あまりの汚部屋に付喪神がブチギレる話 ※冒頭のみ
注意:このお話は、冒頭部分しかありません
仕事が終わって帰宅。自宅マンションの玄関の扉を開けたら、金髪碧眼のイケメンが腕組みをして立っていた。
きらびやかな容姿に似つかわしい、なんだか時代がかった服を着ている。それはさながらヴィクトリア朝を題材にした漫画に出てくるキャラクターのようだった。
こういうのは日本人じゃなくて外国人がコスプレしたら神だよなあという思考を体現したような存在で若干感動を覚えていたのだが、ちょっと待とう私。
なんだこの状況。
仕事に疲れた社会人女性がなんらかの事情で西洋風の異世界に行ってしまい、そこで出会った上流階級生まれのイケメン外国人とウフフな仲になる物語はたくさん読んできたけれど、これは違うだろう。
だってここは紛れもなく私が暮らしている部屋の玄関だ。表札は出していないけれど、独り暮らしのOLが住む築年数が結構経っている家賃安価のマンション。
オシャレな壁紙なんて張られていないし、廊下の幅も狭い。頭上にあるのはシャンデリアではなく、人感センサーで点灯する暖色系のライトだ。
安っぽい。非常に安っぽい。
美形外国人にはあまりにも不似合いすぎて、なんだか脳みそがバグったような気分になっていると、イケメンのくちが開いた。
「貴様、いいかげんにしろ」
「は?」
耳心地のよい美声。
麗しい尊顔にふさわしい声を発したイケメンだが、口調は辛辣だった。命じることに慣れているような態度。
イケメンの上にイケボとか最強かよ。
と思う傍ら、苛立ちも生まれた。
なんだこの男。
「あんたが何様よ。人ん家に勝手に上がり込んで、家主が戻ってきたら開口一番『いいかげんにしろ』だ? そんなのこっちの台詞だっつーの。ちょっと顔がいいからって偉そうに。こちとら疲れてんのよ。居直り強盗だかなんだか知らないけど、うちに取る物なんてないわ。さっさと帰って」
たったいま閉じたばかりの扉に指を突きつけて、けれど視線だけはイケメンからそらさずに言い放つ。
私の頭には、妙に顔がよくて、自分でそのことをわかっていて行動している節のある会社の同僚の顔が浮かぶ。
本日、彼の失態をなすりつけられて、自分のヘマでもないのに謝罪する羽目になったのだ。度重なる「失敗の押しつけ」に対する苛立ちがついにピークに達したのかもしれない。
はーん、イケメンがなんぼのもんじゃーい!
「強盗? 僕がそうだと言うのか」
男は鼻で嗤った。バカにしたような言い方にカチンとくる。
言い返そうとしたが、言葉を放ったのは相手のほうが早かった。
「ありえない。それが罪であること以前の問題だ。たしかに強盗が侵入したかのような惨状の部屋だが、あれは君の怠慢だろう。僕ならばこんな場所で過ごすなど考えられん。いいかげん我慢の限界だ」
そう言って、美しい所作で左奥を指さした。そこはリビングがある部屋だ。
強盗が侵入したかのような惨状、とはさすがにひどい。そこまで言われるほどひどい状態ではないはず。
生ゴミは放置していないし、消臭剤も置いている。
同じマンションに住んでいる女性に一度チクリと嫌味を言われて以来、そのあたりには気を配っているのだ。抜かりはない。
ただそういえば、今日は地震があった。規模は小さいけれど、地震は地震。
対策をおこなっている会社ではキャビネットはびくともしなかったけれど、耐震? なにそれ美味しいの? 状態に近い築年数経過マンションにおいては無事とは限らない。
(以下、続かない)
みわかずさん(ID:420911)からいただいたアイデアをもとに書きはじめて頓挫。
その後、もう一度考えなおして別のお話に仕立てました。
→「ツクモさんとわたしの生活と未来のこと」(https://ncode.syosetu.com/n1385ir/)
開口一番キレられる、というところ以外は、原形がないかんじです。
外国人顔のイケメン付喪神は、名前を「三郎太」と言いまして、主人公は彼を「サブちゃん」と呼ぶようになります。
名前で分かるように兄弟がいて、上から順に「太一郎」「次郎丸」「三郎太」です。
彼らがなんの付喪神なのか、主人公のもとに付喪神が宿った物品が来た理由。
そのあたりのいいかんじの設定が思いつかずに、頓挫した次第です。
せっかくのイケメンですが、異類婚姻譚にはなりません。サブちゃんは、サブちゃんのままです。




