50/50の男
初出:自サイト
「ファンタジースキーさんに100のお題」を使用。(053. 50/50(フィフティ・フィフティ)を改題)
おめでとうございます。
言われて男は考えた。
俺は幸運なんだろうか?
改めて考えてみたけれど、己の身に起きたことを思うと、世間一般的にはあまりお祝いすべきことではないと思われた。
けれどまあ、ある意味では幸運なのかもしれない。
目の前にいるのは、神である。
いや、神っぽく見えないこともない人物。
むしろ、コテコテの神っぽい人。
足元を隠すほどに長くヒラヒラとした白い服に、やっぱり白いもじゃもじゃの髭。落ち武者のように頭のてっぺんだけが禿げていて、けれど横に流れる長い髪はゆったりしたウェービーヘアー。栄養失調に思えるほどに細い手には、ゴツゴツとした杖が握られている。
そんなギリシャ神話に出てきそうな人が、雲に乗って前にいるわけで。これはもう信じないわけにはいかないだろう。
何故なら男はたった今、死んだばかりなのだから。
彼は生まれながらにして、50/50の男であった。
病院が悪かったのか、それとも単に親が知ろうとしなかったのか。
生まれてくるまで、彼の両親は、自分たちの子供が男か女かわからない状態だったという。
男女の確立二分の一で生まれた男児は、まだ新米に毛が生えた程度だった医師にとって通算五十人目の赤ん坊。
通うことになった小学校は、ふたつの校区のちょうど中間点にあり。彼は齢六歳にして、通う学校を選択するという立場に陥った。
五クラスある中で三組に属し続け、名字誕生日もちょうど中間点にあった彼は、その後高校生活までの出席番号も常に真ん中で在り続けた。無論、成績も中間位置に属し、「可もなく不可もなく」といった状態。
なにをやっても、なにをしても。
常に五分五分の勝敗を持つ彼はある意味で、奇跡の人であったのだ。
得意課目半分、苦手課目半分。
ここでもやはり五分五分で大学に合格した彼は、人生八十年が伸びつつある昨今、百歳の半分・五十歳で死ぬんじゃないだろうかと、半ば本気で考えていたので、自分がこうもあっけなく命を落とすハメになるとは、ちっとも思っていなかったのである。
「それでもまあ、あれも半々だよなぁ」
ひとしきり振り返って、呟く。
なにがあったのか、詳しくは省くが、彼はとある事件に巻き込まれた。
その場所にいたのも、たまたまだった。二者択一で選んだ場所で、もう片方を選択していれば、無事だったのかもしれないが、それはあとのまつりである。
そしてその場所に自分を含めて二人しかいなかったのもたまたまであれば、いきなり出没した犯人の人質として選ばれてしまったのも、たまたまなのである。
男は思った。
たまたまだ。
今回はたまたま「悪い方」の半分に含まれてしまっただけなんだ。
けれど、50/50の男であるが故に、彼はどこかで楽観もしていた。
中間であるのが、自分なのだ。悪い方には留まらず、きっと真ん中の状態にまで回復するに違いない。
それは決して、全面的に「良い方」に針が振れるわけではないことも意味しているけれど、良くも悪くもないということはつまり、この事件というシーソーは、水平を保つということなのだ。
わりと平然としていられたわけは、犯人によるところも大きかったのだろう。
半狂乱だった犯人は、外の騒ぎがある程度静まると、緊張が解けたかのように座り込み、動じない様子の男を見てさらに落ち着いてしまったのか、何故だか急に身の上話を始める。
リストラ・ギャンブル・酒・三行半。
絵に描いたような転落人生を語った後、どこか達観した様子の犯人が懐から取り出したのは、爆弾だった。そして突きつけられたのだ。
赤と青、どちらかを選んで切ってくれ──と。
こんな自分は生きていても仕方がないんだ。だけど、キミに話を聞いてもらってなんだかとてもすっきりしたよ。ありがとう。
死のうと思っていた。
どうせなら派手に死んでやろうと思っていたんだ。
でも、気が変わった。キミのおかげだよ。もう一度やり直してみてもいいかもしれない。そう思えたんだよ。
だから、キッカケをくれたキミに決めて欲しいんだ。
私が生きるべきか死ぬべきなのかを。
仏のような穏やかな顔で、犯人は微笑んだ。
男は展開についていけず、しばし呆然としつつも、素直に思った。
何故、見ず知らずの人間にこんなことを頼まれなければならないのか。
失敗すれば、死ぬのは相手だけじゃなく、自分なのに。
勝敗は五分五分。
生きるか死ぬか、確立二分の一。
「で、悪い方に転んだんだよなー」
他人事のように、男は言った。
そして、言った後で感心する。
ここはきっと、分岐点だ。現世と、死者の国との。
50/50の男は、ここでもまた半分の可能性を提示されている。
それがつまり、神だ。
神は言った。
わたしの跡を継いではくれないだろうか、と。
稀に見るぐらいの奇跡の男は、どうやら神様候補にノミネートされたらしい。
神となって生きるか、死者となり輪廻に身を投じるか。
目前の神に問われ、男はすんなりと決断した。即決が男のモットーだった。
どちらを選ぼうと、可もなく不可もない人生を送ってきた男。常に二者択一で生きてきた男にとって、「ふたつにひとつ」は至極当たり前の作業だったから、だから男はあっさりと「神」になることを選んだのだ。
もうこれで「五割の男」からも卒業だ。
新米の下っ端の、ケツから数えた方が早いぐらいの男になるのだ。
こうして、百地区ある中で五十番目に名を連ねる、各地区に百人いる神の五十番目に位置する、第五十代目の神候補になった男は、半人前の証として、前神様の半分の長さしかない服と、半分の杖と、半分の大きさの雲を与えられ、現世の人々の運・不運を「50/50」に設定してバランスを取るという仕事を、この世と現実の狭間のどこかで、今日も行っているはず。
彼が正式な神になれる確立もまた、50/50
エブリスタの超・妄想コンテスト第100回「百」に参加。
100っていうか、むしろ50だよね、これ。
というツッコミは自分でさんざんやったのでスルーしてください。




