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閑話 四季と秋樹の高校時代

今日は高校の同窓会が行われる。


本来なら春樹も一緒に行くはずだった同窓会だ。だけど彼はもうここにはいない。

横にいないという喪失感だけが私の歩みを遅くする。


もう少し歩けばかつて春樹とよばれていた女の子の住む家に近づく。彼女とはゴールデンウィークのあの夜から会ってはいない。


その子はすでに夏樹として生きていくと決めたと伝えられ、非日常の日常を過ごしている。

いや、既に日常になっているのかもしれない。

私だけが過去に囚われ、歩みを遅くしているのかもしれない。


秋からもイギリスへ一緒に来て欲しいと言われ、"彼女"もそれを望んだ。それなら、先へ進んでもいいとも思うようにもなって来た。


だけど、それを私はまだ迷っている。

"彼"はまだ生きているのだから。

そう思いながら、私は彼女の家の前を通り過ぎていく。


彼女の家からしばらく歩き最寄りの学園前駅に着くと、スマホをかざして改札を通り抜ける。いつも私達が乗っていた車両が来る場所で電車の到着を待つ。


プルルルーと電車の到着の音が響き、ホームに車両が入ってくる。

電車が止まり、車両のドアが開くと私は見慣れた白い髪の女の子を見つける。

そして、もう一人近くにいた人物に私は驚いた。春樹の最初の彼女、七尾 真奈だった。


「「「あっ」」」

2人と目が合うと、私達は同時に声を上げた。

私達が蛇に睨まれたカエルのようになっていると夏樹の友達であろう女の子が夏樹の手を引く。


「…じゃあ、お母さん。行ってきます!!」

夏樹が手を引かれて降りると同時に私は電車に乗り込んだ。


「…四季。久しぶりね。15年ぶりくらいかしらね…」

乗り込んだ私に真奈は挨拶そこそこに会わなかった時間を告げてくる。


「ええ、そうね…」

私は話そこそこに、夏樹の姿を目で追っていた。なぜあなたはこの人と一緒にいるのか…それが気になっていた。


私達が真奈と初めて会ったのは高校一年生の時に同じクラスになった。


特に私と真奈は席が近くだったから、すぐに仲良くなり、よく昼食を共にした。真奈と話の中でも春樹が中学時代から好きだった事を話していた。


だが、私がもたもたしているうちに、いつの間にか真奈は私を差し置き、春樹に告白をしていた。友人が好きになった人を好きになる、女の子の間ではよくある事だった。


今でこそ、それは仕方のない事だと思うが当時の私はショックを受けた。だが、ひとつ安心していた事があった。彼があまり女の子に興味がないという事だった。


彼が後からいうには、今まではサッカーに打ち込んでいて余裕がないという話だった。だがそれは方便で、本当は私の事が好きだったという。


実際に彼は何人かに告白され、その子達は散っていったのを見ていた。だが、その時は違った。


運悪く?秋が私に告白をするかしないかを迷っていたらしく、それを後押しする為に告白を受けたと聞いた時は私はショックだった。


その日の私の初恋が終わったと泣きはらしたし、自分の思い上がりによる不甲斐なさを恨んだ。


翌日から一緒にいる二人を見て、私は目を逸らしたし、逃げ出したくなる思いでいっぱいだった。だけど、秋だけがそばにいてくれた。


そんな状態で数日がたったある日、私は秋に呼び出された。


「ごめん、急に呼び出して…」

私は秋の顔を見る事はせず、俯いたまま話を聞いていた。きっと告白だ…。それはわかっていた。


「うん、どうしたの…」


「…俺は中学の頃から日浦が…四季の事が好きだった!!俺と付き合ってくれ!!」

彼は何臆するかとなく言い切った。

強心臓…。じゃないと伊達にサッカーでエースを張っていない。だけど…、この告白がなぜ彼じゃないのか…そう思うと泣けてくる。


「…」

私は答える事ができなかった。


中学の頃から秋のことはよく知っていた。

春樹に比べると背は低いけど、イケメン。

ちゃらちゃらしてそうに見えて、芯が通っている。女好きそうに見えて、浮いた話を聞かない(聞くのはもっぱら春樹とのホモ疑惑ばかり)。


普通の女の子なら簡単に堕ちてしまうような優良物件だ。優良物件なんだけど…私には違った。そう思うと、心の底から涙が溢れてくる。


「…ごめん。ごめんね、秋樹くん」

…どうして泣いているのか、秋じゃダメなのか、どうして彼じゃないとダメなのか…私には分からなかった。


「…どうして?」


「私にも分からないの!!ただ、あなたじゃないの!!」

その一言に、彼は胸を抉られたような表情を浮かべる。私にもわかっていた。酷い事を言っている事が。

だけど…口から溢れ出るのは彼を傷つけるような言葉だった。


「…どんなに春樹のことが好きでも、あいつは今お前のことをみてないんだよ!!あきらめろよ!!」


彼は…怒った。それを私は黙ったまま聞いている。彼の怒り、それは当然だった。

真摯に向き合って私に好意を伝えてくれた仕打ちが否定…。


「なんで、俺じゃあダメなんだよ…」

下を俯き項垂れる彼の後ろ姿を私は見ることができなかった。


もし彼に非があるとすれば…告白のタイミングだったのかもしれない。


傷つき、打ちひしがれた私を今日まで支えてくれたのは秋だったが、まだ彼を見る心の余裕はその日の私にはなかった。


「…ごめんね、秋。やっぱり私は春樹じゃないと…嫌なの」

謝りながら自然と溢れる本音に私は驚いた。

それを私に背を向けたまま聞く秋。


あの人にはもう彼女がいる…それはわかっている。だが…


「それでも、春樹を諦められない。なら私はチャンスを待つよ!!」

この数日、泣きはらしていた私の心に火が灯る。強くて消えない恋心だった。

ただ…奪い取ろうとかは思わない。

私達はまだ高校生なのだ。チャンスはいくらでもある。なら、今諦めてどうする!!


「あいつの、どこがいいんだよ…」

不意に秋の口から言葉がくる。


「分からない…」

どこがいいのかなんて、私にはわからない。

ただひとつだけ言えることがあった。


「彼が…春樹だからだよ…」

いくら誰に嫉妬したところで、春樹は一人しかいない。それを私は失いたくない。

今の私に…彼の変わりなんていないのだ。

なら、私は…ただ待つほかなかった。


「分かった…勝手にしろ!!」

彼は、私の瞳に戻った光を見て走り去って行った。


夜も更け、辺りは街頭の光しか見えなかった。

月すらも…光を失っている。

…もしかしたら、3人の友人をいっぺんに失ったのかもしれない。


夜の闇が、今まで強がっていた心を惑わせる。

それは…怖かった。

下を向くと闇に沈んでしまいそうな思いに駆られ、不意に空を見上げる。


そこには都会の光に負けまいとひとつの星が、瞬いていた。あの星の光は、私だ。

どんな闇にも、光にも負けない為に輝く…心の光だった。


翌日…


「日浦!!おはよう!!」

私は一人学校に向かっていると、後ろから肩を叩かれて声が掛かる。

私は驚き、後ろを振り向くと人差し指が私の頬をつく。

その手の持ち主は驚くことに秋だった。


「…どうして?」

私がそう呟くと、彼は並行して歩く。


「どうしてって…俺は四季が好きだ。その気持ちが簡単に変わることはないよ…」

前を見ながら彼はそう話す。


「俺たちはまだ高校生だ。チャンスはいくらでも…あるんだろう?」

彼は驚くことに、昨日私の言った事をそっくりそのまま言った。


「その時が来るまで…俺も待つことにするよ。四季と一緒に…」

彼はそう言ったが、彼の願いが叶った時は私の願いが叶わなかった時。逆に私の願いが叶った時は彼の願いが叶わない時だ。


相反する願いは…私達の運命を変えたあの日を迎えても交わることは無かった。







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