「何も」だ。


 微妙に視線ズレたのが気になるものの、これ以上深く突っ込むのも躊躇われた。


「そいじゃ、ウチらもう行くわ」

「あいよー」


 ちょうど会話のキリも良かったのか、解散する雰囲気になる。


「……じゃあな」


 軽く頭を下げて、男も背を向けた。


 離れていく彼らを見送る。それから谷川に一言告げた。


「助かった」

「いいって。あれは進藤のやつが悪いし」

「進藤っていうのか?」

「何々、真里の知り合い?」


 あっけらかんとした谷川の言葉に興味を惹かれたのか、隣に晴海がやってくる。


「同中なんよ、あいつ。昔っから無口であんなんだからよく怖がられてんの」

「へえ。確かにこう、カッ!って感じだったよね」


 目元に手を当てて凄む晴海に、他の三人ともが笑った。


 全然怖くないし、むしろこいつがやると可愛いらしいまである。


「まっ、変わってるけど悪いやつではないよ」

「なら今はそれを信じるよ」


 言いながら、下ろしていたゴミ袋を持ち直す。




「カァ!」




 直後、突如として襲来する甲高い鳴き声と目の前をよぎる小さな影。


「………は?」


 間抜けに声を上げた時にはもう遅く、手の中を見下ろすとゴミ袋は綺麗さっぱり姿を消している。




 訪れる一瞬の静寂。




 それから全員でバッ!と見上げると、脚にゴミ袋を引っ提げたカラスが飛び去っていくところだった。


「ちょっ、持ってくなしーーっ!?」

「おいおい、マジかよ……」


 晴海の叫びが響く中、バカにするようにもう一度カア、とカラスが鳴いたのが聞こえた。


「嘘だろ……」

「ドンマイ、高峯」


 俺はといえば、盗られた状態のまま呆然としていて。


 何もできずに立ち尽くしていると、がしっと中途半端に持ち上げていた手首が掴まれた。


「追いかけるよ!」

「え? うぉっ!?」


 晴海に引っ張られ、突如として走り出す。


 何がなんだか分からず目を白黒させるも、無理に振り解くこともできずにされるがままになった。


「おい、お前らもか!」

「ったく! ついてくよ!」

「マジで!?」


 後ろから谷川と木村が追いかけてくるのを感じながら、奇妙な追走劇が始まった。






◆◇◆






「はぁっ、はぁっ……見失ったね……」

「ちくしょう、あのカラスどこいきやがった……」


 もう、30分も経ったか。


 気がつけば俺達は、元の場所からずいぶんと離れたところまで来ていた。


 あっちこっち飛び回るもんだから、こっちも走りすぎてグロッキー状態だ。


「てか、ごめん……つい手掴んじゃって……」

「それはいいけど……谷川達から連絡とかは……?」


 あまりに夢中で走り回っていたから、いつの間にか逸れてしまった。


 晴海はジャージのポケットからスマホを取り出すと確認してくれる。

 

「あー、きてる。ちょいおこだわ」

「やっぱりか?」

「でもあっちでも探してくれるって。迷惑かけちゃったなー」

「それを言ったら元は俺が悪いよ。ちゃんと持ってりゃこんなことには……」

「不可抗力でしょ。言いっこなしだよ」


 そうは言っても、我が身の不始末である。


 もしあのカラスが集めたゴミを飛びながら撒き散らしてたりしたら大惨事だ。空から降り注ぐ汚物とか冗談じゃない。


「とにかく、もう少し探してみよっか」

「そうしよう。まだ時間はあるしさ」

「うん」

 

 立ち話してても仕方ないので、歩きながら手を考えることにする。


「あたしこそ、持ってかれた時点で諦めればよかったのにね。半日の苦労が無駄になるって思ったらつい追っかけちゃった」

「別に悪いことじゃないだろ」

「って言っても何もアテがないしねー。どうすればいいと思う?」

「いっそのこと、そこら辺にいる人に聞き込みでもしてみるか?」

「それありかも。袋持ってるなら目立つもんね」

「まだ持ってたら、ではあるけどな」

「それも言いっこなしっしょー……」


 あまり考えたくないが、もしそうだったら捜索は絶望的と言わざるをえない。




 しばらく探しても、やっぱりそう簡単に見つけることはできず。


 どうしようか改めて方法を考えようとした時、前を見ていた晴海が何かに気づいた素振りをした。


「あっ、あそこに人いる。ちょっと聞いてみよ」

「本当にやるのか?」

「手詰まり感あるし、どうせならやってみない?」


 相変わらずの決断力で通行人に近づいていく晴海の後を急ぎ足で追いかける。


「すみませーん。ちょっと聞きたいことがあるんですけど」

「はい? 私にですか?」

「ここらへんでゴミ袋持ったカラス、飛んでませんでした? これくらいの袋なんですけど」


 晴海が話しかけたのは、一人の女性だった。


 追いついた俺はその人物を見て、誰なのかを理解した瞬間びっくりして立ち止まる。


「ごめんなさい、ちょっと見てないわ」

「そうですかー……あ、突然なのにありがとうございました」

「いえ、気にしないで……って、あらあら。誰かと思えば、聡人くんじゃない」

「……(らん)、さん。お久しぶりです」

「へ? このお姉さんと知り合い?」

「あら。お姉さんだなんてお上手ね」


 目を瞬かせる晴海に、そっと耳元に顔を寄せると小声で答える。


「小百合の母親だ」

「っ! そっか、宮内さんの……」


 もう一度蘭さんを見て、晴海が合点が言ったような反応をした。


 小百合と結構顔立ちとか雰囲気が似てるからな。言われれば親子とすぐに分かる。


「あの、はじめまして。高峯のクラスメイトの晴海陽奈です」

「ご丁寧にありがとう。改めて、宮内蘭よ。聡人くんとは小さい頃からの付き合いでね」

「いつもお世話になってます」

「こちらこそ、お母様ともいつも仲良くさせていただいてるわ。今は学校の行事中かしら?」

「はい。蘭さんは?」

「少し買い出しにね」


 蘭さんはエコバッグを軽く持ち上げる。なるほど、買い物に向かう途中で呼び止めてしまったようだ。


「ゴミ袋、持って行かれてしまったのは残念だったわね」

「俺の不注意でした。あっという間に掻っ攫われちゃって」

「あまり落ち込まないのよ」

「はい……あれ?」


 上品に口元に手を添える蘭さん。そこであることに気がつく。


「蘭さん、その薬指のって……」

「ああ、これね」


 俺が何を見ているのか気がつき、蘭さんはそれを──婚約指輪らしき銀色のリングを自分で見下ろした。


「実は再婚することになったのよ。最近決まったのだけどね」

「再婚……本当ですか」

「ええ、本当よ」


 蘭さんが微笑む。それは初めて見る、母親ではなく一人の女性としての表情だった。


「その、おめでとうございます」

「おめでとうございます! わー、素敵な指輪ですね!」

「二人とも、ありがとう。でも少し驚いたわ。聡人くんはあの子から聞いたものだとばかり……」


 一瞬、体が強張る。


 蘭さんが誰のことを言っているのか、聞かずとも分かったから。


「……小百合とは今、距離を置いてまして」

「あら。どうりで最近、あの子から何も話を聞かないと思ったわ。少し心配していたのだけど……そう」

「なんか、すみません」

「聡人くんが謝ることなんてないわ。きっとあの子がまた頑固になってるんでしょうし」

「また……ですか?」


 つい気になって聞いてしまうと、はあと蘭さんはため息をつく。


 緩やかに目を伏せる仕草はしょうがないとでも言うかのようで、すっかり親の顔に戻っている。


「昔からそうだもの。本当は聡人くんを大切に思ってるのに、甘えすぎてるとすぐ意地になって。それで余計に強がるものだから、あなたも気後れしてしまっていたでしょう?」

「……え?」


 隣から、晴海の声が聞こえた。

 

 その一言は蘭さんの発言への驚きに満ちており、真偽を確かめるように俺を見て。


「──いえ。俺がただ、力不足だっただけですよ」

「聡人くんは相変わらす謙虚ね。あの子ったら本当、私に似たのか不器用で……っと。私ったらつい愚痴っぽくなっちゃったわ。あなたもごめんなさいね」

「あ……いえ。大丈夫です」

「二人とも、頑張ってね。多少失敗してもめげずに再トライすること!」

「お気遣い、ありがとうございます」


 満足したように笑い、「それじゃあね」と蘭さんは踵を返す。


 徐々に遠くなっていくその後ろ姿が、どこかあの日の小百合のそれと似通っているように見えた。


「……高峯。その」

「よし。じゃあ捜索を再開しようか」

「え? あ、うん」


 晴美と一緒に、移動を再開する。


「なあ、晴海」

「……なに?」

「聞き込み、もう少し続けてみよう。今回は収穫がなかったけど、そのうち何か聞けるかもしれないし」

「……うん」


 心なしか。答える彼女の声は、いつもの張りがないように感じられた。


 その原因がなんであるのか薄々理解はしていたが、わざわざ掘り返すほどのことじゃないように思えた。


「ね、高峯」

「ん?」

「手。もう一回繋いでよ。あたしここら辺わかんないし」

「……分かった」


 その代わりとでも言うように、差し出された手へと応じる。


 順に小指から握った女の子らしい華奢な手は、最後まで完全に重なった瞬間、離すまいとするように力がこもる。


「ゴミ袋。見つかるといーね」

「ああ、そうだな」



 すべきことを間違えないよう、そんな言葉を交わして。




 俺達は住宅街の中を歩んでいった。









読んでいただき、ありがとうございます。


明後日か明明後日には更新できるよう努めます。

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― 新着の感想 ―
[一言] これだけ魅力的な彼女がいるのに、いちいち自分を振った女を気にするのがイライラする。 読んでいて小百合の魅力を一切感じることがないから余計に阿呆かと思ってしまう。
[気になる点] 先輩は義理の兄???婚約者???
感想一覧
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