27話 Side L
「クロガネが消えちゃった!?」
「おいリゼン、此処…ただの迷宮だったんじゃなかったか?」
「…そう、記憶しているが…。あれは、結界を破ったな…。」
「結界!?」
以前、皆で来た時は普通の迷宮だった。
ちょっと魔物が多いかなって思ったけど、他の国にもある迷宮と大きな違いなんてなかったと思ったんだけど…。
お兄ちゃんがクロガネを虐めた所為だ、絶対。
リゼンの言う通りの結界があってクロガネが通り抜けちゃったって事は、此処に魔族が居るって事でクロガネは結界を破れる魔力を持ってるって事。
リゼン以外の魔族に何度か会った事があるけど、誰も彼もが凄く怖かった。リゼンが強いおかげで私もお兄ちゃんも無事だったと思うけど。…お兄ちゃんは一人でも大丈夫かも知れないけどさ。
魔族って、野生の動物って感じなんだよね。強い者には従うって感じとか、特に。
お兄ちゃんは頭を抱えているけど、多分虐め過ぎたって反省してる。リゼンは結界の綻びを探しているみたい。私にも何か出来る事があれば良いと思ってクロガネの魔力を探ってみたけど、結界を作った魔族の方が強いみたいで結界の中を探る事は出来なかった。
リゼンが私の肩を抱き寄せてくれる。結界を破ってしまうと作った魔族に気付かれるから、気付かれないように通り抜けるつもりなんだと分かってるけどちょっと嬉しい。
「おい、締まりのない顔してんなよチビ。」
「し、してないよ!?」
もう、何でそういうとこばっか見てるのよ、お兄ちゃんめっ。
そしてお兄ちゃんはどうして平気で結界を通れるんだろう。お兄ちゃんって実は魔族とか言わないよね…。どうしよう…、魔族って言われても納得しちゃいそうだ。
昔から喧嘩も強かったし、魔法を覚えてからは誰も敵わないくらい強かった。人間離れしてる強さだけど…人間じゃないって言われても納得だ。
「おいこらチビ、お前今…失礼な事考えてなかったか?」
「ふえっ!?き、気の所為じゃないかな!?…あ、リゼンちょっと止まって。」
「どうした。」
「リゼンだと強過ぎちゃって直ぐ気付かれちゃうかも知れないから、ちょっと魔力隠すね。」
お兄ちゃんは勘も良い。我が兄ながら恐ろしい。
慌ててお兄ちゃんから視線を反らしてリゼンの足を止める。魔法を使うのは魔族に気付かれる危険があるけど、リゼンの大きな魔力が移動していても気付かれてしまう。そう思って私が得意な隠蔽魔法をリゼンに掛ける。
水の膜で身体を覆って魔力を押さえてしまう事で魔力が探知されるのを防ぐ。リゼンの大きな魔力は全部を隠す事なんて出来ないから、多分…ちょっと強い人間くらいの魔力になったんじゃないかな。
「助かる。面倒は避けたいからな。」
「…わ。」
「お熱いのは家でだけにしてくれ。クロガネ探すぞ。」
お礼のつもりなのか、頭に軽くキスをされた。うぅ、カッコイイけどなんだか私ばっかり好きみたいで悔しい。そしてお兄ちゃんの前では止めて欲しい…。
迷宮には魔物が住み着き易い。魔力が溜まっているし、冒険者が入ったりして魔物の餌が自分の足で出向いてくれるから。
でも魔物の姿は見掛けない。リゼンとお兄ちゃんの魔力が大きいから、魔物の方が避けているんだと思う。
だけど、一人の少女が立ちはだかった。…魔族だ。
少女の姿だけど山羊の角に大きな魔力。魔力を発する時に光る赤い瞳は魔族特有のものだって聞いた。
〖ホント使えない。色狂いはまだしも結界くらいちゃんとしてよね。〗
〖…友達が迷い込んでしまったの。見付けたら直ぐに帰ります。〗
〖…アンタ、言葉分かるの。ふぅん、でもダメ。迷い込んだ生き物は全て私たちの糧になるんだから。そう貴女たちも……ヒッ!〗
私よりも小柄な少女だけどきっと私なんかよりずっと長く生きているんだと思って丁寧に話し掛けてみた。でも話を聞いて貰えそうになくて彼女の魔法が紡がれていく。
防御魔法を展開しようと思ったけど、呪文の一言目すら口にする前に彼女は制されてしまった。
リゼンの刀とお兄ちゃんの杖が彼女の首に添えられたから。
速いなぁ。でもリゼンは分かるけど何でお兄ちゃんもそんなに速いんだろう。私もお兄ちゃんくらい強くなれるかな…。
〖お前の住処を脅かすつもりはない。…が、友人は返して貰おうか。〗
〖場所、分かるだろ?教えて貰うぜ?お嬢ちゃん。〗
〖う…、お嬢ちゃんじゃないもんっ。人間の癖に…っ。〗
〖……俺はお前と同じ魔族だ。隠蔽魔法も見抜けぬ小物が…。〗
〖嘘、でしょ…。何でこんなとこに来るのよ…。〗
リゼンとお兄ちゃんに制された事は屈辱的だったみたいだけど、リゼンが魔族だと分かると肩を落として観念したようだった。
やっぱり魔族って野生動物みたい。強者には基本的に歯向かわないって、リゼンと一緒に居ると危険が少ないって事だよね。最近まで気付かなかったけど。
魔族の女の子に方角を聞いてリゼンが探知してみるとクロガネともう一人の魔力を感じたみたい。
女の子は一緒に住んでいる友人だから命だけは助けて欲しいと崩れ落ちてしまった。
〖クロガネが無事だったら考慮しよう。〗
リゼンは先に行くと言って魔法の詠唱を始めた。足元に光る紫色の光…確か、転移魔法だったと思う。
任意の場所に移動出来る魔法らしいけど、お兄ちゃんの使う移動魔法と違って目的は場所ではなく魔力。
お兄ちゃんの移動魔法は精霊の力を借りて空間を繋ぎ合わせるらしく、目的の場所を知っていないと移動出来ない。でもリゼンの転移魔法は探知した魔力に向かって空間を移動する。一度だけ一緒に移動してくれたけど、凄く気持ち悪くなった。
リゼンが先に行くと言ってくれたのは私やお兄ちゃんが調子を崩さないようにする優しさだって知ってる。
リゼンが移動してしまったから魔族の女の子の矛先が向くかも知れないと思ったけど、座り込んだまま動かないからお兄ちゃんと先を急ぐことにした。リゼンとの力の差がそれ程大きかったって事かな。
クロガネの魔力の位置をお兄ちゃんは理解したって言ってどんどん進んでしまう。行き止まりの壁を破壊して真っ直ぐ向かうのはどうなんだろうって思うけど…。
「にゃっ、にゃ…っ、にゃっ、にゃっ!」
「おい、待て。…おいクロガネ、せめてヒトの言葉を話せ。」
お兄ちゃんが破壊した壁を抜けるとクロガネがリゼンに引っ付いてた。にゃんにゃん言っていて可愛いと思っちゃったけど、怖かったのかなって感じた。猫って知らない場所を怖がるって聞いた事がある。
…リゼンが慌てる珍しいところも見れちゃった。




