初恋・惨敗
純ラブコメ、連載開始です。
楽しんでいただけると嬉しいです。
初恋とはどんなものだろうか。
人によってその答えは異なるだろう。
幼少期の甘酸っぱい思い出、ほろ苦い青春の残り香、あるいは気付かないまま終わった淡い気持ち。
高峯聡人にとってそれは、人生を一変させるものだった。
憧れであり、恋慕であり、人生の指針だった。
生まれたからたった一度きり訪れるその出会いが、今の俺の全てを作ったんだ。
そして今日、この瞬間。
俺はついに、この想いをあいつへ打ち明ける決意をした。
「宮内小百合さん! あなたのことが昔からずっと好きでした! 付き合ってください!」
放課後の教室、斜陽に照らされた黄昏時。
クラスメイトの誰もが下校した一室に、自分の声が木霊する。
そして俺の前には、一人の女の子がいた。
宮内小百合。
小学校時代からずっと恋い焦がれている、初恋の女の子。
その気持ちは今この瞬間でさえも高まり、一本芯が通っているような美しい姿勢や、ハッとするほど綺麗な瞳を見ているだけで魅了される。
彼女は俺の言葉を聞いて、普段はクールな表情を纏う顔を困惑させた。
「……えっと。冗談とかじゃ、ないよね?」
「も、勿論本気だ!」
ヤバい、緊張しすぎで声が上擦ってる。
握りしめた両手は半分感覚がないし、正直今にも膝から崩れ落ちそうだ。
七年も育ててきた想いを打ち明けるのは、想定した以上の勇気が必要だった。
気張れ俺、ここで背を向けたら終わりだぞ!
「そう……聡人くん、私のことが好きだったんだ」
自分で自分を鼓舞している間に、言葉の意味を咀嚼したらしい小百合はそう呟いた。
緊張が高まる。ドキドキと心臓がうるさいくらいに鼓動を早めた。
一世一代の告白だ。文字通り全身全霊をかけてる。
これでもしフられたら……いや考えるな! 失敗を最初から想定してたら成功なんてしない!
「そっ、それで。よければ、返事を聞かせてほしい……んだけど」
「……うん、そうね。ちゃんと答えるわ」
小百合が、俺の目を正面から見てくる。
それだけで心臓が胸をぶち破って出てきそうなほどだったが、ぐっと堪えて見つめ返す。
ずっと憧れていた真っ直ぐな心をそのまま表すように鮮明な眼差しで、小百合は口を開いて。
「ごめんなさい。聡人くんとは、お付き合いできない」
「っ────。」
その言葉を聞いた瞬間、世界が真っ白に染まった。
いや、違う。ただ俺の思考が停まっただけだ。
ガツンと頭を金槌で殴られたようなショックに、意識が飛びかける。
それでも、ジワリ、ジワリと返された返事の内容が、蝕むように心を塗りつぶしていった。
「本当にごめんなさい。聡人くんのことは信頼してるし、いい人だと思う。だけど、恋人にはなれない」
「な……なんで?」
変な脂汗が滲み出てくるなか、どうにか絞り出した答えはそれだった。
あまりにも情けない一言だが、俺の憧れた彼女はそれさえもしっかりと対応してくれる。
「幼馴染としてしか見れない、っていうのかな。今以上の関係性が想像できないの」
「────ッ」
精神に致命的なダメージ。即死攻撃だった。
遠慮のない言葉だからこそ、それが本心からのものだと分かってしまう。
すぐにそう考えられるくらいに、俺は小百合の誠実さや真面目さを知っていて。
だが、どうやら今日の幸運の女神は俺に舌を突き出しているようだった。
「本当にごめんなさい。気持ちを伝えてくれてくれた聡人くんの勇気は尊重したいわ。だからこそ、私も話しておきたいことがあるの」
「は……?」
ろくに頭の回らない俺に、まるでトドメを刺すかのような残酷さで小百合は言った。
「実は、少し前からある先輩と交際してる。それも、結構本気で」
「ぅえっ……?」
もう、変な声しか出なかった。
は? え? 小百合が付き合ってる? どっかの先輩と? 俺の知らない誰かと?
もはや、洗濯したての白いシャツのように意識が漂白されそうになっていると、小百合は頭を下げて。
「だから、これからも聡人くんとお付き合いすることはできません。あなたさえよかったら、これからも友達でいてくれると嬉しいわ」
その言葉を最後に、小百合は横を通り過ぎて教室を出ていった。
俺にはそれを引き止める余裕すらなく、ただただその場に立ち尽くす。
頭の中では、ぐるぐるとさっきまでの会話が無限ループされていて………
「は、ははっ、ははははは………」
高峯聡人、15歳。長年の初恋が潰えた瞬間だった。
読んでいただき、ありがとうございます。