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24話

シオドア殿に連行されて迷宮なるものに足を踏み入れました。人口的な洞窟…といったところでしょうか。

城の石垣を彷彿とさせる造りで内部は予想よりも広そうです。シオドア殿に引き摺られるように奥に進んでいきますが何やら嫌な気配を感じます。



「気付いたか?クロガネ。」


「その顔…、悪代官のようです…。」


「何だそのアクダイカンってのは。ほら、出て来たぜ?仕留めて来いよ。」


「む、無理ですよ!小生は戦えないって言ってるじゃないですかっ。」



石造りの廊下の奥に見えるのは魔物。犬のような姿ですが犬とは違うような…。

出口に向かって逃げようとしましたがシオドア殿に捕まってしまいました。魔物の前に放り出されてしまった際に響いた音で魔物が此方に気付いたようです。

此処には逃げる場所がありません。リアム殿に視線を向けてみてもハラハラと眉を下げて見守っているだけで助けようとはして下さらない。リゼンとシオドア殿は言わずもがな…。


此方に駆け出して来た魔物を倒す事など小生には出来ません。ですが、逃げ足ならば少しばかり自信があります。下がれないというのでしたら進んで逃げて見せましょう。

犬に類似した魔物が此方に襲い掛かってくるのをしっかりと見詰めます。タイミングを逃せば小生など一撃でしょう。…まぁ《女神の加護》とやらを信じるなら怪我はないと思いますが、不確かなものを信じるのはどうにも出来ない性分でして。


犬の魔物が地を蹴り頭上から鋭い牙と爪を向けて来たタイミングを見計らって小生も駆け出します。魔物の下を潜るようにして背後を取ります、…が戦う事など出来ないのでそのまま奥へと向かいます。



「クロガネ!?」


「あのバカ猫っ!」



背中でリアム殿とシオドア殿の声が聞こえましたが足を止めたら襲われそうで廊下を駆け抜けました。

真っ直ぐ進んで行き止まりになったから足を止めましたが、皆さんの姿はもう見えません。

皆さんを置いて逃げ出してしまった事であの魔物の矛先は彼等に向いてしまうかも知れない、それは申し訳なく思いますが小生よりもお強いあの二人が居ればリアム殿に危険はないでしょう。

少し時間を置いて戻ればきっと倒して下さっている事と思います。


昼寝でもしていましょうか。一眠りしたら戻ってみましょう。幸い一本道でしたし、お迎えに来て下さるかも知れませんしね。



『人間…、餌…。魔力たクさん…。……ゴ馳走。』



通路の行き止まり、端に身を寄せて丸くなってから数分程。ザワザワと耳障りな声が聞こえました。小生は耳が良いのです。他の猫が拾えない音も聞き取れる程に良かったのです。

だからこそ、五月蠅(うるさ)い。


小生の昼寝の邪魔をするとは何て失礼な……魔物ッ!?


小生が目を開けて顔を上げると通路を塞ぐように数匹の影が見えました。人骨のように見える骨が動いています。気色悪い…。

ガチャガチャと骨が当たる奇妙な音をさせてその生き物…と言っても良いのかは不明ですが、その魔物たちは近付いてきました。通路は一本道だった筈。

リゼンたちよりも先に出会う筈はないのに…。犬の魔物を避けた後に魔物は居なかったじゃないですか。一体どういうカラクリに…、否、今はそんな場合ではありませんね。



『魔力タくさン…、ゴ馳走、…ゴ馳走。』


『小生はご馳走じゃないですよ、失礼な!』


『ゴ馳走…違う?…違ワなイ、ゴ馳走!』



言っている事はたどたどしいながらも理解出来ましたし、小生の言葉も通じたようでした。しかし骨の魔物は此方に向かってきます。

リゼンの言葉を思い出しました。言葉が通じても理解し合えない場合…今まさにその状況です。動きは遅いですが走り抜けるには隙間がありません。そんな時は上を通るしかないですよね。


小生は地を蹴り壁を足場にして骨の魔物の頭上を飛び越えます。真っ直ぐにのそのそと進む骨如きに後れを取るような小生ではありません。

小生が消えたと話しているのが聞こえました。知能が低いのでしょう、行き止まりになった場所できょろきょろと小生を探しています。

…小生でも勝てそうな魔物のように感じます。が、頭が悪いからと侮って痛い目を見たくはありませんのでそっとこの場を離れるとしましょう。


肉球もなく靴なるものを履いているのですが、足の運びに気を付ければ音を立てずに歩けるのです。このまま皆さんのところに戻って帰りたいともう一度嘆願してみましょう。リアム殿に訴え掛ければ聞き入れて下さるかも知れません。


幾らか歩いて気が付いた事があります。先程と道が変わっている…。

皆さんと入ってきた時は壁に明かりがありました。ですが今は明かりがありません。小生には見えているので暗さは問題ではないのですが、一本道が変わっているというのは問題です。

どんなカラクリになっているのかは分かりませんがこのまま進んで皆さんと会えるのかが不安です。声を上げて先程の魔物が気付いてしまうのもいけません。姉上たちよりは嗅覚が優れている自信はありますが、犬には劣りますし匂いで皆さんを探すのは困難です。先程から変な匂いしかしませんし。



幾らか進んで漸く気が付きました。小生としたことが…、日本とは磁場が違うのを失念していました。

此方での生活で慣れた為にクロッドの町の方向は何となく分かりますが、出口がどちらなのかさっぱりです。

足音を消して進んでいるから魔物との遭遇は避けられていますが、至る所に居るのはどうしてでしょうか…。魔物を避けて進むとどうしても向かいたい方とは別の道を辿るしかなくなってしまいます。

一本道だったのに、何故こうも入り組んでいるのでしょう。



〖やだ、侵入者だっていうから遊びに来たのに子供?〗


〖違うわ、猫ちゃんよ。〗



魔物と遭遇しないように細心の注意を払っていたのですが、接近に気付きませんでした。

牛のような頭をした魔物を避けたばかりで出会ってしまうなんて。薄っすらと敵意を感じるので逃げたいのですが、逃げれば牛の魔物との遭遇は避けられません。

この言葉…、何を言っているのかは分かりませんがリゼンが使っている言葉に似ているような気がします。山羊のような角を生やした女性と少女…彼女たちは魔族なのでしょうか…。



〖どうして迷い込んじゃったのかしら…。ちゃんと幻惑の結界を掛けていたのに…。〗


〖アンタが未熟なんじゃない?私がやっておけば良かったのよ。〗


〖ふふっ、お口が悪いんじゃなくて?〗



じゃれ合っているようにも見えるお二人ですが、全く隙がありません。小生への警戒を解いていないという事でしょう。さて、どうしたものか…。

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