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自称探偵 ジェイド 「黄金色の囁き 4.詐欺師の顔」

初出:自サイト


 4.詐欺師の顔



  暗き闇の彼方へと

  未だ見ぬその顔を

  求め捜し彷徨わん

  其、空知らぬ姿や




 あの日から、数日が過ぎた。

 ジェイドは何度かカーリーに会っては、情報──それを仕入れているのはレイジ青年であるので横流しともいえる──を提供していた。その度にカーリーは喜んでくれた。

 あの笑顔を守るためならば、なんだってやってやる──。

 日々、ジェイドは決意を固めるのである。



「タロウ、どこに行ってたんだよ」

「ニィー」

「くそ、ちっともわからねえや」

「ニィ」

 タロウは最近、度々姿を消す。ふと気づくといないし、そう思うと帰ってくる。

 実はメスにでも会ってきてるんじゃないかと、ジェイドは疑っている。


「何歳だい? タロウって」

「さあ、元々ノラだったらしいですから。それにまあ、翼猫にゃ年はいらねえって言いますし」

「そっか、魔物だっけな」

 そう呟いて納得したのはレイジ。

 今日は彼から話を聞いているのである。

「タロウの相手か。やっぱりハナコか?」

 あ、ハナコの相手はダイスケか──と、よくわからない名前を口にしては笑っている。

 彼の国にはそんな名前が多いのだろうか?

 いつもながら、多彩な知識を有している。

 さすがは記事者だ。


「それでレージさん、詐欺師のことですが」

「ああ、もう大丈夫だよ。大体解決した」

「解決、したんですか?」

「大体、ね」

「でも……」

「でも?」

「あ、いえ……別に」


 でも、カーリーはますます視線を感じるようになったとひどく怯えていた。それなのに解決したなどといえるのだろうか? いや、違う。絶対にそんなわけがないじゃないかっ!

 詐欺師とは別に、もしかしたら彼女を付け狙っている男でもいるのかもしれない。

 ジェイドは膝の上でぎゅっと握り拳をつくると、立ち上がる。

 突然席を立った少年を驚いたように見ていたレイジは、訝しげな声で問いかけた。


「どうしたんだい? 何かあったのかい?」

「いえ、少し用事を思い出しただけです。これで失礼します」

「あ、ああ……そうかい」

「では」


 頭を下げるのももどかしく、ジェイドは自宅へ向けて走り出した。その様子をレイジが面白そうに見やり、机の上では翼猫のタロウが、同じように見送っている。


「おまえも帰ったほうがいいんじゃないのか、タロウ?」

「ニィー、ウミャーオ」

「いいんだよ、別に。これとそれとは話が違うからね」

「ニャゴ?」

「きっとそうだろうねえ」


 周囲の耳には鳴き声としか聞こえない声に、青年はもっともらしく言葉を返し、翼猫もまた返答。

 まるで「会話」しているように取れる、不可思議な光景であった。


「とまあ、そういう感じ。いいか?」

「ミャウ」

「ああ、頼んだよタロウ」

「ミャ!」


 なにやらできあがったらしい約束を受けてタロウは尾を正して肯定し、そして背を向けて主人の後を追っていった。



  □



「ニャオ?」

「しっ、黙ってろ」

 建物の影から向かいのアパートを覗いている主人を見上げ、タロウはもう一声上げる。

「ニャー」

「うるさいって、気づかれたらどーすんだ」

 するどく声を浴びせてジェイドは視線を戻す。

 斜め上。ちょうどカーリーの部屋の戸口が見える位置に陣取って、ジェイドは見張っていた。

 なにを見張るかといえば、そう「怪しい人」だ。

 自分も端から見れば十分怪しいという自覚もなく、彼はひたすらに「怪しい人」を待っていた。


(きっと詐欺師が訪ねてくるに違いない。レージさんはもうすぐ解決するって言ってた……)


 彼が具体的に何をしたのかは教えてはくれなかったけれど、詐欺を立件するのだ。当然、今までに起こった事件の被害者から届出が出ているに違いない。それを元に、カーリーに起こっていることを「詐欺」として、犯人を捕まえるのだろう。

 犯人だって馬鹿ではないだろうから、身に危険が迫っているとなれば、カーリーに危険な手段でもって近づいてくる可能性もないとはいえない。

(きっと、カーリーさんに話をしにくるはずだ)

 ジェイドは確信をもって呟く。ふと『アタック紳士と貴族同盟の闇』の一節を思い出した。



  ***



「何故あの家に現れるとわかったんだ」

「わけもないことだよ」

 アクロンが問い、アタックはわずかに頬を緩めた。

「彼はプロであるけれど、今回は少しばかりミスを犯した。致命的だ」

 こういった話をする時の癖で、彼はアクロンの前をゆっくりと歩き始める。わずかに汚れた革靴の泥は乾き、歩行の度にその欠片をさらさらと落としている。ハウスキーパーのアリエールが見れば、さぞかし眉をしかめた光景であろう。

 軽く腕を組み、ひとつひとつを確認するかのようにアタックは言葉を紡ぐ。

 彼の、言葉のマジックの始まりだ。



  ***



「ニャ」


 タロウの声で我に返った。

 カーリーの、あの部屋の前に誰かが立っている。

 男性だ。

 顔はよく見えないけれど、背格好からすると四十代というところだろう。

 何かを話しているらしい。

 口論をしているようだ。

 ジェイドは迷っていた。

 今、ここで自分が飛び出して一体なにが出来るだろうか?



「なにかあったらよろしくね、ジェイド君」



 カーリーの言葉が頭に響いた。

 そうだ。

 あの人を守ってあげなければっ──!


「フニャーゴ!」


 はっと身を引いた。

 戸口からは男性が帰るところで、こちらを振り返ったばかりだったのだ。

 顔だけを覗かせて、男性の顔を確認したジェイドは驚きの声を上げ、あわてて口を押さえた。

 その男の顔は知っていた。

 ついこの間──初めてカーリーの姿を見たあの日。

 レージが声を掛けてくる前にした人助け。


 その時の男が、そこにいた。




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