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大人の男になる為に命を賭ける

 昼食は「ナポリタンスパゲッティー」が多かった。切ったウィンナー、玉ねぎ、ピーマンを一緒に炒めて、トマトケチャップで赤くする。トマトケチャップの子供っぽい甘さとウィンナーの脂の甘み。少し感触が残った玉ねぎと一緒に、スパゲッティーを噛んで飲み込むと、最後にほんの少しだけピーマンの苦みが口に残り、それを打ち消すようにもう一口と食べたくなる。


 多かったと書いたが、僕が好きだったから覚えているのだろう。「べちゃべちゃのチャーハン」が出てきた時もあったし、「カレーの王子さま」が出てきたこともあったし、「小僧寿し」で買った「ドラえもん寿司」だったこともあった。


 あの頃、まだパスタなんて言わなかったし、ジーンズはデニムと呼ばなかった。おぼっちゃまくんのEDテーマを歌っていたMCハマーが履いてたサルエルパンツが一瞬でも流行るなんて思いもしなかった。1984年のカラムーチョの発売から始まった「激辛ブーム」が今、いつの間にか第四次激辛ブームになってて驚いた。


 勿論、僕たちも、そのブームで辛い物を食べた。どれだけ辛い物を食べられるか? 辛いものを食べられると「大人」であり「男」らしいという理由で。今ならフェミニストやジェンダーフリーが突撃してきそうな話題だが、当時は男は男。女は女が当たり前だった。女の遊びを男はダメだし、男の遊びを女はダメだった。ひな祭りは「女の子のお祭りだから」と、家から追い出された事もあって随分、僕たちは窮屈な中にいた。


 大人に憧れて真似をしたり、追いかけたりしながら、ありもしない偶像を見ていた。男らしさ。女らしさに拘って、お互いに意地を張って、男と女に別れて幼少の頃からケチの付けあいをしていた。


 僕たちは暗黙の了解のうちに行われる性差別に、生まれた時から自分の個性を消したり、抑えたりしながら我慢を強要されいてた。子供当時、セーラームーンを見ているなんて死んでも言えなかったし、少年ジャンプを読んでいるという女子もいなかった。皆、こっそり見ていた。


 勿論、僕が生まれる前に、わざわざそれを直す為に男女雇用機会均等法が施行されたが、法が有ろうが無かろうが、男子は男子を目指していた。その結果、死ぬことになろうとも。僕たちは一つの掟を守っていた。


 「男たるもの学校のトイレでうんこをしてはいけない」


 これは昭和世代のルールなので、それ以降の世代は知らないと思う。僕は意味が分からなかったけど、「男」は「学校」のトイレでうんこだけはしてはいけないのだ。


 それだけは理解できた。何故、どうして、こんなルールがあるのかはわからないし、「男」らしさは微塵もない上に、男だけが何故か知ってる不文律は「俺はファミリーとスパゲティーの次にパンパンが好きだぜ」と豪語するイタリアンなマフィアファミリーの掟よりも重たかった。


 このルールによって、「うんこを漏らす」奴が何人かいた。しかも毎年。当然、うんこを漏らした者には死が待っていた。女子からは汚物扱いされ、男子からは同情の混ざったイジメが待っていて、男らしさを貫いて登校拒否になり、人生のレールを外れた奴もいた。


 当然、女子からは「なんでトイレに行かないの?」と疑問があったが、暗黙の了解を口に出してはいけない。彼がうんこを漏らしたのは「男」らしさの為だとか、今更バカすぎて言えない。しかも僕もそのルールに則って生きていたなんて格好悪すぎて言えなかった。


 ただあの頃、僕たち昭和世代は大人の男になる為に、うんこをするのに人生を賭けて挑んでいた。

★ナポリタンスパゲッティー

実は和食。


★命賭ける。

子供の頃の名セリフ。割と安く投げ売りしていた。


★べちゃべちゃのチャーハン。

日曜の昼ごはん。これを食い続けていると、逆にパラパラチャーハンが許せなくなる。いつだって胃に、胸に、心に残るのは母親の失敗作。


★カレーの王子様。

日本で初めて幼児向けに作られたカレー。私はカレーマルシェが好きです。昭和に初めて高級路線として作られたレトルトカレーです。食べたことが無い方は是非。ちなみにパウチというのはNASAが開発したもので、宇宙食を保存するために作られたそうです。


★小僧寿し。

ドラえもんがCMキャラクターだった。ドラえもん寿司はドラえもんのパッケージに寿司が詰められていただけ。しかし何を血迷ったか途中、「ドラずし」というどら焼きに酢飯を挟んだ黒歴史食品を生み出したダークマター製造会社。最盛期は2000店舗もあったそうだが、300店舗まで減少。もし見かけたら、買ってみてください。


★学校。

教師に「帰れ」言われて帰ったことがある。追いかけてきて「帰れと言われて帰るやつがあるか!」と激怒された。学校は理不尽と不条理と屁理屈の上に建っているオバケ屋敷みたいで、そこに巣食っている先生はゾンビなので一般的な大人とは違う生き物と思っていた。


★イジメ。

靴を隠されたことがある。犯人がわからなかったので次の日、クラスメート全員の靴をごみ箱に捨てた。殴られたら殴り返さないと「損」というのが昭和の価値観かもしれない。暴力は損得で行われる。


★男たるもの学校のトイレでうんこをしてはいけない。

20歳の時に付き合っていた彼女に、このルールを知っているか聞いたが「知らない。馬鹿なの?」と言われた。このルールには一応、抜け道がある。誰にもバレずにうんこをするのはセーフ。ただしうんこハンターにご注意。不自然に皆から離れてトイレに行ったり、近くのトイレを安易に使うとバレる。詳しくはお父さんから聞いてくれ。


★パンパン。

戦後は風俗をこう呼んでいたそうです。「おい、パンパン屋行くか?」と正月に酔っ払った爺さん世代に言われる。童貞は早く捨てるのが当たり前の価値観。日常会話にエロなんて当たり前。姫始め行ってみたかった。

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