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二人きりの保健室


前回、なかなか反応をいただいてニヤニヤしてしまいました。


とはいえ、見返したら見所さんがまた失踪していたのでさらにシーンを追加しています。



ということで前回に引き続き、晴海さんの視点から。



楽しんでいただけると嬉しいです。



「手も足も軽い捻挫ね。若いからって無理しちゃって」

「すんません……」


 保健の先生(養護教諭)の言葉に、ホッとする。


 高峯の負担にならないよう、なるべく急いで連れてきたけど、大きな問題はないみたいだ。


 隣にいる宮内さんも、心なしか安心しているように見える。


「先生、ありがとうございます」

「いいのよ、それが仕事だもの。だけど、無理に動いて悪化しても心配だから、しばらく安静にしてもらうわ」

「はい……」


 先生の指示に頷いた高峯の返事は、なんだか曖昧だった。


「高峯?」


 顔を覗き込むと、目が蕩けている。心なしか体も小さく左右に揺れていた。

 

 たくさん試合で動いた上に、ここまでくるので疲れちゃったのかな。


「随分頑張ったみたいね。時間があるなら、少し寝ていってもいいわよ。そこのベッドを使いなさい」

「うす……」

「……私、もう行くわ。先生に戻って事情を伝えておきます」

「あっ」


 高峯が頷いたのを見て、急に宮内さんが保健室を出て行こうとする。




 慌ててそれを追いかけ、既に廊下に出ていたところを呼び止めた。


「宮内さん!」


 彼女が立ち止まる。そして、こっちに振り向いた。


「何かしら」

「その、ありがとう。高峯を連れていってくれて」

「……彼、昔から張り切りすぎると大きな失敗をすることがたまにあるの。だからつい様子を見ていたら、案の定だったわ」


 淡々と、いつもと変わらない落ち着いた口調で宮内さんは語る。


 あたしはまだ知らなかった高峯の悪い癖を予想して見守ってたことに驚いていると、言うだけ言って踵を返そうとしていた。


「ちょっ、タンマタンマ! あと一個!」

「……今度は何?」

「……あなたにとって、高峯はなんなの? なんで……」


 フったはずの相手を、そんな風に気にかけるの? もう彼氏がいるのに。


 ついそう聞きかけて、寸前で言葉を止める。




 宮内さんは、あたしと高峯が付き合ったキッカケを知らないはずだ。


 なのに、あたしが勝手にこんなことを聞いても良いのかなと考えたら言い難くなった。


「……晴海さん。あなたがどういう意味で、その質問をしているのかはわからないけど」


 あたしが迷っているうちに、宮内さんが先に話し始めた。


 伏せかけていた顔を上げて──あたしをまっすぐに見る瞳に、息を呑む。


「聡人くんは、私にとってかけがえのない人よ。それがどんな関係であっても」

「っ!!」

「それじゃ、私はもう行くから。聡人くんのことをよろしくね」


 それ以上の質問はさせないって示すみたいに背を向けて、そのまま行ってしまった。




 しばらく立ち尽くしていたけど、高峯のことを思い出して保健室の中に戻る。


「あら、戻ってきたのね」

「高峯のこと、心配で」

「あの子も幸せ者ね、こんな可愛い子に心配してもらえて」

「あはは、ありがとうございます」


 ……もしかしたら、あたしじゃなくて宮内さんだったかもしれないんだけどね。


「じゃあ、あなたに彼を見ていてもらおうかしら」

「え? 先生、どっか行くんですか?」

「ちょっと職員室の方に用事があるの。その間だけ残っていてほしいんだけど……いい?」

「わかりました。あたし、高峯を見てます」

「ありがとう。彼は一番左のベッドよ」


 何かあったときのために簡単な道具の場所を教えて、先生は「それじゃあお願いね」と保健室から出ていった。




 急にしんと静かになって、あたしは高峯の寝てるベッドに行く。


「たーかみね。大丈夫?」

「……はる、み?」


 あ、ほとんど瞼が落ちてる。これ半分夢の世界にいるね。


「わり……迷惑、かけた」

「気にしないでよ。あたしら恋人じゃん?」


 枕元にあった丸椅子に腰を下ろして、真っ白なシーツに投げ出された高峯の手を握る。


 高峯はちょっと驚いたみたいに目を開いて、それから無意識なのか指に力を込めた。


「でも、めちゃくちゃびっくりしたな。ちょっと張り切りすぎたんじゃない?」

「……晴海、二回も応援してくれてたろ。だから、ちょっとはいいとこ……見せようと思って」

「……へえ」


 あたしが応援したから、あんなに頑張ってたんだ。


 寝ぼけているからなのか、すごく素直な言葉を聞いて、口元が柔らかく緩む。


「うん。かっこよかったよ。あんな顔もするんだって思った」


 不利になっても、怪我をしても、ただでは転ばない力強い表情。


 その姿に大門先輩とは違う、なのにどこか似た凛々しさを感じて。


「はは……そんなら、彼氏として少しは……格好、つけられ…て………」

「……高峯?」

「…すぅ……すぅ……」


 あ、寝ちゃった。限界だったっぽい。


 静かに寝息を立て始めた高峯に、あたしは手を伸ばしてそっと前髪を撫でた。


「今日は、高峯のやる気をあたしが独り占めだね。へへ、ちょっと嬉しいかも」


 きっとこれまでは、宮内さんに見せていたんだろう一所懸命なところ。


 その気持ちが自分に向けられていたと分かって、すごく嬉しいと思うあたしがいた。


「これ、もう独占欲出ちゃってる系? あたしヤバくない?」


 やっぱりあの時感じた予感は、本当だったってことかな?




──聡人くんは、私にとってかけがえのない人よ。それがどんな関係でも。




「……どういう意味だろ、あれ」


 ふと、さっきの言葉が脳裏をよぎる。


 どんな関係でもって、フったけど幼馴染として大切って意味? それともなんか裏があったりする?


 中学時代、陰湿な女子達と渡り合って鍛えた思考力で分析するけど、うまく答えが出ない。


「少なくとも、先輩と恋人になってるってことは、異性としては見てないってこと? んー、よくわかんない」


 意味深すぎて、すぐには理解できそうになかった。




 でも、とにかく。


「今日はすごく良かったよ。よく頑張ったね、高峯」


 そう言って、あたしは握ったままだった高峯の手を持ち上げた。


 それを口元まで持っていって……軽く手の甲に唇を押し付けた。


「ん……」


 骨張った感触。やっぱり女の子とは全然違う。


 二、三秒くらい続けてから、顔を離す。


「頑張ったで賞……な、なーんちゃって! あははっ、ちょっとやってみたりっ」


 一人で良かった。こんなの誰かに見られたらマジ死……


「うぃーす。アキ、晴海、いるー?」




 心臓が飛び出るかと思うくらいびっくりした。




 椅子からちょっとお尻を浮かせて、座り直すと入口の方に振り向く。


 すると、ちょうどあたし達の方を見た城島がへらりと笑った。


「お、いたいた。高峯は平気そう?」

「き、城島。授業は?」

「俺達の試合は終わったから、こっちの様子見に来た。勿論、バッチリ勝ったぜ」


 親指を立てる彼に、「よかったね」となんとか笑いかける。


 い、今の見られてないよね? 見られてたら恥ずか死ぬんだけど?


「あ、もしかしてお邪魔だった?」

「全然! それより先生、高峯のことなんか言ってた?」

「途中まで参加してた分でしっかり成績つけとくってさ。ぶつかったやつも謝りたいって言ってたよ」

「そっか、よかった」


 元はと言えば、あたしのせいで激しくしてしまったみたいなものだから、少し安心する。


 胸を撫で下ろす思いでいると、こっちまでやってきた城島は優しく笑いかけてきた。


「ちょっと心配だったけど、ちゃんと彼氏彼女っぽくなってるじゃん」

「むむ、聞き捨てならないぞ? あたし、めっちゃ一途だからね」

「おっ、そこは純情なんだ」

「まあね。これまでも本気で好きになったの一人だけだし」


 まあ、それが初恋だったんだけど。


「一人、ねえ……まっ、アキのことよろしくな。俺も短い付き合いだけど、いいやつだからさ」

「ふふっ。知ってるよ」




 高峯が素敵な男の子だっていうのは、ね。




 

 


読んでいただき、ありがとうございます。


ちょっと距離が近づきました。

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[一言] やっぱり恋人は一時の関係、幼馴染は永遠のタイプ?
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