表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小学生「あそこにひとがしんでるの!」

作者: 岩田凌

 ある夏の暑い日、学校から帰宅中の僕に、小学校低学年くらいの二人組の女の子はこう言った。


「あの、あそこにひとがしんでて……」


「ふーん、そうなんだぁ」


 ……。


 …………。


 ……はぇ?


 理解するのに時間がかかった。いや、ごめん、やっぱり意味が分からない。


「あの、おにいさん?」


「……あ、ごめんね。よく聞こえなっかったから、もう一度教えてくれない?」


 その時の僕は、まだイヤフォンを取っている最中だった。だからきっと聞き間違いだろう。……そうであってくれ。


「あそこにひとがしんでるの!」


 ですよね~。そうだと思ってましたよ……。


 女の子は指を差すと、震える声で、あれ! と言った。


 嫌だな~、見たくないな~、音楽聞きたいなあ……。でも見逃すのはなあ……。

 僕はおそるおそる顔を上げて、ビクビクと目を細めながら女の子の指の先を見た。


 そこには血が飛び散り、虚ろな目をした無残な死体が転がっていて……。


「ごむ、てぶくろ……」


 女の子の指先に見えたのは、薄だいだい色のゴム手袋だった。


 ……。


 ………。


 …………はぇ?


 理解するのに時間がかかった。いや、ごめん、やっぱりわからない。


 道の端に置かれていたのは、食器洗いの時によく使う(そしていつか臭くなる)ゴム手袋だ。

 それが、この女の子たちには死体に見えたということなのか……?


「今の小学生って想像力豊かだなあ……」


「ねえ、おにいさん。だいじょうぶなんだよね?」


「あ、うん。えと、あれ、ただのゴム手袋だよ……」


「よかったー、いきてたんだねー」


 どういうことだよ。


「ねー!」


 共感できるのかよ!


「あーうん、もうなんでもいいよ」


 なんだろう、今日一日で一番疲れた気がする。

 なんならシャトルランの方が幾分かマシな気さえする。


 僕はなぜか異様に乾いた喉をお茶で潤して、


「それじゃあね。気を付けて帰るんだよ」


 と軽く手を振って早々に立ち去ろうとする。


 すると、一人の女の子が、「とーせんぼ!」と言って僕の前に止まった。

 僕が首を傾げていると、女の子はにかっとお日様のように笑う。


「おにいさん、おしえてくれてありがとう!」


「……」


 そう女の子にお礼を言われ、僕のさっきまでの疲れが一気に吹き飛んだ。


 ゴム手袋を死体と間違えたからなんだというのだ。小学生らしくてかわいいじゃないか。


 僕は「いいよ別に」と言って、女の子の横を通って行った。


 ……その日の夜、僕は血だらけのゴム手袋に追いかけられるという、なんともかわいくない夢を見ることになるのだった。

 だいぶ脚色してますが七割くらいはノンフィクションです……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ