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9話

買い出しを済ませて姉上と教会に戻ると、何やら騒がしい様子。一体何があったのかと不思議に思っていたのですが、姉上は率先して声を掛けます。…姉上…、荷物を全部小生に持たせないで欲しいです…。

姉上の方が少し背が高いのに…、荷物持ちは小生というのは何だか理不尽です。姉上は小生よりも強いですし…。



「え、足りない?でも、もう炊き出しするって宣伝してきちゃったよ?」


「それが値上がりしたとかで仕入れが上手く出来なかったんだ。」


「お肉の足りない料理なんて味気ないよね…。」



この町は組合があるくらいにはそこそこ大きな町ではありますが、月に数回行われる教会の炊き出しで飢えを凌ぐ人が居るくらい裕福とは言えない町です。

教会は貴族や国の援助と、善意の寄付で成り立っているのがこの世界では当たり前なのだそうです。女神を祀る教会は世界中で守られているのだとか。種族が違ってもそれは周知の事と聞きました。

…種族については未だ勉強中です。人間と犬、猫のようなものかと思ったのですが他にも生きている種族は沢山居るとのこと。日本人と異国人のような違いでしょうか…?また母上に聞いておきましょう。


教会に勤める人たちは給金のようなものはありません。必要なものは援助や寄付で頂くお金から揃え、個人的なものは冒険者として登録して稼ぐくらいしか収入はありません。母上のように、教会に勤めていない家族から援助をして貰う者も少なくはありません。

冒険者といっても草むしりや迷い猫探しなどの仕事もありますので、小遣い稼ぎになる事も多いらしいのです。小生も、実は登録しています。姉上には内緒なのですが…、母上や姉上の誕生日に何か贈り物をしたいと姉上の先輩に当たる神官殿に相談したら勧めて頂きまして。

主なお仕事は草むしりと掃除、屋根の修理です。高いところは得意なのですよ。



「仕方ない、ちょっと狩りに出てくるよ。どれくらい必要?」


角兎(ホーンラビット)が10は欲しいな。あとは…この辺りじゃ見掛けないから、他の肉は諦めるよ。」


角兎(ホーンラビット)が10…ね。それくらいなら…、…ヒロトも行く?」


「んんっ?町の外には出てはいけないと姉上に止められていて…。」


「私が一緒に行くんだから止めないわよ。少しは実地訓練も必要だなって思ってたの、今日みたいな事があると心配だし。…近くの森くらいなら私が守ってあげられるしね。」



可笑しい…、どうして普段は過保護な姉上なのに、時々こうも厳しくなるのでしょう…。町の外は化け物が多く居て危険だから出るなと言ったのは姉上だというのに…。

【ほーんらびっと】とは一体どういう生き物なのでしょうか。話の流れから食用として使える生き物だということは理解出来ますが。



「アンナのところに寄って、ついでに受けられる仕事がないか確認しようかな。ヒロトも出来る仕事あったら受ければ良いしね。」


「小生は冒険者ではないので仕事は…。」


「あら、私に隠し事が出来ると思って?」



…冒険者に登録していた事は随分前から知られていた様子…。あの受付嬢が姉上に黙っている訳がありませんよね…。

欲しい物も出てくるだろうし外に出る依頼を受けないならと黙認してくれていたそうです。なんだか恥ずかしいですね…。


買ってきた荷物の整理は他の方にお任せして、槍を手にした姉上と共に組合へと向かいます。

受付嬢が何やら興奮していらっしゃるのでなかなか話が進みませんでしたが、姉上が宥めながら進めてくれました。

…小生は人間の女性と(つがい)になりたいとは思いませんし、騒がしい受付嬢とは御免蒙(ごめんこうむ)ります。

外に出るのは初めてですが、姉上の荷物持ちは何時もの事なので大差ないと思っていました。

…そんな数十分前の自分を叱ってやりたいです。



「に゛ゃあああああああ!」


「もうヒロト!逃げないでっ!」



無理、無理です!何ですかアレは!!

角兎(ホーンラビット)は兎が強くなった程度だと、姉上は言いましたよね?…ねっ?

小生が見た事のある兎は額に大きな角なんてありませんし、あんなに大きくありませんでした。何よりあの凶悪な牙は何なんですかっ。

分かっています、生き物は本能で弱い方へ向かって来るのは分かっています。分かっていますが小生では太刀打ち出来ませんっ。

姉上には勝てないと悟った角兎(ホーンラビット)は小生に向かって来るのです。速度は勝てるので逃げるのですが、姉上に叱られます。…理不尽ですっ。



「ヒロトは《女神の加護》があるんだから、逃げなくても大丈夫よ。10匹は仕留めて帰りたいから、囮役頑張ってね。」


「酷い…、酷いです、姉上…。外には出るなと常々仰っているのに…っ。」


「一人で出ちゃダメって言ってるだけよ?あと、弱い冒険者たちと一緒にっていうのもダメ。私より強い人となら出掛けても良いって言ってるでしょ?」


「…町に姉上より強い人なんて居ません…。」



逃げ惑った先の木に跳び上がって身を小さくしていたところ、軽々と獲物を仕留めた姉上に声を掛けられました。姉上一人で追い掛けた場合、その力量の差で角兎(ホーンラビット)は巣穴まで逃げてしまう為、確保が難しいそうですが…だからといって小生を囮にするのは酷過ぎます…っ。

姉上は生け捕りにした角兎(ホーンラビット)の角を叩き折り、お経のようなものを唱え始めました。例の魔法というやつです。姉上の手元が光ったのと同時に角兎(ホーンラビット)が消えました。姉上は収納魔法だと仰っていましたが、何がどうなっているのか小生にはさっぱり理解出来ません。

収納魔法くらい覚えておくと便利だと教えて貰った事もありますが、小生には使えませんでした。


魔法とはイメージが大切だと聞いたのですが、そのイメージが出来ないのですからどうしようもありません。別の空間に荷物を入れるイメージ…押入れしか思い付きませんでした。

小生に魔法なるものは使えない、という事で納得して頂きたいのですが…勇者なのだからと毎度言われます。

勇者になどなれないと思うのですが…、…母上や姉上を落胆させてしまう事は避けたいところです。

神官長殿が仰るには相変わらず魔力なるものが無いのだそうです。まぁ使えなくても小生に困る事はないのですがね。

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