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真珠の涙

作者: 甘味料

小さい頃、おばあちゃんの宝石箱を見るのが好きでした。

子供の頃の彼女も、今の彼女も差程変わり無く。


ただひとつ、ずっと変わらないわがままの話。

おばあちゃんの宝石箱には、色んな指輪がある。


「これがダイヤ、一番左のはエメラルド。で、これはトパーズって言うんだよ」


きらきらしてて触ると冷たい。見ても触っても面白い、私がもう少し、小さかったら口に入れてたかもしれない。……やらないよ?もう小学校3年生なんだから。

おばあちゃんは宝石箱の指輪以外にも、色んなネックレスを持っている。それを見るのも好きだけど、私は宝石箱の中を見せてもらうのが一番好きだ。

おばあちゃんの家に遊びに行くと、必ず見せてもらう。数ヶ月に一個、新しい指輪が増えていて。その宝石の名前を教えてもらうのは楽しい。


「おばあちゃんは、宝石好き?だからコレクションしてるの?」

こんなに集めて、いつか宝石屋さんになるのかな?20個ぐらい、集めたらなれるのかな?

「綺麗なのは好きだねぇ、志島さんがよく持ってきてくれるから」

志島のおばちゃんか。志島のおばちゃんは時計屋さんで、宝石も売っている。おばあちゃんの従妹だ、おばあちゃんはおばちゃんの、お客様なんだねー。

「……あれ?これ真珠だね、指輪じゃないよ」

少し表面がでこぼこしてるし小さいけど、真珠だ。可愛い、これは可愛い。指輪より好き。

「ああ、志島さんがおまけしてくれたのよ。加工もできない屑石なんだけど、おばあちゃん真珠が一番好きだから」

「へー……屑じゃないよ。白くて虹みたいに光ってる。私真珠、好き」

すべすべしてて、真っ白に光って角度によっては虹が見える。私の住んでる町は真珠の養殖が盛んであると、社会の授業で教えてもらった。

「じゃあ、その真珠はなっちゃんにあげようか」

「え、いいの!?やったぁ!」

おばあちゃんは小さいアクセサリーが入るぐらいの巾着袋に、真珠を入れて私の両手に乗せた。まるで特別なお守りみたいだ。

「いつか、この指輪も何個かあげるよ」

「なんでー?」

別に誕生日でもないのに、高価な物は貰えない。

おばあちゃんの宝物は、おばあちゃんだけのものだし。自分のお金で買った物はずっと本人が持つべきだ。

「おばあちゃんからの、形見よねぇ」

ごく自然に、当たり前のような口調で言った。いつものニコニコの笑顔のままで。

形見、という意味は知ってる。


頭が一気に沸騰した。


「言わんで」

おばあちゃんは、少し困った表情をした。


「んなこと、言わんで。おばあちゃんは死なんもん、何度でもあいるびーばっぐするんやからぁ……!」


おばあちゃんは、にゅうがん、とやらでおっぱいがない。後、背骨を削る手術もした。のーこーそく、とやらにもなったらしい。知ってる限りで3回入院してる、けど普通に今も車に乗ってお仕事してる。

だから、死なない。どこぞの映画のロボットより強いんだ、死なないよ。だからその指輪はいらない。

涙が出て来た。苦しくなるぐらい、泣けてくる。一度泣くと止まらないんだ。


「じゃあ、なっちゃんがお嫁に行く時にあげる。形見やないよ」

「……なら、もらう」

即答だった。貰えるものは、貰う。お菓子でも服でも。ただ、形見だけは絶対やだ。

死んじゃったら、貰った時にお礼も言えないし、付けたところも見せられないじゃないか。




「……って、いう逸話があるんだよ。この真珠には」

32歳になった私は、今でもその真珠をお守りにしてる。大事な宝物を、愛しい恋人のみーさん(あだ名)に披露してる。

「へぇ、そいやおばあさんから厄年のお祝いに真珠のネックレス貰ったんだっけ」

厄年言うな40代。

「そ、これが形見になると思うからーって言うからガチで怒った」

思い出すだけでいらいらする、思わず眉間に皺が寄る。23年前のガチ泣きと変わらずだ。みーさんはそんな私の眉間を指で触り、伸ばそうとする。

「大人なんだからむきになんない。おばあさんも、いい歳なんだから色々考えるよ」

確かに。もう80は過ぎてる、元気ではあるが色々考えることもあるんだろう。それでも、ずっといて欲しいと思うのは、わがままだろうか。

「……多分、嫁には行かないだろうから指輪の変わりと思うことにするよ」

みーさんとは6年付き合ってるが、互いに趣味人で遊びたい。結果、今のところ恋人以上にはならない。

まぁ、みーさんの方が年上だから老後は介護するとは思う。結婚はしなくとも、大事な人だから。

「嫁に行かないかは、わかんないだろ」

一応はフォローを入れてくれる。が、別に責めたわけじゃない。現状で満足してる、歩いて10分で彼氏に会える。程々に近い距離だからね。

「はいはい。……あ、万が一私の方が先に死んだら真珠のお守りやネックレスはみーさんにあげるよ。死ぬ気はないが、一応念のため」


私の仕事は接客業、コロナとやらが蔓延する中感染リスクは高い。そして一歩間違えりゃ死ぬ。みーさんはリモートワークで安全、だが私はある程度感染する覚悟はしてる。


「……いらない、涙っぽいし」


私の頭を撫でて、ぎゅっと抱き締められる。私が真面目なことを言うと、すぐこうする。

みーさんの介護の話や、コロナの話や、真面目なことを聞くとこうなる。そんなに真面目な話が嫌いなのだろうか、まぁスキンシップは嫌いじゃないが。


それにしても、涙か。



このお守りを貰った小さい私は、確かに真珠のような真っ白な涙を流せてたと思う。

今流せる、かは疑問だが。それでも。



あの小さい頃の私と同じように、できるなら大事な人にはずっと生きていて欲しいと願うのだ。

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