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これまでと違う日常に

さて、プロットを確認しつつスタート。


よろしくお願いします。




 それは、朝のホームルームが始まってすぐのことだった。

 

 


「突然だが、今日は席替えをするぞ」




 教壇に立つ担任の放った言葉に、しんとしていた教室のそこかしこから声が上がる。


「このタイミングでかー。確かにキリいいもんな」

「えー、せっかく仲良くなれたのにー」

「また隣の席になれたらいいねー」


 喜ぶやつ、残念がるやつ。興味がなさそうなやつもいる。


 悲喜交々なクラスメイト達を見ながら、俺はまだそのどれにも属しきれないでいた。


 この席に思い入れはないが、席替えという〝変化〟に対して完全に積極的な気持ちにもなれない。言うなれば期待と不安が半々の心境だ。



 

 ここんとこ、周りの環境の変化がめまぐるしかったからなぁ。


 最たるものは、幼馴染で初恋相手の小百合に告白して、疎遠になったこと。


 一つの言葉や偶然がきっかけで、全てが変わる。そんな経験を短期間で繰り返したせいか、つい身構えてしまう。


 たかが席替え、されど席替え、だ。


「あーん、離れるの寂しいよー」

「それな。晴海の近くにいるとおもしれーのに」

「別にどこでも同じじゃない? 友達なのは変わんないんだしさ、フツーに話しかけてよ。てかあたしが行くし」

「あははっ、陽奈らしー!」


 ふと、教室の中でも一番賑わってる方を見た。


 廊下側の席で、周りのあらゆるクラスメイトから席替えを惜しまれているのは、とある女子。

 



 晴海陽奈。


 その快活さと可愛さからクラス中に好かれる人気者で……紆余曲折あって、今は俺の恋人。




(あいつはこんなの、ものともしなさそうだな)


 


 俺に変化をもたらした大きな要因の一つである彼女は、どこにいてもああして人に囲まれているんだろう。


 向日葵のように力強い姿を見ていると、そう思ってしまう。




(……もし、晴海と近くの席になったら。どうなるんだろうな)



 

 不意に浮かんだその考えに、ぱちりと瞬きした。


「……ははっ」


 おかしくて笑いがこぼれた。


 だってそんなの、絶対に何か起こるに決まってる。変化があったらどうしよう、なんて思ってたくせに。



(でも……悪くない、かな)



 訂正しよう。やっぱり少し、楽しみ寄りだ。

 



 あれこれと考えてるうちに、担任が席替えの準備を終えた。


「よし、回ってくから順番に引いていけー。」


 右端の列から、一人ずつ担任が持つファイルスタンドに入れられたくじを取っていく。


 なんだかんだと皆も席替えが楽しいのかスムーズに進み、あっという間に自分の番がやってきた。


「高峯、お前の番だ」

「うす」


 手を突っ込んで、無造作に弄る。


 晴海は既にくじを引いてる。願わくば、と軽く考えつつ、二つ折りになった紙片の一つを取り出した。


「それでいいか?」

「はい」

「よし。次だ」

 

 後ろの席に行く担任を見送って、くじを開く。


 中に書かれた番号と、担任が黒板に書き込んだ座席の対応する数字を照らし合わせた。


「全員引いたな? じゃあ早速だが移動してくれ」


 最後の席まで回りきり、正面に戻った担任の一声で騒がしく皆が立ち上がり始めた。




 俺も荷物を手に、新たな自分の席へ向かう。


 場所は後ろから二列目の、左端の列より数えて三番目だった。


「ここだな」


 とりあえず座ってみる。


 うん、別に普通だな。机も椅子も全部同じだから当たり前だけど。


「前は……問題なしと」

「おっ、高峯じゃん」


 ちゃんと黒板の文字が見えるか確認していると、左斜め前の席に見慣れた人物がやってきた。


谷川(たにがわ)か」

「よーす。奇遇だね」


 近頃よく絡む美人トリオの一人、谷川真里(たにがわまり)


 紫のインナーカラーが映える艶のある長髪とモデル体型なクラスの女子一の長身が特徴的な彼女は、気さくに挨拶すると自分の席に腰を落ち着けた。

 

「あんたと近くになるとはね。まっ、よろ」

「おう、よろしく」


 まずは知り合いが一人、ご近所か。


 他の席を見回してみれば、ヒロは前と変わらず窓際。美人トリオの他二人は前の方で固まってた。




(小百合は……)

 



 また、条件反射のように探してしまう。


 窓際の最後尾にあいつはいた。

 しゃんと伸びた背中とまっすぐに前を見る眼差しは、晴海とは違う意味でどこでも同じだ。


「たーかみねっ」


 さて、いよいよ本命を探そうとした時。


 すぐ近くから聞こえてきた鈴を転がすような声と、軽く右の方を突かれる感触に振り向けば、そこには思い浮かべたばかりの相手が。


「晴海?」

「そうです、あたしでーす」

「あれ? お前の席って、もしかして……」

「ここだよ。ほら、これ見て」


 ずいっと突きつけられた紙片には、確かに隣の席の番号が書き込まれているではないか。


「マジか」

「どう、ビックリした?」


 見せつけるために指で端が伸ばされたその向こうから、晴海は悪戯げな顔を出す。


「ふふっ。あたしが隣で嬉しいっしょ」

「ああ、めっちゃ嬉しい」

「……えっ?」


 驚きのあまり、なんか口から出た気がする。


 いやしかし、本当にこうなるとは。近くの席どころか隣だなんてな。


「案外、思えば実現するもんだな。今日はラッキーデーかもしれん」

「そっ。そっ、かぁ〜……それは、よかったねぇ〜……」

「晴海? なんか様子が……」

「ぷっ。あんたストレートすぎ、陽奈がキャパオーバーしてんじゃん」 

「え?」


 可笑しそうに言った谷川の言葉に晴海を見る。


 すると、ほんのり赤く染まった顔で軽く睨まれてしまった。


「……高峯のばか。ちゃんと口にブレーキつけてよ」

「わ、悪い?」

「うわ、なんで怒ってんのか分かってないって顔だ」

 

 若干解せない。が、お叱りを受けた以上は反省しとくか。




「はいはい、一旦こっちに注目しろー」


 俺達を含め、教室のいたる場所で起こっていたざわめきは、担任の一声で鎮まった。


「よろしい。新しい席になってはしゃぐのはわかるぞー。俺もお前らくらいの頃はそうだったからな」

「せんせー、それってどれくらい前の話っすかー?」

「失敬な、ほんの10年前だよ」


 はは、と軽く笑いが起こった。


 うちのクラスの担任は若い方でノリもいいため、派手な生徒が多い割にまとまってるとこがある。


「ともかく、だ。これから一学期も後半に入っていくが、羽目を外しすぎないよう程々に頑張ること。いいな?」

『はーい』

「いい返事だ。では諸連絡に入る。まずは今週末の全クラス合同で行う町内清掃についてだ」


 一転し、えーと面倒臭そうな声を漏らす面々に担任は苦笑する。


「お前らにとってあんま楽しくない行事なのはわかるが、来月の頭にはクラスマッチもあるから頑張れ。えー、当日はジャージを着用してくること。それから可能なら軍手なども一緒に……」

 しばしの間、学校に関係する連絡事項が告げられていく。


 一限目が始まる15分くらい前に切り替えられて、担任が退室していった直後、堰を切ったように教室は落ち着きを失った。


「よーすお二人さん。隣同士とはツイてるな」


 ガヤガヤと賑やかなクラスメイト達の間をすり抜けて、近づいてきたのは親友のヒロだった。


「おう、今日も野次馬顔が標準装備だな」

「それだと馬面みたいに聞こえねぇ? まっ、付き合いたてのカップルには幸先がよろしくて何よりだよ」

「ほんとにね。リアルで恋愛ドラマかっつーの」

「運命ってやつだー」


 続けてギャルトリオも集結。一瞬で人口密度が倍に増した。


「真里、あんた特等席じゃん」

「それ。てか聞いてくれない? さっき陽奈が高峯をからかおうとしたら失敗してさぁ」


「ちょーっ! いきなり暴露しようとすんなし!」

「なになに、なんかオモロい話?」

「城島ステイっ!」

「ワン。って犬じゃねえんだわ」


 は、晴海が翻弄されている。こいつら揶揄う時は相性良さげだな。


 なんて傍観していたのもわずかな間のことで、俺にもイジリが飛んできて二人でやられるハメになった。




「つーかさ。どうせならこのメンツで一回遊びに行かね?」


 しばしツッコミに追われていたら、ふと思いついたように不良系ギャルこと斎木光瑠(さいきひかる)が言い出した。


「おー、いいな。ちょい遅めだけど中間テストの打ち上げもしたいしー。ウチさんせー」

「私もいいよ。今日は暇だったし」

「そういうことなら俺も参加させてもらおうかね。んで、お二人さんは?」

「私はオッケー。高峯は?」


 全員の目が俺に向く。あとは俺の是非で、って雰囲気だ。


「悪い。今日は放課後バイトなんだ」

「あちゃー。そりゃ仕方ねえな」

「んじゃ別の日にすっかー」

「いいのか? 別に五人で行っても……」

「ま、こういうのは言ったときのメンバー揃ってないとね。一人だけ疎外感出すの論外だし」


 谷川が言うと、揃って他の四人も頷く。気の良いやつらだな。


 それでも少し迷っていると、陽奈が苦笑した。


「あんた、気ぃ遣いすぎ。そんな心配しなくていいんだよ」

「……じゃあ、今回はお言葉に甘える。また今度計画しよう」

「おーう。感謝しろー」

「なんであんたが偉そうだし」


 よかった。空気は悪くならなさそうだ。


 あまり大人数の中にいることに慣れていないからヒヤヒヤものだ。


 漠然と、今後もこのグループが定着化していく気もするけど。早いところ対応してかないとな。


「席につけー。次のチャイムで授業始めるぞー」


 たわいもない雑談をしていると、予鈴のチャイムとともに一限目の教師が入ってきた。


 慌ただしく皆が自分の席に戻っていき、俺は教科書やノート、筆記用具などを机の上に揃える。




 そして再びチャイムが鳴り響き、学校での1日が始まった。





読んでいただき、ありがとうございます。




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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公との関係を間違っていると一方的に判断して、縁を切ったっていうことかな? それで周りの人達と上手くやってる様を遠くから見て、自己満足に浸ってると。 うーん…普通に付き合わなくて正解な女で…
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