魔女と魔法使い
初出:自サイト
「ファンタジースキーさんに100のお題」を使用
あいつにだけは負けたくない。
家柄だとか伝統だとか、さんざんな差別と好奇の目で見られながらも、魔学科で学びつづけてきたのは、ただひたすらに力を磨きたかったから。
プラスして、世間を見返してやろうじゃないかとか、貧乏だからって馬鹿にするんじゃないわよとか、お嬢様がなんぼのもんじゃいとか、そういう気持ちが何もなかったといえば嘘になるけど、そこは本音と建前というやつ。
そういった気持ちを口にしたって奴らに優越感を与えるだけでしかなく、むしろこちらが結局さらに劣等感に苛まれるという負の悪循環を繰り返しエンドレスリピートしちゃうことはもはや明確。
だから、つまり!
ぐっと拳を握り締めて、リンジー・ドレッドは胸中で吠えた。
だからこそ、表面上はいたって普通の女の子を装っていたのだ。
そう思っているのは当の本人だけだったりもするのだが、リンジーはリンジーなりに、心の奥底に秘めたる野望を外に出すこともなく、ただ純粋に「魔法力を極めんがためにやってきた子」として、学校生活を送ってきた。
例え周りのお嬢様たちが実家自慢をしていようとも、微笑みの裏側で呪詛を吐いて、「孤児だけど、それに負けない明るい女の子」のイメージを崩すなんてヘマはしなかったのだ。
そのすべては、魔法使いとしての栄華を極めんがため。
ただの魔女では終わらない。
この世にある全ての理を制するとも言われる、現世における最大の術者になる──そのためだけに、同情も憐憫も偽善もなにもかもを笑顔で受け止めて、喜んでみせていた。
それなのに──
少しばかり顔がいいというだけで、周囲のお嬢様達の王子様と化していた魔法使い、その名も「アスフォルタム・トランス・ルーセント」が演習の相手になったことが、リンジーの敗北のはじまりだったのだ。
圧倒的だった。
目まぐるしいほどの閃光。
光の奔流の中に、彼は立っていた。
大きな杖を掲げ、緑色の双眸はまっすぐに空へ向いている。
風が、吹く。
彼を中心にして巻き起こる風が、光さえも絡め取り、意のままに操っていく。
敵わない。
敵うわけがない。
稀代の術者、『サン・ウィザード』は、彼なのだ。
彼にこそ、相応しい称号。
彼にこそ、与えられるべきもの。
けれど、わかっていながらにして、それでも思う心は忘れられない。
願った日々と、費やした日々。
そのどれもは、その名を手にするためだったのに。
どうしてそれは、自分の手にはないのだろう。
それが哀しくてたまらない。
圧倒的な力を見せつけられてもなお、足掻く心を抑えられない。
どうして、どうして──
「ずるい……、あんなの絶対ずるいわよ」
顔も良ければ、力も持っている。
この世はなんて理不尽に出来ているんだろう。
リンジーは、彼の「陣」に見入りながらも、魅せられることはなかった。
その技量に溺れず、伏することなく、挑む姿勢でそれを見る。
考えろ。
考え方を変えればいい。
彼は私の演習相手だ。いわば、パートナーというやつだ。
今後、いつまでなのかはわからないけれど、上からの命が下るまでは彼とともにあるのだ。
盗めばいい。
持ってうまれた力は盗めないけれど、その術を間近で観察し、吸収すればよいのだ。
「……見てらっしゃい。初見で覚えるの、得意なんだから」
お金に乏しい苦学生は、暗記が激しく得意であった。
見たものを真似ることもまた、彼女の特技でもあった。
取ってやる。
盗ってやろうじゃないか。
その力の全てを、称号を!
「どうかしたのか? リンジー・ドレッド」
「なんでもないわ、アスフォルタム・トランス・ルーセント」
年齢のわりに幼いといわれる顔をにっこりとほころばせて、リンジーは彼に手を差し出す。
「これから、どうぞよろしくね」
「こちらこそ」
リンジーにならって、彼もまた微笑む。
その双方が表面とは似ても似つかない心を押し隠していることを、この時二人はまだ知らない。
魔女の野望と、それを知りながらも知らない振りで手玉に取る底意地の悪い魔法使いは、雲の晴れた青空の下で握手を交わした。
そういや、こんなのも書いたなーと懐かしく思い出しました。
このキャラを元に、なにか書きたいと思っていた、ひな形のお話です。