19話
リアム殿を飼殺そうとした人間のように宝石に目を眩ませるのではと思われていたらしいのですが、欲しいとも金になるとも思わなかった小生を吏漸が認めて下さったらしいと後でシオドア殿に聞きました。
リアム殿は吏漸に連行されてしまったのでその日の昼食はシオドア殿と二人でした。
昼食後も魔法の講義があるなんて聞いていませんでした!小生にお昼寝の時間を下さい!
魔族は小生が生きて来たところの野良猫のようでした。名前もなくある程度育てば親元を離れる。
子を成してまたその子は親元を離れて行く。そして縄張りを争って殺し合い、強い者に無謀な戦いは挑まない。雌や食事を奪い合う事もあるし、気に入った雌に子が居れば母ではなく繁殖出来る雌になるよう子供を殺す。
名前が無い事は不便ではない、とはそういう事だったのですね。小生が吏漸と間違えて呼んでしまった、それが名付けになってしまった為に彼はリゼンという固有名詞を手に入れた…という事だそうです。
小生の力を幾つか受け継いだりするそうですが小生に誇れる力などないと話したら軽く殴られました。横暴です。
「だーから、言ったろうが!転生者ってだけで能力は高いんだっての。……まぁお前の能力は普通だったけどよ。」
「ほら御覧なさい。」
「そこで自信持つなよ。…けどな、昨夜確認したらアイツの属性が増えてたんだ。闇属性だけだったのによ、相反する光属性と無属性まで発現したやがった。能力は前から白金等級だったから変わったのか分からねぇがな。」
「相反する属性は極めて珍しいとお聞きしましたが、無属性とは?」
「お、勉強熱心だな。偉い偉い。」
そんなつもりはなかったのですが…。
無属性も珍しい属性らしく転生者が持っている事が多いのだそうです。属性が無いと書いて無属性なのだから、魔法の素質がないのかと思ったのですがその逆とのこと。
魔法とは想像力で今までになかった魔法をも作れるものらしいのですが、属性の枠は超えられないとか。火属性しかない人が水属性の特性を持った魔法を操る事は出来ない、そういう事らしいです。
すみません、そろそろ諦めてしまいたくなってきました…。
限界を訴えてもシオドア殿は止めてくれません。
無属性は属性が無い為に全ての属性の魔法を創造する事が出来るのだとか。ただ、属性での有利不利が働かないそうです。
火属性の魔物に相反する水属性の攻撃は他の属性よりも威力が上がるのですが、無属性が水属性の魔法を創造して放っても威力が上がる事は無く術者の能力次第なのだとか。…使えるんだか使えないんだか分からない属性ですね。
「アホか。使えるに決まってんだろうが。想像力がありゃなんだって出来ちまうやべぇ属性って事だぞ。」
「……そのやべぇ属性を吏漸が持っている、と。」
「…今度本気でやり合ったら勝てる気がしねぇわ。」
「やり合わないで下さい。」
「今のところ予定はねぇよ。…攻撃は別として、防御魔法も使い放題。属性に因って習得が限られる魔法だって使い放題。…今度から扱き使ってやるか。」
「程々に。…ところで吏漸とリアム殿は食事は摂らないので?」
「察してやれや。…あー、まだ10歳だもんな、無理か。戻ったら聞いてやれ。」
シオドア殿が意地の悪い笑みを浮かべているというのは分かりますが、それが何を意味しているのかまでは理解出来ませんでした。
実地訓練だと家の外に出たまでは良かったのですが、結局何の成果も上げられませんでした。
吏漸に発現した属性から小生は光属性か無属性、または両方を備えていると仮定して訓練して貰ったのですが何も出てきませんでした。
身体の中に魔力なるものが流れているのを感じられるようにはなりました。それを外に出すという想像が上手く出来ないのです。木を狙ってみても、岩を狙ってみても全く反応しません。
「そもそも自分の属性が分からないってんじゃ…な。仕方ない、少し早いが切り上げて夕食の支度を……、お、ありゃ花鳥だな、珍しい。」
「鳥、ですか?鮮やかな色合いですが…。」
「ゴートランドでも少ない鳥だ。あの肉は至宝と呼ばれる程美味いとかって図鑑で見た事はあるが、実物は初めて見……」
「………にゃっ!!」
上空高くを飛ぶ色鮮やかな鳥。それが美味いと聞いたら狩るしかないじゃないですか。
小生の跳躍力では届きませんし、木を使っても届きそうにありませんでした。ですが姉上の使っていた槍ならば届くのではと思い付いたのです。姉上と別れてしまう前に見せて貰った魔法を思い出しながら鳥肉の…おっと、花鳥の首を狙って投げる動作で身体の中の魔力を放り投げてみました。
見事命中してどさりと落ちて来たので、逃げられてしまわないようにその翼を捥いでおきましょう。
「リアム殿にお願いしたら美味しく調理して下さいますかね?小生は生でも頂きますけど。」
「お前今何やりやがったぁぁ!」
「…へ?…こうして…、こうっ。」
「動きをやれって言ったんじゃねぇわ!」
「そんな事よりこの鳥肉…」
「鳥が後回しだ!お前今無詠唱だったろ。」
「むえいしょう?」
一体何を興奮しているのでしょうか。…花鳥はそれ程までに美味ということでしょうか!?これは早くリアム殿に調理して頂かなくてはっ!
そう思ったのですが、シオドア殿に胸倉を掴み上げられてしまいました。シオドア殿は背が高いので小生の身体が浮いてしまいます。足が地に付かないのは落ち着かないので離して頂きたいのですが、額に頭突きされる勢いで顔を近付けられました。何で怒っているのでしょうか。
…まさか花鳥は食べてはいけない鳥なのでしょうか!?しかし美味と聞いては我慢する事など…っ。
「言葉に魔力を乗せて放つって言ったろうが。どうやったか説明してみろ、こら。」
「どう、と言われましても…。それより鳥肉を…」
「鳥は後だっつってんだろが、この猫が。」
「にゃあ…。」
「おら吐け、事細かに説明しろ。今お前は何をした。どうやって魔力の槍を飛ばした。ありゃ無属性だな?そうだな?」
「捲し立てられましても、小生…説明は苦手です。」
早くリアム殿にお届けして美味しい食事を作って頂きたいというのに、シオドア殿が可笑しくなってしまいました。…独り占めなんてしませんのに。…ちょっとはしたいですが。