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山奥のとあるレストランの料理人のおはなし

初出:エブリスタ


※ジャンルはホラーです。NGな方は退避してください。

 遠路はるばるようこそおいでくださいました。大変だったでしょう。女性おひとりですし。

 そうですね。昔と比べると、だいぶマシにはなったんですけど、それでもやっぱり交通の便は悪い、ですね。

 すみません。本当なら僕のほうが出向いて、もっと町中の喫茶店とか、そういった場所でお話するべきなんでしょうけど、店の雰囲気を見ていただくなら、やっぱり直接いらしていただいたほうが伝わるかな、と。


 ああ、そう言っていただけると助かります。

 さすが雑誌社の方、口が上手くていらっしゃる。

 いえいえ。そうですか?

 だとしたら嬉しいですね。何もない村ですけど、僕が生まれて育った場所ですから。


 はい。では、よろしくお願いいたします。飲みながらお話しましょう。

 いい香りでしょう? 村伝統のハーブティーなんです。

 慣れていないと、すこし舌にピリっとくるかもしれません。

 香辛料です。身体が温まりますよ、どうぞ。



   =====



 おかげさまで、細々と営業させていただいております。

 隠れた名店、なんて。ありがたいお言葉をつけていただくこともありますが、まあたしかに隠れてますよね、なにしろ山奥ですから。


 最近はインターネットがありますし、くちコミで広がって来てくださる方が増えました。

 小さいながらホームページを作って、予約の受付もしています。

 まあ、すっぽかされてしまうこともあるんですけど。


 ドタキャン、というか。

 ほら、あなたもここまで来てくださったのならわかると思うんですけど、道が狭いし街灯も少ないですから、悪天候だと危ないんですよ。

 ですから、無理だと判断したなら引き返してくださってかまわないと伝えてあるんです。

 きちんと連絡をくださる方もいますし、そうでない方もいらっしゃいます。

 後者の方は、すこし心配、ですよね。事故に遭われていないかな、と。

 その後、同じ情報で予約をいただいて、ほっとひと安心、みたいなこともありましたね。




 最初は町に出て、レストランで働いていました。

 ホテル内の店に入ったこともありますし、小さな食堂みたいなとこも経験しましたよ。いろんなものを作りたかったので、場所は選ばなかったんです。


 はい。おかげさまで、幅が広がったと思います。

 お客様の希望に合わせて、コース料理を変更したりもします。

 そのあたりは個人店だからこその融通というか、最近はアレルギーとか多いですからね。そういった方はご自分でわかっていらっしゃるので、最初に申告してくださいます。

 勿論、こちらからも確認します。こういう用紙をお渡ししてるんです。


 あはは、細かい、ですよね。結構、驚かれます。

 でも大事なんですよ。ここは奥地で、きちんとした専門の病院はありません。何かあった時、即座に対応ができるとはかぎりません。その旨をお伝えして、ご協力いただいています。

 お客様の身体を守るためでもありますが、その逆で、村の人間のためでもあります。病を持ちこまれると困りますからね。

 消毒にもきちんとご協力いただいて、ありがたいかぎりです。


 あ、それ僕も見ましたよ。面白い言い方を考えますよね。実際、それを見て来ました、って方もいるんです。

 やっぱり有名ですし、インパクトありますよね。「注文の多い料理店」って。

 最初に発言してくれた方には、感謝ですね。

 あなたにも色々と注文をさせていただきましたね。すみません。



 うちを取り上げることは、取材が終わるまでは他言無用。

 カメラマンの同行はできればご遠慮いただいて、記者さん本人が撮影も兼ねるほうが好ましい。



 勿論、お店をやっている以上、こうしてメディアに取り上げていただける機会を得られるのは名誉なことだと思っているんですが、目立つということは、別の要因も引き寄せます。良いことばかりじゃないでしょう?

 この村は若者の数が少なくて、お年寄りが多いので。昔気質な方もいらっしゃって、軋轢もあるんです。

 あ、これオフレコでお願いしますね。


 今回はあなたのような、若くて綺麗な女性の方がいらしてくださって。僕もまあ男ですから、嬉しいです。

 本当ですって。都会はスレンダーな方が多いですが、やはり人間、適度に肉がついていないと駄目だと思うんですよ。

 あなたは健康的で、とてもよいと思います。




 ここで店を開いた理由ですか?

 それはやはり、恩返しがしたいという気持ちが一番強いです。


 僕はここの出身でして、ここで育ちました。

 学校は山を越えて通いました。

 大変でした。おかげさまで体力はつきました。


 ご覧のとおり、不便なところです。

 ですから、若者はみな外へ出ていきます。

 戻ってくる人もいれば、そのまま姿を見せなくなる人もいるようで。年々、過疎化が進んでいます。


 だから、自分の店を出すなら地元に帰ろうと決めていました。

 実際、喜んでくれましたよ。

 たくさんではないけれど、お客さんも来てくれるようになりましたし。高速を降りてから時間もかかりますけど、年寄り連中に言わせると、昔よりはマシだとか。


 今の時期は、紅葉も綺麗です。

 自然も豊かで、珍しい動物なんかも生息しているのかな? 写真を撮りに来る方も増えました。

 宿の旦那さんにも感謝されました。

 このあたりは、持ちつ持たれつですね。


 はい。なにしろ山の中ですから、魚よりは肉がメインになってしまうのは仕方がないかな、と。


 あ、それですか。

 はい。裏メニューっていうのかな。必ず提供できるわけではないので、正規メニューとしては載せてないんですよ。

 だからこそ、希少価値があるんですかね。こうやって記者さんも取材に来てくださるぐらいですし。



 いやあ、そこはまあ、「秘密」ということでお願いします。

 今日ですか? 調達できそうなんですよ。久しぶりなので、みんな喜んでます。


 そう、村の人たちです。

 もともとは、彼らのために作っていたものなんです。

 この辺りでは大昔から食べているもので、僕にとっても馴染みがあります。


 そうですね。いってみれば「特別なご馳走」ですね。

 村の人が店に食べにきていた時、たまたまお客さんが料理を見ていらして、あれはなんですか、食べてみたいということでしたので、お出ししたところ、広まった……のかな? 詳しい経緯はわからないんですけど。


 でもよかったです。

 さっきも言いましたけど、おかげであなたが来てくださいました。僕自身も楽しみです。



 おや、大丈夫ですか?

 眠気に襲われてますか?


 え、手足に痺れ?




 それは良かった。順調です。

 ええ、はい。たまにいらっしゃるんですよ、耐性があるのか薬が効かない方が。


 ですが、あなたには効いた。よかった。

 あなたのような極上の美人は久しぶりで、その味を想像しただけでワクワクしますよ。


 美味しそう。

 とても美味しそうです。


 早くその服の下を拝みたい。

 大きすぎず、小さすぎない。そのまろやかな胸は、どんな弾力なのでしょう。この手で確認したい欲求が抑えられません。


 知っていますか? 女性の胸肉は、本当にとろけるような味わいなんですよ。脂っこいと嫌う人もいますけど、僕は好きです。



 指は一本ずつ串焼きにでもしましょうか。

 細すぎると食べる場所がないのですが、あなたはいい。とてもいい。

 張りのある頬肉は煮込みにするのがベストですね。


 男性はどうしたって筋肉質で、固い。

 それをどう料理するのかが腕の見せどころではあるんですけど、僕はやっぱり女性肉のほうが好きなんです。


 そろそろ体内にスパイスが行き渡ったかな。

 これをするのとしないのとでは、調理後の味がまったく違うんですよ。



 おや、まだ声が出せるのですか。なかなか体力がありますね。

 大丈夫ですよ、だってあなたはここへ来ることを誰にも言っていないでしょう? そうでないと、取材は受けないと僕は言ったはずです。


 あなただから、特別だからと言えば、若い女性は僕が言うままに従ってくれることが多いんです。

 この顔に産んでくれた両親には感謝しないと。

 おかげで獲物が自分からやってくる。



 そろそろかな。

 どうぞ、ゆっくりお休みください。

 あなたのことは、僕たちが美味しく食べてさしあげます。


 来てくださって、感謝します。

 ありがとう。




 いただきます。











エブリスタの超・妄想コンテスト第138回「この仕事を始めた理由」に参加。


前話の「百度参り」もそうなんですが、これを書いたときは少々病んでました(笑)


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― 新着の感想 ―
[良い点] ぞくぞくしました! うわぁぁぁぁ!!!! (すみません、めちゃくちゃ脳内で映像化を) そっとブクマさせていただいてました。今日さっそく最新話から拝読してしまう不届き者です。 こういう、一…
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