初恋・消沈
章の作成に加え、サブタイトルの統一化をしました。
楽しんでいただけると嬉しいです。
「くぁ……ねみぃ……」
結局、あれから一睡もできなかった。
飯食ってても目を瞑っても告白のことが頭に浮かんで、挙句の果てには夢にまで見る始末。
寝ても覚めてもそんなんで、気がつけば朝日がカーテンの向こうから差し込んでいた。
「怠い……」
「おはよーす、アキ」
「ん……ああ、ヒロか……」
欠伸を噛み殺しながら校舎に向かっていると、校門を超えたあたりで隣に一人の男が並んできた。
簡潔に言えば、チャラい。茶髪にピアス、俺より頭半分は高い高身長。おまけに結構なイケメン。
我が友人である城島弘宗は、朝っぱらから俺とは対照的に元気だった。
「どしたん、クマなんてこしらえちゃって。はっ、もしや宮内さんへの告白が成功して、早速眠れぬ夜を過ごしたのか?」
「ははは……そうなったらどれだけ良かったか……」
「ありゃ。その反応、フラれたか」
「うぐっ」
迂闊なことを言うんじゃなかった。ヒロも目敏いのに。
「ま、ドンマイ。不幸な事故だと思って呑み込みな。何も人生最後の一日じゃねえんだから」
「そんな簡単じゃねえよ……」
「初恋だったっけな。まっ、大抵は叶わないもんさ」
ぐっ、事実フられた身なので言い返せねえ。
それに、初恋が実る可能性が低いというのは、一般的に当てはまることが多いのもまた事実。
俺は見事、その仲間入りを果たしたわけだ。
そんなことを思いながら若干危ない足取りで歩いていた時、不意にドンっと左肩に衝撃が走った。
弾みでカバンを手放してしまい、チャックをちゃんと閉めていなかったのでボロボロと教科書やらが散乱した。
「うわっ」
「ありゃ。不幸は不幸を呼ぶってか」
「すまん! ぶつかってしまった!」
「あーいや、こちらこそすみません」
むしろ申し訳ないくらいだ。
謝ってきた相手に生返事をして拾おうとすると、それより先に太い腕が視界に映った。
その手は俺の教科書を拾い上げ、こちらに差し出してくる。
「拾うの、手伝うぞ」
「……あざます」
「俺も拾おうか?」
「助かる」
三人でせっせと鞄の中身を集める。
全て鞄に納め直したところで、揃って立ち上がった。
「あ……大門先輩」
「改めて、すまなかったな。避けられれば良かったのだが」
そこでようやく顔を見ると、俺の前にいたのは大門竜司先輩。
二年生でありながら空手部の主将を務めてることで、一年の間でも結構有名だ。なんでも中学で全国まで行ったらしく、一年でエースにまで上り詰めたらしい。
ヒロ以上の大きな体はがっしりとした逆三角形で、太い首筋や手は浅黒く焼けている。堂々とした雰囲気は、なるほど主将としての貫禄を感じさせる。
「む? 俺を知ってるのか」
「まあ、そこそこ」
「先輩は有名人ですからね〜」
「そうか。ありがたいことだな……っと、そろそろ失礼する」
「あっ、はい。ありがとうございました」
「うむ。気をつけてな」
人好きのする精悍な微笑を浮かべ、先輩は校舎の方に小走りで駆けて行った。
「あれが噂の、ねえ。確かに有名にもなりそうだわ」
「……結構優しいってのも評判通りみたいだな。拾うの手伝ってくれたし」
あんな完璧超人になりたいもんだ。
取り留めもない雑談をしつつ、教室に向かう。
道中、変な視線は感じなかった。どうやら晴海以外には見られてなかったっぽいな。
「ん? どうした、宮内さんでも探してるのか?」
「違うわ。てか、絶対誰にも言うなよ」
「そりゃ勿論」
念を押してるうちに、教室の前に到着した。
扉に手をかけると、一瞬昨日のことが思い浮かぶが……振り払って開ける。
クラスの様子もいつも通りだった。
教壇のあたりで駄弁っているやつらや、朝から黄色い声を上げて何かを見ている女子達、はたまた静かに読書しているやつ。
小百合は……まだいないみたいだな。
「うぃーす、アキ、ヒロ」
「うす」
「おいーっす。何、盛り上がってたじゃん」
「それが昨日のゴ●に出てた料理がさ〜」
ヒロは早速、男子グループの方に自然に混ざる。
俺もたまにそこに混ざるが、今日ばかりは気乗りせずに自分の机へ直行した。
「ねっむ……」
鞄を置いて早々に、机に突っ伏す。
徹夜は初めてじゃないけど、心境が心境だけに疲労度が違う。
まだ一限までしばらくあるし、寝ておこうかとぼんやりした頭で考えた。
腕を枕がわりにしながら、瞼が落ちるまで周りに目を向けていると……入り口近くにいた晴海と目が合った。
「あっ……」
喧騒に紛れて、晴海の呟きが聞こえる。
思わず頭を上げてしっかり目線を合わせると、数秒見つめ合ってからあちらが目を逸らした。
すぐに友達との会話に戻ってしまい、なんだか肩透かしを食らった気分で頭を戻そうと……
「あっ、宮内さんおはよう」
「おはよう」
「いっ!?」
した瞬間、聞こえた声に肩が跳ねる。
反射的に鞄で頭を隠す。
眠気は吹き飛び、昨日のように心臓が素早く鼓動を始めた。
だが、緊張の中に甘酸っぱい気持ちがあった以前とは違う。締め付けられるような、苦しい脈動だ。
「っ……」
恐る恐る、鞄から顔を出す。
そして、小百合の席を見ると……隣の席のクラスメイトと挨拶を交わしたあいつはいつも通りだった。
座っても綺麗な姿勢も、芯の強そうな目つきも、何も変わらない。
それを見ていると、まるで俺だけが昨日に取り残されているように錯覚する。
「……バカみたいじゃん、俺」
「…………」
読んでいただき、ありがとうございます。
次回から本格的に展開が進んでいきます。
お楽しみに。