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強制勇者アイアン 第4話~第5話


初出:自サイト

「ファンタジースキーさんに100のお題」を使用


【第四話 指輪】



 余計な道草くっちまったぜっ


 息せき切って、彼は走っていた。

 なぜ邪魔ばかりが入るのだろうか。

 ただ、やっとできた休暇で、自宅へ帰るだけなのに──。


『えらい急いでまんなー、兄さん』


 声が響いた。

 耳に届くというよりは、脳に直接響く。

 こめかみ辺りを発信源とした声が、彼の顔を歪めさせた。


「うるさい、黙ってろよ」

『そない言わんでもえーがな』

「やかましい」

『つめたいなー、勇者はんのくせに』

「その名で呼ぶな!」



 ますます苦い顔をして、彼──アイアンは己の手に向かって言葉を吐いた。

 その指にはひとつの指輪がある。

 古めかしい装飾で、銀製なのか鉛なのか微妙な材。傷と埃にまみれた台座の中央には緋色の石が収められている──あまり一般受けしない、古式ゆかしいマジックアイテムじみた指輪である。


「だいたい、話しかけてくんなっつっただろうが」

『かたいこといいなさんな、わてはあんさんのパートナーやで?』

「なにがパートナーだ」

『古来より勇者を守護する指輪やねんから、パートナーゆーても間違いやないやろ』

「ならもっと、それらしい雰囲気もってろよ」

『それはあんさんの偏見っちゅーもんやで。精霊ゆーたかて、色んなタイプがおんねん。わてだけ責めるっちゅーんは筋違いや』


 開き直ったような口調であるが、これがこの「指輪の精霊」の性格であることを認識する程度には、この指輪と付き合っている。



 勇者の三種の神器。

 そのひとつが、この守護精霊。

 あらゆる災厄から主人の身を守るというが、とんだものを喰わせられたと、アイアンは思っている。

 そりゃあ、多少、ちょっとはドキドキした。

 パン屋の息子であるとはいえ、彼とて「勇者物語」を知らないわけではない。

 勇者を守るマジックアイテムの存在は知っているし、そんなものがあったらいいな──と思ったことも一再ではない。

 どうぞ、勇者アイアン・アーファング殿!

 と、捧げられて、その時ばかりは「勇者は余計だ」という言葉も浮かばなかった。

 だが、それを指にはめた途端、夢は覚めたのだ。


『あんさんが勇者はんでっか。えらい貧相な兄さんやなー、ああ、まあええわい。よろしゅーたのんますー』




(こんなことなら、いらねーって断ればよかった……)


 胸中で悪態をつく。

 だが、これにも気を使う。

 下手をすれば、この精霊に言葉を読まれてしまうからだ。

 精霊との会話は、声に出す必要がない。いわゆる「テレパシー」というやつだ。心で呼びかければ、頭に声が響く。

 精霊の声にあわせて、みなもとである緋色の石が、まるで目玉のようにぎょろりと紅黒く光ったりするのはかなり不気味なので、あまり見ないようにしている。

 初めの頃は、苦労した。

 なにしろ、頭の中の声を、精霊は勝手にひろうのだ。

 おかげで、教えるつもりも、教えたつもりもない事情まで、今ではすっかり筒抜けと化している。

 なんとか制御できるようになった今でも、気をぬくとバレる。

 誰もいない場所では、声に出してはなしかけているのは、その方がわかりやすいからであり、テレパシーなどという非現実な事象に染まりたくはないという気概のあらわれでもあるのだ。


(早いトコ帰らねーと……)

『愛しのキミにはよう会いたいってか、若いもんはええのお』

「やかましい、勝手に心を読むなっつっただろーがっっ!」


 勇者の雄叫びが一帯に木霊した。






【第五話 獣人】



「どわっ」


 指輪がいきなり光った。

 閃光はまっすぐに獣人に突き刺さり、深い毛に覆われた身体を、いともたやすくつらぬく。

 その勢いはとどまることを知らず、彼の背後にあった齢百年は経っているかと思われる太さの大木をも貫いて、直径三センチほどの穴を開ける。

 一直線に、ピンポイントに当たったソレは、一点集中であるが故に壊滅的ダメージを与えることもなく、大木は何事もなかったかのように鎮座していた。いっそ場違いなほどに。


 アイアンは呆然と立ちすくむ。

 今のは一体なんだったんだろう。

 夢か幻か。

 だがしかし、夢ではない証拠に獣人の身体はゆっくりと傾いで、どさり、と生々しい音を立てて地に倒れたのである。

 ごくり。

 知らず無意識の領域で息を呑んだ彼の脳裏には、「殺人」とか「暗殺」とか「通り魔犯行」とか「人権侵害」とか「種族差別」とか「テロリストの仕業だ」とか。

 正規の広告からゴシップ満載の三流広告誌に至るまで、様々な紙面を飾る文句が飛び交った。


 おいおいおいおい。

 違う、違うぞ。俺はこんなこと望んでないんだ。

 たしかにこの獣人はちょっとばかし強面だったけれど、もともと獣人というのはそうなのだ。

 相対したことのない人ならば、多少ビビるかもしれない。

 国際化社会だというけれど、まだまだ「種族」の壁は厚いし、差別をするわけではないけれど、別族に対しては遠慮や引け目を感じるのが普通であろう。

 そういった意味で、勇者(と自称したくはないけれど)アイアンは、差別も偏見も少ない男であった。

 アイアンの地元に、獣人はたくさんいた。

 小規模ではあるものの、一応の「商業街」であった彼の地元では、他所の町から出稼ぎに来る者も少なくなく、その人種も多用であった。来るものを拒まず──といった風土の強い市民性のおかげか、往来を歩く「人間外」の方も珍しくはない。

 その中でも「獣人」というのは、「人」と呼ぶだけあって、姿形が獣の色が濃いというだけであり、人語を解しコミュニケーションを図ることにも苦労を問わない、友好的種族だ。


 ただ、「悪人」というものは、どこのどんな種族にでも存在する。

 たまたま大きな犯罪組織を作っていたのが「獣人」だったというだけで、彼らを毛嫌いし敬遠する者もいるのではあるが、アイアンはそんなことは気になんてしていない。

 凶悪犯罪を犯すのは、獣人だけではない。人間の方がよっぽど極悪人なのだから。

 パン屋を営んでいる彼の実家にとって、外からやってきた労働者である彼らは上客だった。

 変に食通ぶって商店街を品定めする人間よりも、よほどいいお客様であったのだ。

 ここで問題なのは、その「獣人」を倒してしまったことである。

 これではまるで、自分がこの人を退治してしまったかのようなシチュエーションではないか。そんな気、これっぽっちもないのに。



「たしかにちょっと強面だったが、別になにかされたってわけでもねえし、一体なんだって攻撃なんてするんだ」


 命令をした記憶もなければ、そういった攻撃ができるとも思っていなかった指輪の精霊に、アイアンは動揺しながら右手のソレに問いかけた。

 倒したのは自分じゃない、この紅色に揺らめく指輪が勝手にやったんだ。

 だが、そんな言い訳、通じるわけがない。

 そもそも、こんな見た目グロテスクなマジックアイテムの存在自体が妖しげなのだから、一般人が信じてくれるわけがないだろう。

 勇者の所持する物だと言えば、納得や賞賛に変わるかもしれないけれど、生憎と彼は、勇者アイアン・アーファングという名乗りを声高に上げるつもりはなかったから。

 故に、この状況下における「犯人」は、自分ということになってしまうのだ。

 だからこそ言わずにはいられない。

 世間が信じてくれない分、せめて当の本人にぐらい文句を言ったっていいだろう。

 なぜ、「お急ぎのところちょっとすみません。道をお尋ねしたいのですが」と、いたって丁寧に声をかけてきたこの獣人を、ここまで追い込む必要があったんだろうか。

 納得のいく理由がもしもあるのならば、聞かせてもらいたいと思っても、我が儘ではないはずだ。


『なにかされたわけやないっちゅーてもな、攻撃する前に、今から攻撃するでーいう輩おるかい』


 先手必勝っちゅーやつや、と重々しく指輪は脳内で声を響かせる。


『なんかあってからでは遅いんや。やられる前にやる。それが生き残るための手段や』

「ここは戦場じゃねえんだよ」

『アホいいな。そない甘いこというてたら勇者は勤まらへんで。それにな、敵はどこにでも潜んどる。どんな場所であろうとも、そこは戦いの場や。日常でも気ぃ抜いたらあかん。勇者に安息はあらへんのや』

「そこをフォローすんのが、おまえの役目じゃねえのかよ!」

『せやから、今したがな~』

「謂れなき殺害なんて頼んでねえんだよ!」

『理由なんて、あとからついてくる』

「おそろしいこと言うなー!」

『人聞きの悪いこといわんといてんか。わては勇者のパートナー。何事にも公平で正義を語る真っ当な仁義あるアイテムやで』


 顔がないくせに、妙に「表情豊か」な声を持つ精霊は、人間ならば「踏ん反り返って胸を張る」時のように、偉そうに演説を──、彼にしか聞こえない独演会を続ける。

 今まで自分がどれほど勇者の役に立ってきたのか。

 戦の数々、人と人との駆け引き。

 さも自分が偉いかのような、勇者の影に隠れてはいるけれど、本当の勇者は自分なんだとでも言わんばかりの自慢話が続く。


「──だから! それはわかったが、獣人だからって、倒していい理由にはなんねーだろーが」

『はっ。獣人なんてもんはなぁ、悪人に決まってんねん』

「おまえ、それ偏見だぞ」

『あんさんみたいな青二才にいわれる筋合いないわ。わてはこれでも何千年と生きてるんやからな』


 そこからさらに、彼の半生を振り返りそうになったのでアイアンは慌てて止める。


「たしかに素行の悪い奴だっている。でもあの種族は、わりと気が優しいって言われてるんだ。それをどうして──」


 そこで精霊は沈黙した。

 普段が喧しいぐらいにうるさいため、こうして何も言わなくなると、頭の中がからっぽになってしまったかのように感じられる。

 どうしたんだ──、アイアンは訝しげに思う。

 ひょっとしてひょっとすると。過去に、あの種族に対する悪評があったんだろうか。

 今は友好的でも、そうでない時期があって、そのことを記憶している精霊にとっては、「悪しき者」だと思えたのかもしれない。

 問いかけ、確かめようとしたときだ。


『たしかに、あいつらは友好種族や言われてる。けどなぁ──』


 重いため息をついて、やるせなく指輪の精霊は言った。 


『──わて、毛むくじゃらは好かんのや』

「まんまおまえの好みじゃねえかっ、それでどこが公平で正義だーー!!」



 勇者アイアン・アーファングの怒声は、空高く響いた。





 未完


この後、家に帰宅したら、好きな女の子(幼馴染)は別の男と交際していることが発覚。(要するにただの片思い)

「アイアン、がんばってね!」と純粋に応援され、笑顔の下で盛大に泣く。

もうこうなったら勇者やったるわーとヤケクソになる。

魔王を倒しに行く。四天王とかたぶんいる。そいつらも超真面目ないい奴ら。

最終的に魔王とは和平を結ぶ。

無血の英雄として「勇者アイアン・アーファング」の名は語り継がれるけど、本人はあんまり嬉しくない。

完!

みたいなことをするつもりでした。

それっぽいお題をセレクトして100題を消化するつもりだったので、長さは未定。


書いたのは2002年前後ぐらいと推測。

ノリとしては、昔の「ガンガン」辺りのコメディ系ファンタジー漫画っぽい雰囲気。


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