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ファウ。幸せな夢を見る


勇者ファウのエピソードその①となります。


次話からヒカルが復活する予定です。




私は世界が嫌いだった。


私は性別が女と固定されているだけで、この世界に何度も記憶を引き継いで生まれ変わっている。


そう、私は神の道具として生み出された存在。


私が生まれ変わる度、世界はその姿を変えていたが、人間という生き物は大して変わりはしなかった。


繁栄し、愚かとなり、殺し合い、神の怒りを買って滅ぶ。


その繰り返し。ずっと。


私の使命はそんな世界の均衡の崩壊を生じさせるものが生まれた時に、それを処理すること。


所詮、私は神の駒のひとつで、自由なんてそんなものはなかった。


事が終われば、結果的に世界に害を出そうが出さまいが関係なく私の魂は回収される。


気付けばまた違う姿で地上に堕とされる。その繰り返しだ。


空の色が2度、陸の形が3度、人間の肌の色が5、6回くらい変わったくらいだろうか?


私を創り出した張本人である神々はこの世界を見捨てて他の土地へと旅立つという。


…神とは、どれほど無責任で身勝手なのか。


いや、神であるからか。どんな残酷な事をしようともその心は動かないのだろう。


…心なんてものがあったらの話だが。


そして、最後に私は神々が若い神に押し付け、見放した地上に降ろされた。


今度はあらゆる力を奪われた上でか弱い少女の姿だった。


私は標的すら告げられることはなかった。よって、今回はこの肉体が死ぬよりは解放される手段がない。


あてもなく地上を彷徨ったが、力を奪われ単なる娘となった私にこの世界は恐怖でしかなかった。


どれだけ文明が発達し、裕福な者が増えても悪しき人間は必ず存在し、蔓延る。


私は幾度となく見知らぬ男達に襲われた。


精魂尽き果てた私はとある集合住宅の窓から室内に逃げ込んだ。


…あまりの疲れから暫く気を失った。


気付けば私は布団の上で寝かされていた。


「お! 起きたか!? 良かった~もう病院へ連れていく気だったんだが、具合はどうだ?」


私は近づく男に咄嗟に身構えようとしたが、駄目だマトモに身体が動かない…!


「おいおい! 無理はすんなよ? まったく空き巣泥棒が人の家でぶっ倒れてるかと思えば、こんな女の子だったなんてなあ~世も末だぜ。取り敢えずお粥作ってみたんだが…あんま期待すんなよ? 死んだオフクロお墨付きの料理下手だからな、俺は!」


そういって笑顔を見せる男は私を介抱し、優しく粥を口に運んでくれた。


私は初めて泣いた。


慌てて私を心配するその男のあの顔が今でも忘れられない。


男の名はモスカワ・ヒカル。


私の夫になった男の名前。


私がこの世界で初めて愛した人間の名前…


私は彼をひー君。そう呼んだ。


彼は私と一緒になってくれると言ってくれたその日から自身の夢を捨ててがむしゃらに働き出した。


彼はあまり多くを語ってはくれないが歌と音楽を愛していた。


…きっと、私と会う事が無ければ、今もその夢を追っていられたはずだろう。


私は生まれて初めて悲しみを覚えた。


彼は私の為に自身を犠牲にしてくれているのだから。


程なくして私は彼の子を身籠った。


双子の娘。 ドレミとソラ。 彼の愛する娘達…そしてもうひとりの家族のシド。


とても幸せだった。こんな幸せが私に許されたのかと、もはや居ない神々に感謝するほどだった。


今迄、玩具の如き好き勝手に使われてきた私がだ。


夢を見ていた。そうなのだろう。


その夢の終わりは突然訪れた。


私は神の前に居た。


目の前に居るのは現在地上を任された神。


年若い人間の男の姿で痩せぎすで陰気な印象を抱かせる神だった。


絶望は、した。


しかし。私には思い出がった。掛け替えの無い得難い幸福の思い出が。


彼と娘は悲しむだろうが、どうか幸せに生きて欲しかった。


そして、彼の生きた世界を直接的ではないが守れるという私の仕事を初めて誇らしくも思えた。


「急に呼び出してすまなかったな? 君には別の世界…つまり異世界へと転生して貰う」


どうやら私の望みは叶いそうはない。


「ちなみにだが、君の夫と娘らは既にその世界へと転生済みで君が最後の転生者の枠になる…」


その言葉を聞いた瞬間、空間がひび割れた。


…どうやら私は怒ったらしい。いや、怒っている。


「…古き神々に力を奪われた君に私を殺すほどの力はもう無いはずだが、私の部屋を壊さないでくれよ? あの神達に押し付けられた悪趣味なこの部屋を数百年掛けてここまでリフォームしたんだからな? …でだ、神の傀儡でしかなかった君がそこまでの感情を持つことには驚いたがね。今回選んだ魂、これは私の判断というよりも慈悲に近いのだぞ? 君達の家族を離れ離れにしないようにとのな…まさか。神である私が人質を取るような真似をすまい? まあ、君の娘らには別の意味で手を焼いたがね」


そう肩を竦めた神に背を向けると私は自分から異世界の扉を開いた。


「私を恨んでくれるなよ? これは私が神になる前から決まっていたことなんだ。本来ならば君と人数合わせの魂が送られるだけだったんだからな。…だから、君は今度の神命を片付ければ自由だ。今度こそ君の家族を守って好きに生きるがいい。…此度の相手は手強いと聞く。神である私がこんなことを言うのは…いや、人間の心を捨てることなどままならんものだな? …気を付けてな。今回の目標は"魔王"だ。それの暴走を留め置く、または討伐して魂を神域に回収することが君に与えられた最後の仕事だ…」


魔王。


その存在を倒すか、その世界から封印すれば…!


私はまた彼と…家族と一緒に暮らせる。


もし、魔王を倒すことが無理ならせめて、せめて彼を私から解放して自由にしたい。


そして、どんなことをしても彼を守る。


私の命と引き換えにしても…!


彼のいない世界にもはや未練は無い。私は彼を追って異世界の扉を潜った。





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