表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/378

98話

レイチェル殿の移動魔法で城に戻ってから、姉上を任せる事の出来る神官に治療を頼みました。ディーが起きてきて城に常駐している神官を紹介して下さいましたので。


傷は綺麗に治ったのですが、出血量が多かった為にベッドに横になった途端に姉上は意識を手放してしまいました。

神官殿が言うには呼吸は安定しているので心配する事は無い…とのことでした。姉上が眠るベッドの横に椅子を持って来て座って待ちます。姉上が目覚めるまで、待ちます。



カナタ殿に教えて頂きました。

先程、小生は持っている魔力全てを吐き出そうとしていたのだそうです。誰しもが感情の昂りに因って稀に起こり得る事なのだとか。

魔力暴走と呼ばれているらしいです。

自制出来ない程に感情が昂ると体中の魔力が放出されてしまい、その人の魔力量にも因るそうですが周囲を破壊してしまうのだとか。小生に魔力はないと思っていた時であれば大した脅威など無いのではと感じたと思いますが、色々と扱えている現状それなりに魔力はあると自覚しています。


小生がその魔力暴走なるものを起こしてしまったら近くに居た姉上はもっと危険だったのだと聞いて血の気が引く思いでした。姉上が止めて下さった事で魔力暴走は起きなかったのですが、起きる寸前だったようで溢れた魔力が姉上を傷付けてしまったとのこと。

…母上と姉上は今一番大切な人たちだというのに、その姉上を小生が傷付けてしまうとは…。情けなくて堪りません。



レイチェル殿からヒスイを小さくして欲しいと言われるまで、ヒスイが元の大きさで居た事に気付きませんでした。城の者が怖がってしまうから、と聞いてヒスイを小さくして肩に乗せます。



『クロガネ、泣く?』


『泣きません。』


『泣きたそうな顔、してる。』



自分がどんな顔をしているかなど興味はありません。今は姉上が起きる事を望むばかりです。

呼吸が安定しているからといって大丈夫だという保証は何処にもありません。あれ程の血液が流れたのです。もしこのまま目覚めなかったら…。



『クロガネ、悪い事考えてる顔。』


『……考えていません。』


『ふぅん?嘘の匂いする。』


『…何ですか、それ。』


『何時もとちょっと違う匂い。…少し苦くて、ちょっと嫌な匂い。』


『分かるんですか、そんな事。』


『ん。俺、分かる。』


『敵いませんね。』



ヒスイの言っている事が本当なのかどうかは判断出来ませんが、少しだけ悪い考えは小さくなりました。

くしゃりとヒスイの頭を撫でてから姉上の手を握ります。ちゃんと温かいと感じますが、姉上の体温は平均より少し高めなので何時もより冷たく感じます。

猫の名残か、小生も体温は高い方なのですが姉上も何時もぽかぽかしているのです。それが、今は冷たく感じます。



「…クロガネ、入るぞ。」


「入ってから言わないでくれませんかね。」


「皮肉を言う元気はあるようだな。」


「何をしに来たんですか。」


「未来の妻の容態を確認しに来たに決まっているだろうが。」


「…ぶん殴りますよ?」


「今のお前に殴られても痛くは無さそうだ。」



ノックも無く入って来たディーが椅子を引き摺って、小生の隣に腰を落ち着けます。

確かに、姉上をディーにやるつもりはないという元気はないかも知れませんね。そんな余裕、ありませんよ。



「話はカナタから聞いた。大変だったようだな。……それと、すまなかった。」


「何故ディーが謝るので?」


「私の国の民だ。…私は幼い頃から愛されて、大切にされて、甘やかされて育ってきた。」


「何ですか、自慢ですか。」


「最後まで聞かんか。…そうやって愛されてきたのには理由がある。私が国を担う王子だからだ。父の跡を継いで民を導き、国を平和で豊かにする責務があるからなんだ。」


「はぁ、そうですか。」


「お前は…。つまり、だ。私が管理すべき事柄だと言っている。父の代なのか祖父の代なのか、そのまたずっと前からなのかは分からんが、街全体がそんな思想に染まっている事に気付かなかった。私たち王族の責任だ。…だから、すまなかった。」


「ディーが謝る事ではないと思います。」


「そうか?…では勝手に責任を感じているとしよう。」



ディーは少し困ったように眉を下げて笑い、姉上を見詰めています。

あの連中の思想など知った事ではありません。ディーが責任を感じる事でもないと思っています。

ただ、死を間近に感じていた姉上やカナタ殿たちに対して失礼な振る舞いを許せなかった…それだけなんです。



「あぁそうだ。ガラックの領主は()げ替える。明日には沙汰するつもりだ。」


「小生には関係のない話ですね。」


「そうだな。では聞かなくて良い、私の独り言だ。…街の警備を見直し、敵の甘言(かんげん)につられないよう守らせる。直ぐには難しいだろうが、他の街や村も見直すつもりだ。困った事や救いが必要な時は国を頼っても良いんだと思わせてみせる。何年かかるか分からんが、やってみせよう。」


「…随分と大きくて長い独り言ですね。小生は協力なんてしませんよ?」


「協力してくれとは言っていないだろう。友人の(よし)みで手伝って欲しいとは思っているがな。」


「勝手な王子様ですね、相変わらず。」


「まだ根に持っているのか。あの時は大人ばかりでつまらなかったんだ。話し相手も欲しかったし、同年代は私に遠慮して遊んでくれなかったから寂しかったんだ。」


「軽い誘拐ですよ?」


「今言うな。子供だったんだ。」


「今でも子供じゃないですか。」


「もう成人している。お前たち人間よりも早く成人を迎えるからな。クロガネの方がまだ子供じゃないか。人間の国でお前は未成年なのだろう?大人の私が庇護してやらんとな。」


「…言うようになったじゃないですか。」


「わっ、バカ!止めんかっ。立派な不敬罪だぞっ!あ、こら、痛い痛い!」



勝手で我儘だったディーが少し大人になったと褒めてやろうと思ったのですが、ディーの癖に小生を揶揄(からか)ってきたので頬を引っ張ってやりました。

平民の小生には不敬罪なるものは分かりませんねぇ。知った事ではありません。



「痛いと言っ()()ろう!わっ、止め…伸ば()なぁ!」


「何処まで伸びますかねぇ?前より成長しているので、以前より伸びるでしょう?」


「わーっ!!」


「………もう、五月蠅(うるさ)い。」


「姉上!?」


「サーシャ!?」


「お見舞いに来てくれたのは嬉しいけど、アンタたちが騒いでいたら休めないじゃない。」


「ち、違うんだ、クロガネがっ。」


「ディーの所為で叱られたじゃないですか。」


「私だけじゃないだろうが!」


「二人共です。…でもまぁ、辛気臭い顔してなかっただけ良しとしてあげようかな。」


「姉上…。」


「あぁもう、そんな顔しないの。おいで?二人共撫でてあげよう。」



姉上が目覚めて安心したのは小生だけでは無かったようです。癪に障りますが、ディーと二人でベッドに寄って姉上に撫でて頂きました。

騒いだお仕置きとしてディー共々頬を引っ張られましたが…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ