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婚約破棄、承ります。

注意:オチはありません。

「君との婚約は破棄させてもらう」


 そんな声が聞こえて、私はかたまった。

 おう、これはもしかして修羅場というやつでは?

 モップをにぎりしめ、そそくさと壁にはりついて同化する。

 パーティーの華やかさをしりめにフロアの床掃除をしているときは、周囲との服装格差をひしひしとかんじたものだけど、いまは地味なお仕着せに感謝だ。


 本日開催されているのは、フェブラール学院の卒業記念ダンスパーティー。

 在校生も希望すれば参加できてしまう大盤振る舞い、さすがは国営の学院だ。

 一方、メインホールからぐっと離れたここは、宿泊施設としても使用できるサブの会館――その大広間。

 こちらはこちらで、ちょっとした催しものができる程度に立派なんだけど、灯りが落とされているいまは、ひとけもなく静まりかえっている。



「聞いているのか!」

「…………」


 ああ、はいはい、聞いてます。っていうか、盗み聞いてます、すみません。

 メイ・モーガン、当年とって十五歳。そんなはしたないことをしたことはございませんでしたが、いまは貴方がたが悪いんです。わたしわるくない。うん。

 こっそり顔をのぞかせてようすをうかがうと、男女一組と女一名。

 ああ、うん、これはあれですね。仕事仲間の先輩から聞いていた、噂のやつですね。

 名物「婚約破棄」ってやつです。


 お貴族さまの多くは、幼少のころからお相手がマッチングされていて、そういうものとして育っていくなか、親の目が届かない学院に入学して、頭のネジが飛ぶひとがいるらしい。

 在学中に燃えあがって、「運命の恋」に出会って、家同士で決まった相手にお別れを告げるんだけど、それがなぜか、卒業パーティーに集中する。


 あれかしらね。

 解放感というか、お祭りの高揚感というか。

 卒業する年齢になった、イコール大人になったぜ的な勘違いをして、俺は自分で相手を選べるんだぜとばかりに、破棄をつきつける。

 実際にそれでご破算になったものもあれば、卒業した途端に憑きものが落ちたかのように冷めて、元サヤにおさまるパターンもあったりするらしんだけど、あのひとたちはどうなのかしら。 

 まあ、あそこにいるのが誰なのか、どーでもいいんだけどさ。

 とりあえず、この場所を掃除しなくちゃいけないから、さっさとその行事を終わらせてほしいところだよ。



「おい、おまえ」


 おお、あらたな男の声が聞こえましたよ。

 え、やだ、なにそれ、四角関係ってやつ? それとも――


「聞いてるのか、そこではりついて覗き見してるあやしい奴」

「――え?」


 なにげにいやな予感。

 やだ、まさか私じゃないわよね。


「王宮仕様のお仕着せのなかでも、一番地位の低い女中見習いに支給される服を着ている、くすんだ色の金髪をおさげ髪にしているチビのおまえだ」


 はい、私でした。チビは余計だ。


 ギギギと頭を動かすと、暗がりの中に誰かが立っている。

 窓から射しこんだ淡い月光が照らす髪が白く光り、ついでに瞳もギラリと光ってこちらを見据えた。やだ、こわい。

 音もなく歩いてきた男は、私の腕を掴む。

 ぎひいいぃ。

 あげそうになった悲鳴は、男の手によって塞がれた。


「黙れ。向こうに聞こえるだろう」


 耳に鋭く声が突きささる。

 間近にある男の顔――藍色の瞳に私の顔が映りこむ。


 わかった。

 わかったから手を放して、ついでに離れてほしい。


 必死の形相が通じたのか、男は手をゆるめ、それでも私のくちを覆ったまま、声も低く告げてくる。


「声をあげるな。黙ってついてこい」


 そんなことを言われて、おとなしくついていくひとがいると思うかね。

 とはいえ、ほかに選択肢がない私は、手を引かれるまま広間を出る。

 背後では、少女がすすり泣く声が聞こえていた。



    ○



 別棟エリアと呼ばれる場所に、その男の私室はあった。

 毛足の長いじゅうたんは、うっかり足を取られて転びそう。それ以前に、これ掃除が大変そうだな。クッキーのかすとか落としたら、どうやって取ればいいんだろうか。

 俯いて、掃除方法について考えを巡らせていると、男が大きく息を吐いた。


「なにも首にしようというわけではない。ただ、あそこで横やりを入れられては困るから、退場願っただけだ」

「……はあ、そうですか」


 べつに正義感にかられて、「そんな、彼女がかわいそうじゃないですかっ」なんて飛びこむつもりはカケラもなかった。

 むしろ、さっさと終わらせて私に仕事をさせてくださいという気持ちのほうが強かった。

 っていうか、掃除してない。やばい。


「あの、私はどうしてこちらへ連れてこられたのでしょうか」

「言っただろう。騒がれては困るんだ、と」

「私には仕事があるんですっ」


 だからさっさと解放してくれとつづけるつもりだったんだけど、相手もまた淡々と告げた。


「俺にも仕事がある。邪魔をしそうになったおまえを排除してなにが悪い」

「邪魔なんてしてません。私の仕事の邪魔をしたのは、あの男女三人組です」

「その男女三人組が、俺の仕事でな。だから邪魔者はむしろそっち」

「あの人たちが『仕事』ですか?」

「正確には、あそこでおこなわれていたことが仕事というべきか」


 あそこでおこなわれていたこと、それはすなわち――


「俺の仕事は、婚約破棄の場を設けて、それらの関係を終わらせてやることだ」






お気に入りの作者さまが、テンプレチャレンジで、婚約破棄とか悪役令嬢を書いていらっしゃるのを見て思い出したもの。

いつ書いたものなのかは覚えていないのですが、最近の漢字の開き方とは異なる文章だったので、わりと前の文章なのかもしれません。(投稿にあたって、だいぶ開きました)



「〇〇、君との婚約は破棄させてもらう」

という、お約束の冒頭を、私も書いてみようと思ったのがキッカケです。

こうして主人公は、一緒に「婚約破棄」という仕事をします。

たまに当て馬の女性役になってご令嬢にくそみそに罵倒されますが、ヒーローは「おまえ演技が下手だな」で終了です。

このふたりが、どうくっつくのか見えないし、物語全体のオチも明確にならないため、お蔵入りとします。


テンプレをおちょくる系しか思いつかない残念な脳みそです。

同じように、テンプレ設定にツッコミを入れる系として、「乙女ゲー転生」もあるのですが、途中まで書いて、一年半ぐらい放置中(笑)

こっちはいつか、オチをつけて収録したいところですが、そういって一年半経ってるわけでして。

今とは全然書き方が変わっていると思うので、全面的に改稿する必要があるでしょうねえ。

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