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「カール様、やはり私たちの計画はどこかに漏れているのかもしれません」
「ディアンヌどこから漏れるのか。おかしな話だな」
学園にあるカフェのテラスで2人がお茶を飲みながらコソコソと話しをしている。
パルマ公爵家長男で黒髪黒目、神秘的な美貌を持ち学問、芸術に造形が深いだけでなく、騎士にも劣らない剣術も身につけているカールと、ロベール侯爵家次女、目鼻立ちははっきりとしているのになぜか目立たない容姿で、何をやらせても平均点なディアンヌ。
2人は今16歳で、幼い頃から決められた婚約者同士だ。
貴族が通うこの学園で、カールは特別クラス、ディアンヌは通常クラスと別れている為休憩時間しか接点はない。
そんな2人は10歳の頃ある決意をする。それは18歳までにお互い別の相手を見つけ婚約を円満破棄するというもので、それを達成するために、適当にディアンヌが立てた計画があるのだがカールも同意し今に至る。
「カール様に相応しい方をと探しているのですが、親しくなってからカール様のお名前を出すと皆様遠慮されて…紹介できず申し訳ございません…」
「あまり無理しなくていいよ。僕もディアンヌの相手はゆっくり探しているから」
「あんなに皆様遠慮なさるのは計画がどこからか漏れて、自分が婚約破棄させた悪者になるのを恐れているからでは?」
困りましたわと真剣に悩んでいるディアンヌをカールはにっこり微笑みながら
「ではどうする?やめる?」
「そうはいきませんわ!カール様の為にも頑張ります」
「そうだね。僕も頑張るよ」
そう、その適当な計画とは自分が相応しいと選んだ人を相手に紹介すると言うなんとも幼稚で雑な計画なのだ。
時間ですわねとディアンヌは教室に戻って行く。カールも戻ろうとすると後ろから笑い声が聞こえた。振り返ると同じクラスのアルベルトがいた。
「盗み聞きとは趣味が悪いな」
「相変わらずディアンヌ嬢は面白いね」
アルベルト・アランソン。金髪碧眼整った顔立ちで絵に書いた様なこの国の第3皇子だ。カールとは以前からの知り合いである。この2人が並んでいるだけで気絶する女性がいるとかいないとか…
「18歳だっけ?もうそんなに時間はないね」
なぜだかあの計画も知っているみたいで、いつも何かと絡んでくる。
「…君が気にする事じゃないよ」
「そうだね」
アルベルトはお気に入りのおもちゃで遊ぶような笑顔でカールを見るが、カールは無視して教室に急ぐ。
ディアンヌは自分の席に座り悩んでいた。
──早くお相手見つけないと!!
「ディアンヌ顔が怖いわ」
隣に座ったルネが声をかける。
「ルネ…私交友関係は広いわよね」
「そうね、あなたは害がないしなんだか落ち着くから知り合いは多いわね」
「皆様とても優秀なの。私が自慢したくなるほどにね!」
「あなたが自慢してどうするの」
おかしい事言うわねと笑うルネ。
「なのに…何故カール様のお名前出すと、よそよそしくなるのかしら?」
「あーそれはしょうがないわ。あの方近寄り難いもの」
そんな事ないのよと反論したかったが、午後からの授業の教師が入ってきたので話は中断した。
──私は間違ってカール様の婚約者になってしまったから責任があるの!
ディアンヌは授業の用意をしながら、気持ちを改め今は授業を受ける事に集中する。自分ができる方ではないのは自覚している。勉強が嫌いな訳でも無く、授業も真面目に受けテスト勉強も真面目にやるが、見事に平均点をとるのだ。
──お姉様のように出来なくても、自分ができる努力はしないとね!
授業が終わり、それぞれ帰り支度をはじめる。寮生も通いの生徒もいるが、ディアンヌは寮生だ。
授業後は学園の食堂で勉強会が開かれており、いつもルネと参加しているが今日は家に帰らないとダメらしく1人での参加だった。
勉強会と言ってもお茶を飲みながら分からない所を教え合う緩い集まりで、当然通常クラスの生徒のみで行われている。
クラスの友人とおしゃべりしながら参加していると、食堂の一角が騒がしい。ふと目を向けると特別クラスの女子生徒が1人に対して何かを叫んでいた。
標的になっていたのはブランカ・アスター男爵令嬢、父親が功績を残しつい最近男爵の爵位を賜った。貴族になったのも最近の話だ。
そうは言っても佇まいは貴族の令嬢より令嬢らしい。長いストレートの黒髪は見事な艶で大きな瞳が印象的な美人である。特別クラスにいるので成績も優秀なのだろう。
「女って集まると怖いな」
「リカルド、あの方ご存知?」
勉強会にもいたクラスメイトのリカルド・ウィザーに聞く。
「確か男爵令嬢だよな。冷静すぎてクラスで浮いているとか聞いた気が…」
ディアンヌは目を輝かせる。
「ディアンヌ?」
「見つけた!あの方ですわ!!」