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7話


「…ヒロトは、外に出ないといけない日が来るんだよね…?」


「出来れば家で好きな時に寝ていたいです。」


「もう…、何時もそればっかり。」



不安そうに手を握り直す姉上に、本当の事を話したのですが…何だか小生が気を遣ったような空気になりました。…何故?


勇者の素質がある転生者は得てして冒険に出て魔王なる者を倒すのだとか。

縄張り争いでもしているのでしょうかね。生まれながらに生き方を決められるだなんて、生き難い世界のようです。

転生者にも二通り居るそうで、生前の記憶を持っていない転生者と小生のように生前の記憶がある転生者なのだそうです。共通しているのは誕生方法と、最低一つは加護を持って生まれてくる事。…この世界の人は、誰もが祭壇に現れるのかと思っていました…。普通に母から生まれると聞いて少し安心した覚えがあります。

そして、転生者はこの世界の中でも能力が高いのだそうです。記憶を有している程に、とのことでした。

つまり小生も能力が高い…、…とはいえ今は人間なので縄張り争いもありませんし、雌を奪い合う事もない、狩りをせずとも食事が出来る。必要ないのでは?

勇者になんてなるつもりは毛頭ありませんし。しかし町ぐるみで勇者と呼んでくるということは期待をしている、という事。期待されても困るのですが…。



「ねぇヒロト、勇者になんてならなくても良いんだよ?」



心の中を読まれたのかと思いました。



「姉上が許して下さるので?」


「…今までの勇者様って、魔王を倒したとか封印したとか色々お話が残ってるけど…、生きている人は居ないんだもの。どこかでひっそりと暮らしてます、なんて話なら良いんだけど…。」


「小生に死んで欲しくない、そう聞こえます。」


「いちいち言わなくても良いの。そういう事だけどっ。…大切な弟だもの…、ヒロトが正義感に燃える熱血漢なら止めないけど…アンタ、そんなだし。それに勇者って言われてる割に弱いし…。」



そんな、とは失礼な。自分らしく生きているだけです。…弱い事は反論の余地がありませんが…。

魔法なるものは使えませんし、剣という武器を扱う訓練は幼い少女にも勝てません。そもそも物を握って振り回すんですよ?初めての経験です。

人間の手は便利だと感じますが、物を掴んで持ち上げる…これだけで小生には凄い事なんです。

10年、10年かけてどうにか人間としての振る舞いを覚えてきたんです。時々失敗もしますが人間として生きていこうと頑張っている小生に、これ以上期待しないで頂きたい。



「私が守るから…、ヒロトはそのままで居て欲しい。早く大人になんてならないで?」


「…姉上のお心のままに。小生はずっとこのままです。今までも、これからも。姉上の弟ですよ。」


「ヒロトの癖に生意気…っ。」



なんで怒られたのでしょうか…。

繋いでいた手は振り解かれてしまい、姉上はどんどん先に進んでしまいます。…何か怒らせる事を言ったのでしょうか?


姉上を追い掛けて買い出しに向かった先で揉め事に遭遇してしまいました。

この町に…というより、規模がある程度大きな町には冒険者たちが通う施設があるらしいのです。そこでは仕事を請け負ったり、仕事の報告をしたり、共に出掛ける仲間を探したりと色々な事に需要があるそうです。住民からの頼み事も仕事の内だそうで、この組合は住民たちにとっても必要な施設とのこと。

そこの受付のお嬢さんが大柄な男性と口論しているようです。


毛布を買いに行くのなら組合の前を通らないので横目で見る程度だったのですが…、姉上はそちらへと向かって進んでいきます。…姉上?



「アンナ、どうしたの?」


「サーシャ!」



姉上が受付嬢に声を掛けると、彼女は助かったと言わんばかりの表情で姉上に飛び付きました。

小生は彼女がちょっとばかり苦手です…。



「この人たちが文句付けてきて…。」


「当たり前だろうが!俺たちは銅等級の冒険者だぞ!?なんでこんな安く買い叩かれなきゃならないんだ!」



冒険者には順位付けがされているそうで、下から木・鉄・銅・銀・金・白金と分けられるらしいです。

甲乙丙丁…と付けるあれと同じ感じですかね。

外の化け物を倒した証拠の部位を売りに来たら思いの外安値を付けられて激昂している、という事らしいです。



「だ、だから、この地域じゃ珍しくないのっ。それに需要もないし、それでも高値なんだから…っ。」


「ふざけるなっ。これのどこが高値だっていうんだ!」


「…不満なら他所に行ったら?何もギルドは此処だけじゃないんだから。冒険者なら他の街で売れば良いだけでしょ。」



姉上…、もう少し穏便にいきませんか…。小生は大きな音が苦手です…。

あぁほら、獲物を出して壁を壊しているじゃないですか…危ない人ですねぇ。壁の修理代、安くはありませんよ?


傍に控えて居る冒険者もまるで煽るかのように声を上げている為か、大柄な男性は更に気が大きくなってきた様子。

姉上は剣の扱いもさることながら、槍の扱いもかなりの腕前。…ですが今は丸腰です。受付嬢を庇って前に出ないで下さい…。


か弱そうな女性をちょっと脅かしてやるだけ、そう思ったのでしょう。壁を壊したその斧は、壁から引き抜く際に何時も以上に力を込めたのだと思います。姉上に振り下ろされる刃の軌道が思ったものと違う、と焦る表情に変わったのを確認しました。

姉上ならば容易に避けられるでしょうが受付嬢に引っ付かれている状態では容易ではないかも知れません。

周囲の人たちも声を上げるだけで、止めに入る事もなければ姉上を庇う余裕もないようです。

幾ら女性とはいえ二人…、重たいんですよね…。口には出しませんよ?以前素直に口に出したら叱られましたので。小生は学習するんです。


大柄な男性が振り下ろす斧は、小生の目にはとてもゆっくりと映ります。猫の動体視力を甘く見ないで頂きたい。

刃が振り下ろされるまで数秒。小生と姉上の距離を考えれば容易い事です。

地を蹴り駆け出して距離を詰める、失礼ながら姉上の膝裏を掬い上げるように倒してその身体を横抱きに持ち上げるのと同時に受付嬢の襟を掴みます。そのまま後方へと飛んで着地と同時に屋根の上に。

…あぁ、やはり二人は重たい…。

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