表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/73

親友への恋愛相談


就活にスランプと、中々進まない本作で申し訳ありません。


楽しんでいただけると嬉しいです。




 週明けの月曜日は、朝から曇天の様相を呈していた。




 空には分厚い灰色の雲が垂れ込め、一日中湿り気を帯びた空気が肌に張り付くようだ。


「あー、頭いってぇ……」

「大丈夫か?」

「へーきへーき。ったくよー、昨日のニュースじゃ今日は晴れだって言ってたのに。参ったわ」


 早速、その余波を受けている人間が隣に一人。


 低気圧に弱いらしいヒロは気だるげな様子で、緩慢に焼きそばパンを頬張っていた。


「頭痛薬とかは持ってないのか?」

「んにゃ。帰りに買うわ」

「そっか」


 窓の外へ目をやると、決壊一歩手前というところ。




 あらかじめ折り畳み傘を持ってきといてよかった。


 晴海は、ちゃんと持ってるんだろうか。


「で。お前の方こそ、今日一日難しい顔してるのはなんでだ?」

「え? そんな顔だったか?」

「まあな。時々どっか遠くを見てるっつーか。こんな顔してたぞ」

「マジか」


 ヒロが指で眉を寄せる仕草をして、思わず自分の眉間に触れる。


 完全に無意識だった。人に言われるなんて相当だろう。


「俺みたいに偏頭痛ってわけでもなさそうだし。またお悩み中か?」

「あー……まあ、悩みがあると言えばあるけど」

「ほーん。それってやっぱり晴海のこと?」

「何でそうだって決めつけるんだよ」

「ここ最近のお前の懸念といったら、大概それ一択だからな」


 悔しいがその通りである。


 数日前から、とある一つの懸念が俺の中にはあった。


「その顔は当たりだな。なんならまた相談に乗ってもいいけど」

「あー、んー……」

「なんだよ。よっぽど深刻なのか?」

「いや、そういうわけじゃないけど」


 ただ、ちょっと恥ずかしいというか。


 この前のデートの時もそうだったが、俺は自分の内心を人に明かすのが苦手な性分らしい。


「話してみろって。何かアドバイスできるかもよ?」

「頭痛いくせにわりと元気だな、お前」

「ついでに、この痛みを紛らわせてくれるような話だと俺的に嬉しい」

「さては半分くらい野次馬根性だろ」


 ヘラヘラとした態度だが、その言葉には一理あった。




 それにヒロは、結構交友関係が広い。


 男女問わずいろんな奴と話しているのを見かけるし、俺より人付き合いの経験は豊富だろう。

 何かいいきっかけになるようなことを教えてくれるかもしれない。


「……確かに一人で考えるのも煮詰まってた感じがあるし、お前の口車に乗るのも悪くないかもな」

「おっ、そうこなくちゃ」


 念のため周囲を確認してから、声を顰めて話しだす。


「その、こんなことを聞くのも変な感じなんだが……どんなことをすれば恋人に喜んでもらえると思う?」

「そりゃまた大味な疑問だな」

「色々あって、晴海に何かしてあげたいと思ってるんだが、正直自分じゃよくわからなくてさ」

「つまり、もっと距離を縮めたいと」

「……有り体に言えばそうなる」

「いいじゃん。乗り気になってきたな」


 むぐ、と口ごもる。


 これもまたその通りで、それを察した奴は楽しげにひと笑いすると真剣な顔をした。


「んー、相手のタイプによるんじゃね?」

「タイプ?」

「その子の性格次第で、相手に求めるものも違ってくるって話。たとえば趣味の話が合ったり、一緒にいると安心する雰囲気だったりな」

「確かにそうだな」


 晴海も言っていた、その人によって欲しいものは異なると。


 小百合が先輩と付き合ったのは、きっとそれをあの人が持ってたからなのだろう。


「生々しいとこでいくと、単純に物とか金とかもあるぞ」

「生々しすぎるわっ。要するに、一概にこうすればいいっていうものはないのか」

「まあそうだな。お前から見た晴海はどんな子なんだ?」

「俺から見たあいつ……」




 今までのことを思い出す。


 思い出すのは、可愛いものやファッションが好きだと語る時の純粋な喜び。


 友達と話す時の朗らかさや、物語に本気で感情移入する豊かな感受性。




 そして何より、時折見せる大きな包容力。


「……いつも喜怒哀楽がはっきりしてて、一緒にいると楽しくなってくる女の子、かな」

「あれ。もしかして俺、惚気られてる?」

「違うが」


 聞かれた通りのことを答えたのに何を言ってるんだろうか。


 怪訝な目を向けると、呆れたような笑みでかぶりを振られる。なんだよ。


「まあ、それはいいとして。もっと具体的に言うと?」

「俺の見てきた限りでは、物とか立場より、気持ちや行動を大切にする子……だと思う」


 晴海は、人からもらった言葉や思い出を心から大事にしているのだと思う。




 思わず自分の手を見つめると、ヒロはふむと顎に手を当てた。


「かなり難しいなぁ」

「そうなのか? さっきの例に比べたら楽な気がするけど」

「明確に形があるもののほうが簡単なことも多いんだよ。相応の用意さえあれば、ほぼ確実に期待に応えられるからな」

「ああ、なるほど」


 確かに、実際には形のない感情や言葉よりずっとわかりやすくはある。


 目に見えるというのは、それだけである種の実感を与えてくれるんだろう。


「よく言うだろ? 付き合って一ヶ月〜とか、初デートの記念に〜、とか。あれは一種の意思表明なんだよ、あなたを喜ばせたいですってな」

「中々奥が深いな……」


 こういうところで自分の交際経験のなさが浮き彫りに出て、少し歯がゆい。


 苦々しい顔をすると、ピッと人差し指を向けられる。


「だが、一番大事なのは自分がその人に何をしたいかだ」


 思わずきょとんとしてしまった。


 それは今までとは全く逆の立場の視点だったからだ。


「どんな方法を使ったって、最終的に相手が見るのは本気かどうかだ。ちゃんと気持ちがこもってないと何をやっても意味がない」

「俺の、晴海への気持ち……」

「お前は晴海にどうしたい? 何が欲しいんだ?」

「……もっと笑ってほしい。一緒にいて楽しいと思ってほしい」

「ねえ、やっぱり俺惚気られてるよね?」

「ちげえよ」


 ずっと真面目なのに何故そんな目をされなきゃならんのか。




 やれやれ、とかぶりを振ったヒロは俺の肩を軽めに叩いた。


「ま、よく考えてみろ。相手に何をしたいのか。そのためにどんな手段を用いるか」

「そう、だな。サンキュ、色々聞いてくれて」

「いやいや。中々面白くていい薬になったよ」

「ったく、何言ってんだよ」


 だが、本当にいい参考になった。


 こいつに相談したのは正解だったな。


「しかし、意外だわ。お前がこんな初歩的なことで悩むとは」

「意外?」

「や、あの見るからに気難しそうな宮内さんと一緒にいたっていうから。そういうのはむしろ慣れてるイメージだったんだが」

「……まさか。何にもできなかったさ」


 ふと、小百合の席の方を見る。


 どうやら今日は教室にいないようで、空の座席はどこか寂しげだった。


「そっか。幼馴染といえど、そんなもんか」

「ああ、そんなもんだ」


 だからこそ、今度はちゃんと心を通わせられるようにと、そう願うのだ。


「あ、そうだ。ちょうど来週中間テストだし、二人で勉強会でもしてみたらどうだ?」

「ああ、そろそろだったな」


 今日あたりから本格的に対策を始めようとしていたが、確かにいい機会かもしれない。


「わかった。晴海を誘ってみる」

「おう。頑張れよ」




 他にも色々、考えてみるか。





読んでいただき、ありがとうございます。


評価やブックマークなどしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ