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特別クラスに戻るとブランカは自分の席で座っていた。普段話したこともないが緊急事態である、周りの目など気にする余裕もない。
一直線にブランカの所までいき声をかける。
「ブランカ嬢、今少しいいか?」
ザワっと空気が淀み、クラスの全員が注目する。
「カール様?如何しましたか?」
「ディアンヌから聞いているか?」
「いえ何も…ディアンヌ様に何かあったのですか?」
まだディアンヌから聞いてないらしい。好都合だとカールは要件のみ伝える事にした。
「ディアンヌから誘いがあると思うが、君から断ってくれ。何も聞かず言わず…ただ断わればいいから」
「…断る?」
「そうだ」
これで大丈夫だろうと安心しかけたが
「それは納得出来ませんのでお断りします」
「は?」
思いもしない返事が返ってきて間抜けな声を出してしまいすぐに言い直す。
「何故だ?」
「ディアンヌ様からのお誘いを何故カール様に指図されるのか理解出来ませんので」
「は?」
言い直そうと思ったが、午後からの授業が始まる合図がなり、結局その日はブランカと話は出来なかった。
◇◆◇
放課後いつもの勉強会には参加せず、ディアンヌはブランカを、探していた。
──教室にもいらっしゃらないし…どこかしら?
食堂に寄ってみたらルネがディアンヌに気が付き手を振っている。ディアンヌも手を振り返しながら近づいた。
「ルネ、ブランカ様を見なかった?」
「ブランカ様なら先程あちらに…」
ルネが食堂の先にある植物園の方に顔を向けるとちょうど食堂に戻ってくるブランカが見えた。ルネに礼を言ってブランカのいる所まで近づいて行く。
「ブランカ様お探ししました」
「ディアンヌ様、どうかされましたか?」
「ブランカ様、次のお休みの日また一緒に出かけませんか?」
「それは構いませんが…」
カールの言う通りディアンヌからの誘いがあったので、少し構えたがディアンヌから言われることは断る気はなかった。
元々平民でのびのび過ごしていたのに、いきなり貴族の世界に放り込まれた。日々の生活だけでも余裕がないのに変に絡まれ、疲れはピークをすぎていた。そんな時、食堂ではじめて声をかけられ、強引だったが何かと会う機会が増えたディアンヌと過ごすうちに、学園にいるのも苦痛ではなくなっていた。
ディアンヌと親しくなると、周りの人との接し方にも余裕ができ、絡まれることも少なくなっていた。
一緒にいてもディアンヌはコロコロと表情を変え何事にも楽しそうで、全てに全力で向かうディアンヌが大好きになっていた。
ひとつ気になると言えば、婚約者のカールと会わないかと誘う事…
「カール様とアルベルト様とご一緒にまたケーキを食べに行きましょう」
目をキラキラと輝かせて誘うディアンヌに、思い切って聞くことにしたブランカは食堂のテラスに行きませんかと声をかけた。
2人でテラス席に座りお茶を飲んでいるとルネもやってきた。
「ディアンヌ様…ひとつお聞きしてもいいですか?」
「はい。なんでも聞いてください」
「いつもカール様と会わないかとおっしゃるのは何故ですか?」
計画を知っているルネがあららと目を見開いて口に手をあてる。ディアンヌは持っていたカップを戻し、少し考えてゆっくり話しはじめる。
「私とカール様の婚約は間違っているのです。細かい説明は出来ませんが私が婚約者ではダメなのです」
目を伏せ少し寂しそうに語るディアンヌにブランカは
「そんな事はありません。ディアンヌ様は…」
「私はお姉様のように完璧ではありませんので、カール様にはもっと相応しい方をと思っているのです。カール様もそう思ってらっしゃいます」
「カール様も同意だと…?」
「はい」
ディアンヌはにっこりと微笑む。
──でもディアンヌ様はカール様を…カール様も多分…
「ブランカ様、私も何度も説得はしたのよ。でもディアンヌは決意を曲げないの」
ルネが大きく息を吐きながら言う。
「ディアンヌ様は本当にそれでいいのですか?」
「はい。私はカール様に幸せになって頂きたいのです」
そこまでカールのことを想うなら、何故自分との未来を描くことをしないのか…ブランカは悲しくなってきていた。
「何故そこまで自分を卑下なさるのか…私はディアンヌ様のお姉様を知らないので分かりませんが…」
「ブランカ様もお姉様に会えば分かりますよ。素晴らしい方ですから!なんと言っても…」
「ディアンヌ、今その話はいいわよ」
ルネがディアンヌを止める。ちょっと拗ねるディアンヌだったがすぐにたてなおし、ブランカに再度お願いする。
「本当にカール様は素晴らしい方なので、ゆっくりお話すれば分かってもらえます。ブランカ様と親しくなって頂きたいので、一緒にお出かけしませんか?」
「…分かりました」
ディアンヌではなくカールに話をつけないと!ブランカは固く決意をして誘いを受けた。