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お茶を1口含んでからカールが話はじめる。
「まず、先程のミア様の申し出は…勿論だが断る」
「よろしいのですか?お姉様の…」
「ディアンヌは私がミア様の愛人になってもいいのか?」
抑えてはあったが低く怒りを込めた声でディアンヌに尋ねる。
「それは!…でも…お姉様の…私…」
本気で混乱しているディアンヌを見てカールは向かいの席から隣の席に移動してディアンヌの手を取り、優しく微笑みながら目を合わせる。
「ディアンヌ。ミア様のことは気にしなくていい。君はどう思っているか教えてくれないか」
──お姉様は絶対…のはずなの…でも私は…
しばらく考えていると自然と目に涙が溢れる。
「私は…カール様に幸せになって欲しいのです」
泣くのを堪えながらディアンヌははっきりと答えた。カールはそんなディアンヌが愛おしく思わず抱きしめる。
「私の幸せは君の隣にいることだ。他の誰でもないディアンヌの側にいたいんだ」
ディアンヌの心を囲っていた殻が音を立てて崩れていく感じだった。ディアンヌの目からその欠片が流れるように涙は止まらず泣き続けていた。
「カール様…カール様…」
「うん。落ち着くまでこうしているから泣くだけ泣いていいよ」
カールの胸に顔を埋め今まで泣けなかった分を絞り出すようにディアンヌは泣いた。
◇◆◇
ロベール侯爵は緊急の用と申し付け、皇帝と謁見の許しを得た。
謁見の間でしばらく待たされたが皇帝が急ぎやってきた。
「ロベール侯爵緊急の用とは何事か?」
「突然の申し出で大変失礼致しました。我が娘ミアについてなのです」
「ミア嬢がどうかしたか?」
ずっと頭を下げていたロベール侯爵はここまで来て決心がまだ揺らいでいた為この後少し沈黙をしてしまう。
「ロベール侯爵!皇帝陛下に失礼だろう!」
国王の側に控えていた大臣が声を荒らげた。その声にはっと我に返りまっすぐ国王を見て答えた。
「我が娘と皇太子様との婚約を今一度白紙に戻して頂きたいのです」
「なんだと?」
「ミアにはその資格がございません。大変申し訳ございません」
「そんな事はないだろう。ミアは評判もいい誰も異論はないし何が問題だ」
「このままミアが皇太子妃となりさらに皇后になっては後で大きな問題となります!」
「問題など起きないだろうミア嬢に限って」
「エリックもミアとの結婚を待ち望んでいる。いきなりの話では納得しないだろう」
ロベール侯爵は震えながら必死の声で訴えたが誰からも同意を得られず落胆する。しかしこのままミアを結婚させる訳にはいかないとなおも言い続けていると皇帝が提案する。
「エリックも交えて1度話をしよう。今いきなりロベール侯爵の話を受け入れる訳にはいかん」
「分かりました…」
今すぐでなくてもいい、必ずこの結婚は白紙に戻さないと…親の責任としてこれだけはと頭を下げながら誓った。