40話
河原から数時間、まだ街は見えてきませんが賑やかな音が聞こえます。件の祭りの音かと思って姉上たちに聞いてみたのですが、皆さんは聞こえないそうです。まぁ、小生は耳が良いですからね。
段々と大きくなる音に街への距離が縮んでいる事を実感します。
小生が音に気付いてから小一時間程経った頃合いでしょうか、漸く皆さんの耳にも祭りの音が聞こえてきたようです。人間の耳はあまり良くないのですね。
街の出入り口を守っているのは二人。同じような恰好をしている彼等にフレッド殿が声を掛けました。祭りをやっているから出入りは厳しくないが面倒は起こさないようにと釘を刺されました。
街の中に入るとより一層騒がしいです。…耳が痛い…。
馬や馬車を預かってくれるところを探すのが先決、という話になったのですが商人は此処までで良いと宣う。姉上の厚意とはいえ此処まで守ってやったというのになんて態度でしょうか。
「この賊は騎士様に引き渡しておきますので。」
「それなら門番をしている彼等にお話しておいたらどうですか?彼等も騎士ですよ。」
「あぁ、門番というお仕事中ですし、屯所に直接出向きますよ。騎士様の御手を煩わせるのは気が引けますしね。」
「では屯所までお付き合いしますよ。」
「そんな申し訳ないです。此処まで護衛して下さった上に屯所までお付き合い頂くなんてっ。此処に来るまで何ともなかったですし、私一人でも大丈夫ですよ。」
商人は早く一人になりたいといったような雰囲気でフレッド殿と話をしています。
フレッド殿は相変わらずの人当たりの良さで対応していますが、何だか雰囲気に威圧感が混じっているような気がします。
フレッド殿と商人が話している間に、姉上が門番の騎士殿を呼びに行っていたようです。入り口から程近いからでしょうか、二人共来て下さいました。…門番というお仕事は放棄ですか。
「此処に来る途中で賊に襲われたとか。災難でしたね。」
「あ、あ…いや、被害はなかったので大したことでは…っ。」
「我々が引き受けますよ。賊は馬車の中ですか?」
「開けないで下さい!!」
門番をしていた騎士殿二人が商人に声を掛けながら歩み寄ってきました。商人の顔色が悪くなっていくように思えました。
姉上が賊は捕らえてあると報告したのでしょう、騎士殿たちは迷いなく馬車に向かって積み荷の中に混ざっている賊を引き摺り出そうと積み荷に手を伸ばしました。しかし商人の大きな声に驚いた騎士殿の手が馬車に触れる前に止まってしまいました。
「何か、見られたくない物でも…?」
「いえ、その…、高価な品ばかりなので人目に触れるのは商品として売り出す時だけにしたいと思っていまして…。」
「気持ちは分かるが、そういう場合では無いだろう。改めるぞ。」
騎士殿の一人が商人と話し、もう一人が馬車の中の賊を確認しようとしていました。ですが、中を確認すると聞いた商人は慌てて馬車に触れようとした騎士殿の行く手を遮りました。
その行動が益々怪しいと判断された為に商人は軽く拘束されてしまいます。小生たちは何もせず見ているだけでした。商人から縋るような眼差しを受けても動きません。
騎士殿が今度こそ中を確認したのですが、中に居たのは賊だけだったようです。賊の確認をした騎士殿が屯所に走って応援を呼びに行きました。
商人を捕獲している騎士殿は商人に詰問していますが商人は先程の言葉を繰り返すだけでした。高価で珍しい品なので見られたくないの一点張り。
程無くして騎士数名がこの場に集まりました。賊よりも積み荷が怪しいと思ったのでしょう、賊を連行するのは後回しにして商人に詰め寄ります。それでもやはり、商人は同じ事しかいいません。
「ヒロト、中…開けて。分かるよね?」
「姉上が仰るなら。…失礼しますよ。」
「あ、おい…っ。」
姉上が騎士殿になんと説明して下さったのかは分かりませんが、商人と一緒に来た小生たちを疑うような素振りを騎士殿は見せません。
フレッド殿に馬から下ろして貰った小生が馬車に近付いても強く止めるような事はしませんし、警戒もされていないようです。
荷台に乗ると賊が何かを訴えたそうにくぐもった声を上げてきましたが、当然今は無視します。賊と同じような匂いのする大きな箱。少し力が必要でしたが開く事が出来ました。
中には半人の子供が数人。
手足を縛られ、猿轡で黙らされていました。衰弱…という程ではありませんが、弱っているようには見えます。子供の縄を解いて、猿轡を外して、少し大変でしたが箱の外に出します。賊の声が更に大きくなりました。
「子供…っ!?」
「半人の子供ですね。それと賊は同じ匂いをしていますので、家族だと思いますよ。」
騎士殿の驚き方から察するに、違法な品物でも積んでいるという感覚だったのでしょう。子供の姿に大変驚いていらっしゃいます。
荷台に上がって小生も漸く気が付きました。…血の匂いが籠っています。これが初めから不愉快に感じた理由でしょう。子供は怪我をしていないようですので、恐らくこの馬車に染み付いた匂いではないでしょうか。
応援に駆け付けた騎士殿たちに因って子供は無事保護されました。小生の言葉を切っ掛けに賊は子供の血縁だと感じてくれた騎士殿たちは、賊として彼等を捕らえる事はせずに縄を解くのを手伝ってくれました。
拘束が解けた男性たちは子供たちに駆け寄って強く抱き締めていました。この馬車を襲ったのは子供たちを助ける為だったと騎士殿たちも納得してくれたようで、彼等へのお咎めは無く今後は騎士団を頼るようにと軽い注意を受けただけでした。
騎士殿の詰問に因って分かった事は、商人は奴隷商人であり特殊な性癖を持つ貴族連中に高く売れるからと半獣や半人の子供を攫っては売っていたという事。
低賃金や無償で働かせる上司や貴族はまだ少なくないが、小生が生まれる数年前に奴隷という制度はセレンクーリア国では撤廃になったのだとか。
その為、奴隷や愛玩用として子供を売っていたあの男の処罰は軽いもので済んだりしないと騎士殿に聞きました。
「姉上は分かっていたので?」
「勿論。荷台の中に微弱だけど複数の魔力を感じたからね。人が乗ってると思ったの。でも昼食を与える様子が無かったから怪しいなーって。ヒロトも気付いたんでしょ?」
「小生は匂いでした。血に混じって得体の知れない匂いがしていたんです。血の匂いと分かったのも少し前ですが。…賊と言われた彼等と同じ匂いがしたので。」
「これで一安心、かな?」




