近くて遠い人
基本的に書き上げた翌日の朝に更新できるようにしているのですが、少し構成の見直しに手間取ってしまいました。
できるペースでやっているのですが、読者的には週三回くらいの更新がいいんですかね。
さて、今回はシリアスめに。
楽しんでいただけると嬉しいです。
「明日からの体育、陸上じゃん。キッツイわ〜」
「暖かい時期にやるんだから、まだマシだろ」
「延々走るのが面倒なんだって。アキは嫌じゃねえの?」
「まあ、そこまでは」
「そっか。俺は部活辞めてから体育以外で動いてないからなぁ」
ボヤくヒロに頑張れよ、と笑う。
中学の時は真冬の時期にやってたので、あの身が切れるような寒さがないだけマシだ。
「女子はバレーボールだっけ。そのまま体育館だからいいよなー」
「確かにちょっと羨ましいな」
「アキ的には、可愛い彼女の体操着姿を見れなくなるから残念かい?」
「何言ってんだよ、馬鹿」
ニヤケ面のヒロの脇腹を軽く肘で突けば、「いてぇ」などとわざとらしく身を捩る。
「でもここだけの話、実際のところは?」
「…ノーコメントで」
「ほう、そうかそうか。良かったか」
「その顔ムカつくからやめろ」
たわいもない雑談をして教室の近くまで戻ってきた時、ふと足を止める。
「ん、どうした?」
「あれ……」
不思議そうな顔で、ヒロが俺の見ている方を向く。
教室の前の窓際。そこで小百合と、見知らぬ男が話していた。
「ありゃ隣のクラスのやつだな」
「……有名なのか」
「サッカー部の期待の新人とかなんとか。にしても、見るからに口説いてんな、あれ」
ヒロの言う通り。そいつは明らかに小百合に向けて好意的な様子だった。
だが顔に浮かべた笑顔はやや軽薄で、あまり良さげには見えない。
ああいうのを見るのは初めてじゃない。
多少近寄りがたい雰囲気ではあるものの、才色兼備な小百合は中学の頃からよくモテた。
以前ならすぐにでも割って入っただろうが……
「っ……」
今の俺は、床に根が張ったように動けない。
フラれた時のことが脳裏をよぎり、どうしてもその場から一歩踏み出せなかった。
「──────。」
そうしている間に、小百合が何かを口にする。
途端に男が驚き、やや苦々しい笑いを取り繕うとその場を立ち去ってしまった。
「おお、撃退した。流石に鉄壁だな」
「……ああ」
ふっと両足から力が抜け、鈍く頷く。
すると視線の先で小百合が教室の方へ踵を返し──偶然、目が合った。
「っ……」
瞬間、喉が引きつる。
まるで身体中の血管が縮こまったように錯覚し、再びその場で立ち尽くしてしまう。
「……」
「あっ」
数秒、俺を見ていた小百合だったがすぐに視線を外すと教室の中に入っていった。
「……はぁ」
「大丈夫か? 顔色良くないぞ?」
「……これでも、二週間前よりは多少マシだよ」
「そっか。まあ、なんだ。ドンマイ」
ポンと肩に乗せられた手に、俺はため息をついた。
少し気持ちを落ち着けてから、俺達も教室に入る。
「あっ、高峯」
入室してすぐ、近くから名前を呼ばれたので振り向くと、出入り口付近の席にいつものように晴海の姿があった。
周りには例の三人組もいて、何やら手元のプリントに険しい目線を送り唸っている。
「おかえりー」
「ああ。そっちの三人、どうしたんだ?」
「ちょっとねー。いきなりで悪いんだけどさ、高峯って英語できたよね?」
「まあ、それなりには」
「よかった。できればこれ、教えてほしんだけど」
そう言って示されたのは、英語の小課題。
なるほど。そういえば五限目は英語だったっけ。
「わかった。俺にできる範囲なら教えるよ」
「この前の授業で出されたやつなら、俺も手助けできるよん」
横からひょっこりとヒロが顔を出し、軽く挙手する。
「ほんと? 二人ともめっちゃ助かる。ねえ、手伝ってくれるってさ」
晴海が声をかけた途端、美人トリオが凄まじい勢いで顔を上げた。
「マジ!? 助かった!」
「今日がウチらの命日じゃなかったのか!」
「これガチでわかんない、教えて」
鬼気迫った様子に苦笑してしまう。よっぽど焦ってたみたいだ。
「うっし。チャチャッと片付けますか、アキ」
「そうだな」
「俺はあっちの三人見るから。お前は彼女の方を手伝えよ」
「ご親切にどうも」
ヒロが美人トリオの方に行き、言われた通り俺は晴海の宿題を見ることにする。
その前に、ふと室内に目線を向ける。
目線の向かう先は、真ん中寄りの後ろの座席……そのうちの一つに小百合が座っていた。
あいつはいつも通り、何かの勉強に勤しんでいる。まるで何事もなかったように、ゾッとするほど綺麗な横顔も、ノートへ落とす真剣な眼差しも変わらない。
「……心配するまでもない、か」
「高峯? どうしたの?」
再び名前を呼ばれ、ハッとして目の前を見れば晴海が不思議そうにしている。
「悪い。それで、どこがわからないんだ?」
「んっと、大問2のあたりなんだけど」
「なるほど。ここはだな……」
胸の中の曖昧な気持ちをどこかへ押しやるように、俺は目を背けた。
読んでいただき、ありがとうございます。
次回は普通にラブコメです。
お楽しみに。