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ぼっち飯同好会へようこそ

初出:第2回 かざやん☆かきだしコンテスト!

タイトルイラスト:相内充希様(ID:1415775)より

挿絵(By みてみん)




「ごちそうさまでした」

 空の弁当箱に向かい、手を合わせる。

 自分で作った弁当だが、挨拶って大事だよな?


 春の朗らかな木漏れ日が嬉しい大木は、桜。

 敷地を囲う塀に沿うように植わっているそれらはすでに葉桜となり、かつての栄華を誇るよう地面には花弁が散り、土に汚れている。

 大きく伸びる枝が、隣合う木と交差しないギリギリの箇所に配置されているところは、本当に見事だと思う。こういうのって誰が決めてるんだろう。

 軽く息をついて立ち上がると、尻に着いた土を払う。なるべく草地を選んだが、汚れから完全に逃れることはやはり難しい。

 スマホで確認すると、昼休みが開始してから十五分しか経っていなかった。

 次のミッションへ移行するか。

 弁当箱を鞄にしまうと、ミネラルウォーターのペットボトルを手に歩き始めた。



 リア充どもめ。

 俺の呪殺はカップルの背中に刺さりはしたが、奴らは平気そうな顔でイチャコラしてやがる。

 高校へ入学してまだ一ヶ月未満だというのに、溢れるカップルは一体なんなのだろう。

 春か、春なのかここは。いや、四月だから春なんだが。

 二年や三年ならまだわかるけど、さっきの女子は一年生。俺と同級生である。

 なぜわかるのかといえば、女子のリボンは学年によって色が違うから。

 一年は赤。進級のたびに購入しなくてはならない仕様で、どこぞのフェミニスト団体であれば「男尊女卑だ」と叫びをあげるかもしれない。

 男子は学ランなので、三年通して同じに見えるだろう。けどな、男だって学年を示すピンを付けてるわけ。目立たないからわからないかもしれんが、学年ごとに金払ってんだよ。

 まあ、俺は近所の兄ちゃんにお古を貰ったけどな。節約大事。


 目的の場所に向かって歩いているように見せかけながら、植え込みの横を歩く。

 刈り損ねた枝が一本だけぴょこんと伸びているさまを眺めつつ歩いていると、人が立っていることに気づいた。

 向かう先は行き止まりで、T字路となっている場所。人影があるのは、右――俺がいつも曲がる方向だ。

 仕方ない、今日は左へ行くか。

 右の方が遠回りになるので、時間つぶしにはもってこいなのだが、人とあまりかかわりたくない。すれ違うにあたって、まるっきり無視ってのもあれだし、かといって会釈するのもどうかと思うし。こういう時、コミュ症は困る。

 さもはじめから、俺はこっちに用事でしたけど? といったふうに左へと歩を進めたところ、背後から足音が聞こえた。向こうの誰かが立ち去ったのだとしたら、早計だったか。もう少しゆっくり歩いておけば、あっちへ行けたかも。

 次に同じことがあれば、時間配分を考えよう。

 そう決めた時、女の声が小さく耳をかすめた。


「待って、話がある」

 え、なにこれ。フラグ?

「発知祐介くん。あなたを、ずっと見てた。声をかけたかった」

 なにそれ、どこのエロゲ?

 いやいや、俺はまだ十五歳だから、そういうゲームは所持してませんよ。父子家庭だからエロに対してオープンとか、そういうわけでもないですよ。うちの親父、真面目な忠犬っていわれてますから。

 渾名はポチ。ハチじゃないのは、名字が発知ほっちだから。

 うっかり足を止めた俺を追い越し、目前に現れた赤いリボンの女子に、息を呑む。

(七組の人形ドールじゃん)

 一年の教室は、同じ階に七つ並んでいる。

 七組は一番端に配置されているにもかかわらず、俺の三組クラスにまで噂が届くほどに有名なのが、彼女――笹川雪子だ。

 整った顔は男女問わず目を引くが、人形の名が示す通り、表情に乏しいのが残念なところ。だが、その澄ました顔が美しく、塩対応ともいえる態度で、男子の人気を博している。

 つらつらと情報が脳内を巡る中、彼女は俺に問う。


「同好会、入らない?」

「――同好会?」

 なんだ、勧誘か。

 高校ともなれば部活動は強制ではない。興味がないので、どんな部があるかも知らないし、見ていない。そんな状態なので、同好会の存在自体が初耳だった。

 しかし昼休みにも勧誘とは忙しいもんだ。こいつも一年だから、入ったばかりだろうに。先輩から強要でもされたか?

 同好会というからには、人数が少ないが故に、部として成立できない集まり。新入生を獲得し、なんとか部へ昇格したい、といったところなのだろう。

 多少の同情を覚えたが、それを彼女は興味と受け止めたらしい。

 ずいとこちらに近づくので、俺は一歩下がった。


「いや、興味ないんで」

「内容を聞いてもいないのに、よく言えたわね」

「部活動そのものに興味がなくてですね」

「これは同好会」

「変わんねーよ。放課後に拘束されたくないんだよ」

「平気。これは昼に行う活動」

「なんだそれ」

「午前中の授業が終わって、最初にすることは、なに?」

「なにって……」

 弁当喰う、かな。

 ぽつりと漏れた声に頷き、彼女は言った。

「ぼっち飯同好会よ」



 ぼっち飯

 昼食時に友達や仲間と一緒にではなく、独りで食事をとることである。

 (デジタル大辞泉より)


 スマホ画面を眺める俺に対し、相手は静かに、ただ座っている。

 ここは、彼女曰く同好会の活動場所。屋上へ向かう階段、冷たい鉄扉の前の、薄暗い踊り場だ。

 屋上は解放されていないため施錠されており、人の気配は皆無。なるほど、ぼっちに相応しい場所であろう。だが、しかし――


「あのさ」

「なに」

「メンバーは?」

「私一人」

「それ、同好会か?」

「同好会にするために、誘った」

「ああ、なるほど。って、待て」

「明日の活動だけど」

「あの、入るって言ってないんだけど」

「ここは今日の活動場所であって、日々変化する」

「俺の言うこと聞こえてる?」

「明日はB地点にしましょう。集まって」

「説明しろよ、わかんねーだろ」

「入ってくれるのね」

「――っ!」

 のらりくらりとかわして会話をしなかった笹川(もうこんな奴呼び捨てだ)が、ここで急に俺の問いに反応した。

 さてはハメやがったな、こいつ。

 絶句した俺に、笹川は口元を緩ませる。

 それまでの無感情な雰囲気が一変し、光が差したように明るくなる。

「ぼっち飯同好会へようこそ」

 なお、彼女が急に明るく輝いて見えたのは、扉上部のガラス窓から差し込んだ光のせいである。眩しい。


   *


 B地点とは、プール脇のベンチだった。

 ロッカーにメモが入っていたのである。いつ入れたんだ、おまえ。

 直射日光を避けられる絶妙な位置に二つあり、俺達は別のベンチに座って弁当を広げていた。

 笹川は、姿勢よく座った状態でサンドイッチを食べている。脇に置いてある袋は膨らんでいて、複数のパンが入っていることが推測できた。

「あのさ」

「なに」

「一緒に喰ったら、もうぼっち飯じゃなくね?」


 そう。

 ぼっち飯がぼっち飯たる所以は、ぼっちであるからであって、複数で食べていては、それはもうぼっち飯とは言わないのではないだろうか。

 すると彼女は「一緒ではないわ」と、俺達の距離を目線で示す。

 距離の問題ではなく、空間の問題だと思うのだが、そうではないらしい。


「私達はそれぞれが、それぞれの物を食べている。会話していないし、目も合わせていない。座っている場所だって離れている」

 淡々と語りながらも、サンドイッチの面積は確実に減っていく。次に焼きそばパンが現れた。

「つまり、たまたま、偶然よ」

「呼び出されたんですけど!?」

「来て、とは書いてない」

「昨日の今日でアレなら、来いって意味だと思うだろーが」

「でも書いてないわ」


 彼女の言葉を借りれば、俺達はそれぞれのベンチで「ぼっち飯」をしているらしい。

 例えそれが近距離であったとしても、そこには距離があるのだ。

 物理的な距離ではなく、精神的な距離が。

 言葉を発したとしても、それは独り言なのである。

 なにそれ、こわい。

 肩幅分ほど、物理的な方の距離を空けようとした時、明るくはあるが、嫌味のこもった聞きなれた女の声が響いた。


「こんな所にいるなんて、やっぱりぼっちはぼっちよねぇ」

「星野……」

「いつもみたいに、自分で作ったぼっち飯を、ぼっちで食べてるのかと思えば」

 大きな瞳を俺の先――笹川へと向けると、口を尖らせる。

「ぼっちのくせに女の子と一緒とか、何様?」

「どーでもいいだろ。ってか、ぼっちって言うな」

「だってぼっちじゃん」


 発知という俺の名字を聞いて「ぼっちだって」と笑ったのが、小学校時代の星野真帆。運動会の時、一人で弁当を食べていた時に「ぼっち飯してる~」と笑ったことを、俺はまだ許していない。


「誰?」

「一組の星野」

「知らない」

「端と端だしな」

 笹川は言葉少なく漏らし、聞きとがめた星野は何故か俺を睨んだ。解せぬ。

「星野さんは、発知くんと食べたかったのね」

「そ、そんなわけないじゃないっ。バッカじゃないの、なんで真帆がぼっちなんかとっ」

「俺だってヤだよ」

「なによ、ぼっちのくせに生意気」

「どっかの眼鏡くんみたいな扱いやめろよ」

「二人は仲良しなのね」

「違うから」


 ハモった俺と星野の声に、笹川は深く頷く。


「星野さんも同好会に入りたいのね」

「なんでそうなったよ」

「……ねえ、この子大丈夫なの?」


 それは俺の方が訊きたい。


「明日はD地点よ」

「だから場所を言えよ、ってかC地点の立場は」

「永久欠番」

「まだ四月なのに?」

「C地点……、彼の死は無断にはしないわ」

「永久欠番の意味違くね?」

「ま、真帆はイヤだけど、ぼっちがどうしてもって言うなら、考えてあげなくもないけど?」

「言ってねえ!」


本文は4000字ちょうどに押しこめましたが、こういった「書き出し作品」の大変さを痛感。

一話辺りの文字数が、4000~5000字になっちゃうことが多いのですが、それはつまり、必要な情報提示の仕方が下手なんだと思いしらされました。


内容にまつわるおはなしは、活動報告に書きましたが

(https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1005573/blogkey/2368626/)

そちらで書いていないことをひとつ。

発知くんが放課後に拘束されたくない理由は、スーパーの特売やタイムセールに行きたいからです。

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