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第6話

 高山は、大学の生協で夕食を取ってから家に帰ると、久しぶりに「小説GO」を開いた。3日前に、電子レンジ氏からメッセージが来ており、物語のあらすじと仮のタイトルが記載された電子ファイルが届いていた。②の女の子の設定もついてきている。

 まだあらすじもタイトルさえも読んでいなかったが、高山は、自分の企画が始動し始めているのを実感して、興奮してきた。しかしこんなことで喜んでばかりいられないことも確かである。途中でお互いに飽きてしまって、結局完成せずに終わってしまうことも十分考えられる。だから高山は、落ち着くように自分に言い聞かせた。とはいえ、未知のところに踏み込んでいくこの興奮はそう簡単には収まらないのだ。

 物語のタイトルがまず目に入った。「タイツの王国・ニーソの王国」。ひどく安直なタイトルであったが、高山はそのとき気分がよかったので全く気にならなかった。むしろどんな物語かの方がとても気になる。早く読んでみたい気持ちと後にとっておきたい気持ち、早く未知のところに飛び込んでいきたい気持ちとそれに対する不安が、彼の心の中で渦巻く中、いざ、腹をくくって、あらすじに目を通した。

「京都に下宿する大学生の主人公は、タイツを履いた女の子が大好きだった。ある日、貴船神社で『タイツを履いた女の子に囲まれたい』と願ったところ、叡山電鉄に乗って出町柳駅まで帰ろうとしたときに、気づいたら異世界に来てしまっていた。女性と思しき人たちはみなタイツかニーソックスを履いている。主人公は、全く見覚えのない世界に来てしまったと気づき不安になり、川辺でうなだれていたら警備組織に捕まってしまい、取調べを受けた。主人公は、誰が何を言っているのかまるで分からない。そののち、釈放され、公的施設に入れられることになる。母親代わりの管理人さんとそこに住む若者たちとともに生活し、そこでその世界の言葉や文化を学んでいく。そのうち、その世界の生活にはなじめないことに気づいた主人公は、周りの協力を得て、帰還のための電車が発生するためのもろもろの条件を調査し、命からがら最後に帰っていく。」

 なるほど、今流行っている異世界転生ものだった。このあらすじでは物語全体が読めないが、高山は、それでもよかった。下にスクロールしていくと、今度は、登場人物が記載されていた。

「・芝池光

古都大2回生法学部で京都の下鴨神社付近に下宿している。タイツが好き。京都も好き。

・仲野

芝池の数少ない友人の一人。古都大2回生法学部。芝池とはサークルが同じで、よく話していた。京都の東山付近に住んでいる。

・カタ・スダク

公的施設「ルウマ」の管理人さん。女の人。髪は長く、いつも一つしばりにしている。鼻のあたりにほくろがある。タイツ派。

・カタ・ナコ

公的施設「ルウマ」に住んでる女の子。タイツ派。おっぱいが大きい。ショートカットで、目じりにほくろがある。主人公よりも少し年上。おっとりしている。しっかりしているようでしていない。かなりのお人好し。

・カタ・イウマ

公的施設「ルウマ」に住んでる女の子。ニーソ派。ショートカットで元気がよい。主人公よりも年下。

・カタ・ラア

公的施設「ルウマ」に住んでる女の子。ニーソ派。ロング。24~26歳らしい。おっぱいは小さい。右ほおのあたりにほくろあり。他人と一緒に何かをすることが苦手。普段は、ふつうの人と変わらず普通に会話などしているが、その後脳内反省会をする。その他も、先日いただいたものと同じように考えています。

・カタ・オシミオ

公的施設「ルウマ」に住んでる女の子。タイツ派。頭が良い。髪は長く、口元にほくろがある。メガネをかけている。

・カタ・マダヤ

公的施設「ルウマ」に住んでいる女の子。ニーソ派。ショートカット。気が強い。


・ルウマ

公的施設の名前。事情があって仕事・住居の無い人が、そのようなものが見つかるまでの間生活する。」

「主要人物は、この辺りにしたいと考えています。また、一応、異世界ということで、日本語や日本の文化をベースに異世界の言葉や文化を考えてみたいと思っています(名前などもその世界の文化を反映させたつもりです。)。より詳細な事項は、これから追完していきたいと思います。」


 高山は胸が高鳴っていた。電子レンジ氏のタイツ好きが前面に表れている気がする。しかし、世界観が分からないので、何ともいいがたい。登場人物については、高山が①として求めた女の子は「カタ・ラア」らしく、電子レンジ氏が推しているのが「カタ・ナコ」らしい。③は「カタ・イウマ」か「カタ・マダヤ」に近いのではないかと直感したが、そもそもこれだけの情報では分からないことが多すぎた。向こうの考えも考慮するならば、とにもかくにも、もう少し電子レンジ氏に設定を詰めてもらった方がよいかもしれない。残りの人たちについて、こちらでおおよそのイメージを作成しながら待機をしようと考えた。


「すみませんが、世界観や、キャラ設定について、もう少し決まってから3人以外のキャラクターを考えていきたいと思います。それか、こちらでも設定を考えながら登場人物のイラストを考えていくというのはどうですか。引き続きよろしくお願いします。」


 その夜、高山は布団に入っても、「タイツの王国・ニーソの王国」のことが頭から離れなかった。いったいこの物語はこれからどう構成されていくのだろうか。電子レンジ氏とともに制作に携わる者ではあるが、物語の制作は向こうに全面的に委ねているために、一読者としても話の内容が気になる。

布団の中で、高山は、自分ならどういう設定にするか考えてみた。タイツ又はニーソの着用が義務づけられていて、それに違反したら死刑とか……。しかし、そのように無理強いするような形でそういうものを履いているのを見ても、なんとなく読者としては不満が残りそうだ。もっと自由意思の下に履いてほしい。では、どういう条件ならば自由にそれらを履いていることになるのだろうか。この現実世界の女の子たちはどういう理由でタイツやニーソを履いているのだろうか。寒いとかかわいいとかそういうのではない、もっと神秘的な、美しい理由を求めて、高山は思考の海に漕ぎ出したが、ものの数分後に、深海へと沈んでいった。

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