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ルネがディアンヌを寮まで連れて帰った。まだ午後の授業は残っていたが休むことにした。
ディアンヌの付き人エミリアは早く帰ってきた2人に驚いたが、手を押さえているディアンヌをソファに座らせてすぐに薬箱を持ってくる。
薬を塗り包帯を巻いて、一通りの手当が終わってから尋ねる。
「ディアンヌ様どうされたんですか？」
「ミア様が私たちの学年棟まで来られたのよ」
すぐに何があったか察したエミリアは傷ついた手を握りながら言った。
「ディアンヌ様…よく耐えられました」
ずっと黙っていたディアンヌは事情を知っている2人の前でようやく力を抜き先程の話をし始めた。
「ミア様の暴走が学園でも起こるとはね…流石に今回はダメね」
「侯爵様にお知らせします。すぐ動いてくれますよ。安心してくださいねディアンヌ様」
言い終わらないうちに2人の父親であるロベール侯爵への連絡準備をはじめた。
非の打ち所がなかったミアは大事に育てられすぎて、物心着く頃にはかなりの我儘に育っていた。
ロベール侯爵夫妻も途中から育て方を間違えた事に気がつくが、その頃には遅かった。
何かとディアンヌをいじめるミアを叱れば
「私が優秀なのに劣っている妹なんてどうして庇うのですか？」
とさらに酷くいじめを繰り返すので、何も言えなくなっていた。ディアンヌはただ痛みに耐えるしかなかったが、常に姉を優先、姉は素晴らしい、姉は絶対…とすり込まれていた為逆らうことが出来ない。
「愛人だなんてどこからそんな発想になるのかしらね」
ルネが腕を組み首を傾ける。
──お姉様にカール様を…
下を向いたまま何も話もしないディアンヌの顔を無理やり上を向かせルネは言い聞かせる。
「ディアンヌ！ミア様の言うこと聞かなくていいのよ！変なこと考えてないでしょうね」
「ルネ…でも…お姉様が…カール様をお望みなら…私は」
「ディアンヌ！しっかりして！婚約破棄のためにお相手探していたとしても、カール様が愛人とかおかしいでしょ？そもそもミア様も結婚するのよ！不貞はダメダメよ！ああもう本当にしっかりして！」
──お姉様には逆らえない…でもカール様は？お姉様の愛人で幸せになれる？
◇◆◇
嵐の去った後、食堂に残っていたカールとブランカはニコニコ笑いながらゆっくりと近づいてくるアルベルトに尋ねる。
「ミア様に何か言ったのか？」
「私が？ミア様は兄の婚約者だけど私との繋がりはないよ」
──嘘だな
カールは直感でそう感じた。
「アルベルト様、ディアンヌ様が悲しまれてもいいのですか？」
「ディアンヌが悲しむ？何故？」
「カール様とご自身のお姉様が不貞関係になるなどおかしいではありませんか」
一瞬目を閉じ少し考えた顔をしたが、すぐにいつもの笑顔に戻りブランカの顔を見下げながら笑う。
「ディアンヌはカールと婚約破棄したいんだよ？カールが愛人になろうと悲しむ事などないよね」
ブランカはアルベルトを睨む。ディアンヌを傷つけても婚約破棄さえすればいいと言い切るアルベルトに怒りを覚える。
「アルベルト様…」
「愛人など…そんな現実離れした話が許されるはずはない」
「そうだね。でもディアンヌはミア様が言った事に従うからね。カールと早急に婚約破棄すると思うよ」
アルベルトはクスクスとこれからの事を想像し笑う。そんなアルベルトに嫌悪感をあらわにしながらカールは
「婚約に関してもミア様が何か言ってたな…やはりディアンヌと話し合わないと」
昼の休憩が終わりそうなのでとりあえず教室に戻るが、放課後ディアンヌと会うと決めたカールはブランカに伝言を頼んだ。
