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皇太子の婚約者を替えることなど普通はありえない。この問題をどうするか、誰も明確な案を出せずにいた。
皇太子自身にも問題ありとされ、ここに来て跡目争いにまで発展しそうである。
第2皇子は病弱のため担ぎあげられる事はないが、急に注目を集めたのが第3皇子のアルベルトだった。
エリックは外交的な性格で行動も派手であった。しかし欠点と言えるほどの悪いところもなく皇太子に選ばれてからは皇帝の補佐もしっかりと行っていたので今まで問題視されたことも無い。唯一心配されていたのが女性問題だったのだが、婚約者がミアだった為今回の件はまさかと言う出来事であった。
エリックに比べると今まで目立った事はほとんどなく、綺麗な容姿を武器に女性と遊ぶこともせず、本当に目立たないアルベルトだった。今皇太子へと推す貴族も出てきて学園でも少しでも近づこうと周りを人が囲む事が多く、婚約者もいない事から特に女生徒が多い。
お昼の休憩中食堂でいつものようにカールとディアンヌはランチを食べていた。
「アルベルト様今日も凄いことになってますわね」
「今はしょうがないだろ。ミア様はどうされている?」
ディアンヌは手を止め少し下を向いていたが顔を上げ
「お姉様は部屋から出る事を許されておりませんので…」
「そうか…」
「でもお姉様は元気みたいです」
カールはそうだろうなと笑った。その時がたんと音がしてディアンヌの横の椅子が動きアルベルトがドスンと座った。周りにいた生徒もさすがに席にまでは来なかった。
「ちょっと休憩させてくれ」
「アルベルト様大丈夫ですか?」
「ディアンヌの顔を見たら元気になるよ」
カールを完全に無視をしてディアンヌだけを見て答える。カールは眉を寄せアルベルトを睨みながらディアンヌの目線を自分に向けるために話かける。
「ディアンヌ、次の休みの日に一緒に出かけないか?前のケーキをまた食べにでも」
「カール様もあのケーキお気に召しました?」
笑い合いながら話す2人をみて距離が以前より近いのを感じたアルベルトが一瞬表情を厳しくしたが、すぐに元に戻し何かを含んだ笑顔で2人の会話を遮った。
「ごめんそれ諦めてくれる?」
「「 は? 」」
「次の休みの日ディアンヌに頼みがあるんだ」
アルベルトはにっこり微笑んでディアンヌの手をとる。
「アルベルト様?頼み事ですか?」
「アルベルト、今の時期君の頼まれ事なんて受けれるはずがない」
注目を浴びてるアルベルトと一緒のところなど見られたら、ディアンヌも何か言われるかもしれない。
カールは立ち上がりアルベルトが掴んだ手を離させて自分が掴む。そのままディアンヌとアルベルトの距離を離し自分が間に入る。
「今後ディアンヌに近づくのはやめてくれ」
「カール様」
アルベルトは間に入ってきたカールを見てため息を吐く。
「まあいいよ。今はね」
そう言うとテーブルに手を付き立ち上がった。カールを見てからディアンヌに笑顔でまたねと言ってその場から立ち去った。
「アルベルト様はどうされたのでしょうか?いつもと雰囲気が違いましたわ」
「ディアンヌ…私のいないところでアルベルトと会うとかやめてくれ」
ディアンヌの肩に手を置き、カールはつぶやく。そんな事はないですよと答えてディアンヌは笑っていたが、実家にディアンヌの呼び出しの手紙が届いたのはその後すぐだった。