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第8話 潜入

「ようこそいらっしゃいました」


 王城裏手の村から王都ガリアンドまで徒歩一日。地図を片手に俺はさっそく男爵家の屋敷を訪れていた。貴族街のはずれにある小ぢんまりとした屋敷だ。

 客間に通され、男爵家当主と思われる男と、メイド長と思われるメイド服を着た女性と相対している。


「あなたが応募してきてくれたアフィシアくんかね」


「はい。よろしくお願いいたします」


 年齢は四十代前後だろうか。鼻の下に蓄えられた髭が妙に似合うダンディな男爵様だ。優しそうな雰囲気であり、初見では犯罪にかかわっているようには見えない。


「優秀だと聞いているよ。メイド長のアデリーにいろいろ教えてもらうといい」


「わかりました」


 最終面接と聞いていたけど、どうやらただの顔合わせくらいのものだったらしい。諜報部の息のかかった国のメイドギルドの紹介は、伊達ではなかったようだ。


「アフィシアさん。こちらにいらしてください」


 アデリーさんは若干目つきの鋭い、キツそうなイメージを抱く第一印象だ。年も三十台に差し掛かったくらいだろうか。

 面接で落とされなかったことにホッと胸をなでおろす。アデリーさんの後をついて部屋を出ると、屋敷の中を案内してくれた。


 他の客間や厨房、当主の執務室に続いて私室へと向かう。最初の部屋は長男の部屋らしい。アデリーさんがノックをすると、中から『入っていいよ』と聞こえてきた。


「失礼します」


 十代後半くらいだろうか……。あまりにも太っているのでぱっと見で年齢が予測できない。全身を舐めるような視線をもらい、背筋が寒くなる。


「デュフフ。キミがアフィシアちゃんかな」


「あ、はい……」


 笑い声までそんな感じなんですね。ちょっとこれはダメかもしれない。なんというか生理的に受け付けないというか。


 ――と思ったところで。


「ウェルネス様。こちらが今日からこのお屋敷で働いてもらう臨時のメイドでございます」


 アデリーさんの声が遮るように入ってきた。一瞬だけでも長男の視線がアデリーさんへと逸れて、嫌悪感が薄まる。


「紹介にあずかりました、アフィシアと申します。短い間ですがよろしくお願いいたします」


 ここぞとばかりに挨拶を済ませる。なんとなく助け舟を出してくれた気がする。アデリーさんは見た目がキツめだけど、もしかすると優しいのかもしれない。


 言葉にした通り、俺は臨時のメイドだ。証拠なりを見つけたら去っていくので、正式契約はしないことになっている。名目としては、正式なメイドが見つかるまでの臨時なのだ。


「前の子よりもちっちゃいねー」


「……そうなんですか。負けないようにがんばりますね」


 気合で笑顔を引き出した俺は、怪しまれないように答える。


「では他にも案内するところがございますので、これで失礼いたします」


「わかったよ。がんばってね」


 アデリーさんがさっさと出ていきたそうに切り上げた。俺をかばうというよりも、この長男が嫌いなのであろうか。いやまぁわからんでもないが。

 そうして俺は最後に、自分の部屋に案内された。




「あたしはコーデリアよ。よろしくね、アフィシアちゃん」


「うふふ、可愛いわねー。あ、わたしはジェシーって言うの。よろしくねー」


 使用人用の部屋は三人部屋だ。アデリーさんよりは若く見えるお姉さま二人に自己紹介したところ、返ってきた言葉がこれだった。

 ハキハキした感じの赤髪がコーデリア、間延びした口調の金髪がジェシーらしい。


「ええと、あの……」


 二人にされるがままあちこちを撫でられる。

 こうしていろんな人と相対すると、自分の小ささをますます実感してしまう。メアリーさんや副隊長は、やっぱりそこまで特化して背が高いわけではなかったようだ。現に俺の頭の位置は、二人の肩よりもちょっと下くらいだ。

 そう、こんな感じでぎゅっと抱きしめられると、ちょうど顔におっぱいが――


「……ぷはっ」


「あらあら、ごめんなさいねー」


 まさか息ができなくなるとは……。男だったらともかく、女になったからなのか、ホムンクルスだからなのかまったく興味は持てないが。


「何かあったらあたし達に言ってね」


「はい。……よろしくお願いします」


 こうして俺の潜入捜査が始まった。


 元々この屋敷ではアデリーさんと、三人のメイドが働いていたらしい。長男のウェルネスが言っていた『前の子』というのが、行方不明になったメイドだ。


 調査報告によると、ここで働き始めて二週間ほどたったころに姿を見かけなくなったらしい。住み込みではあるが、毎週実家に帰っていたとのことだ。家に帰ってこない両親が屋敷へ問い合わせて、行方不明が発覚したとされている。


 また、行方不明が発覚した三日前の夜中に、屋敷から小さく悲鳴のようなものが聞こえたという証言があるらしい。夜中ともなれば、貴族街のはずれと言えど静かで人通りもほとんどなくなる。だが、巡回の衛兵がたまたま通りかかって聞いたとのことだ。


 とはいえ、あくまでメイドとして入ったから、直接事情を聞いたりできないのが難点だなぁ。一応事件については知らない設定なのだ。


「さて、何から始めようかな?」

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