16話
「に゛ゃああああああああっ!!」
「っ、おいバカ!お前が逃げてどうすんだ!……くそっ!」
一夜明けて、肉を狩りに出掛けるとシオドア殿が仰るので同行したまでは良かったのですが…角兎よりも大きくて狂暴な魔物に対峙するとは聞いていませんっ。
夢猪と聞いていたので猪だと思ったんです。あの大きさは熊ですっ。
シオドア殿には夢猪を追い立てて、シオドア殿の方へと向かわせる役を仰せつかったのですが…。小生に出来るとでも!?
「こ、の…っ、くたばりやが…れっ!!」
逃げ惑う小生を追い掛けて来た夢猪は巨体の割には速く、小生も必死に逃げるしかありません。しかし、大木を見付けて駆け上がると夢猪は真っ直ぐに体当たりをしました。
その衝撃で動きが鈍ったところをシオドア殿が倒して下さいました。その巨体も収納魔法で運ぶ手筈を整え下さいまして…、…小生は同行する意味があったのでしょうか…?
「クロガネ…、お前本っっっ当に戦えねぇのな?」
「…解体は覚えましたが。」
「……はぁ…。転生者ってのも色々なんだな。魔法の一つくらい覚えたらどうだ?お前、そのままだと死ぬぞ。」
「弱い事は自覚していますが、クロッドの町を出る予定などなかったのです。」
「現に、出てんだろ。望まないとしてもな。…仕方ねぇな。朝飯の後に少し教えてやる。こんな小物に時間掛けられちゃ堪らねぇからな。」
「……修練は苦手です。」
「るせぇよ、諦めろ。戻るぞ。」
吏漸の家に戻る間はシオドア殿が守って下さいました。食料になる魔物は捕獲して食料にならない魔物は倒して進んでいきましたが、クロッドの町近くの森よりも桁違いに危険な森です…。
帰宅してリアム殿と共に解体を行いながら朝食の用意をしました。
夢猪の肉はとても美味しかったです。リアム殿は料理上手です。
「おいクロガネ、幸せそうな面してっけど…飯が終わったら外出ろよ?」
「う…、……はい。」
折角食事の美味しさで嫌な事を忘れていたのに…。不思議に思ったリアム殿が事の経緯をシオドア殿に尋ね、それを聞いて楽しそうだと一緒に混ざりたいと仰いました。小生抜きでやって頂けたらどんなに良いか…。
〖リアム、勇者候補に魔法を覚えさせるならばしっかりと見ていてくれ。敵に回った場合の制し方を考える。〗
〖クロガネは大丈夫だと思うけど…分かった、見ておくね。〗
〖大丈夫、ということは無い。アイツは猫だが、人間の中で育てられ…身体は人間だ。全面的に信じる事はまだ出来ない。〗
〖はーい。リゼンがまだって言うならちゃんと見ておきます。〗
〖………そうしてくれ…。〗
食事の片付けを終えた途端、シオドア殿に因って外に連行されました。うぅ、お昼寝の時間が…。
眠くて堪らないのですが、シオドア殿による講義が始まりました。
この世界には幾つかの属性というものがあるそうです。火属性、水属性、風属性、土属性、雷属性、光属性、闇属性の7つ。魔法が使える、使えないに関わらず生物は必ず一つの属性を持っているとの事。
稀に複数の属性を持つ者も居るそうですが、数は少ないそうで相反する属性を持つ者は文献に載っている程度しか居ないそうです。
シオドア殿は雷属性と光属性を持っているそうで、リアム殿は水属性、吏漸は闇属性とのこと。
「クロガネは分からないんだよね?調べてみよっか。ん、と……はい、これ持って。それから魔力を流し込んでみて?それで分かるから。」
「おいこらチビー?魔力ねぇって奴にそれ持たせたところで反応する訳ねぇだろうが、カス。」
「あ、そっか。」
シオドア殿は口が悪過ぎる気がします。特にリアム殿に対して悪いというよりも酷い。リアム殿は慣れていらっしゃるのか気にせず会話を続けていらっしゃいますが…。
リアム殿の見せてくれたビー玉のような物に魔力なるものを注ぐと属性が分かるそうですが、そもそも小生は魔力なるものはありません。神官長殿が仰っていました。…が、シオドア殿が見た限り小生の魔力は白金等級とのこと。確か一番上の等級だったかと…、…そんなまさか。
「いいか、昨日も言ったが魔力が無きゃ魔族に名前なんて付けてやれねぇ。俺が見た限りお前の魔力量はとんでもねぇよ。」
どうにも信じ難い…。
そう思っているとシオドア殿に手を掴まれました。何事かと彼を見上げた矢先、身体の中に何かが流れ込んでくるような…川で溺れた時のような不思議な感覚に襲われました。
気付いたらその場に座り込んでしまっていました。
「っ、コレ気持ち悪ぃんだよな…。クロガネ、どうだ?魔力の流れっての、分かったろ。」
「今のが…魔力…。身体の中を、流れているんですね…。」
「あぁ、そうだ。魔力は身体の中を巡っている。それを体外に出す事を想像する、それからどんな効果があるのかどんな形なのか出来る限り細かく明確に想像しながら詠唱していく。そこに魔力を乗せる事で魔法は初めて形になる。………寝んな、おいッ!」
「は…っ、つい。」
小生には難しい話です。
そんなに幾つも想像なんて出来ません。食事の事と睡眠の事を考えるのが精一杯です。
見せる事が一番早いとシオドア殿は光の球を出現させてくれましたが、身体を巡る光が手元に集まって光の球になった…ということしか分かりませんでした。
「…転生者は魔法の素質が高いのではなかったのか?」
「リゼン。来たの?」
「あぁ、シオドアが頭を悩ませている姿が珍しくてな。」
「コイツ…、素質ねぇよ。」
「シオドア、忘れていないか?クロガネは猫だ。」
「あ?んな事、知って……あ。あー!…マジでか…。」
吏漸の言葉が分からなかったシオドア殿は少し時間を置いてから理解したご様子。
魔物や動物は魔法を使えない。使える場合もあるそうですがそれは単純に発動するもののみ。それを意味するところは、…想像力。
魔物や動物も夢を見ます。しかし想像するとなると話は別です。人間には遠く及びません。
長く生きて来た小生でも、人間のように想像する事など出来ません。
転生者はこの世界の人間よりも想像力が豊かで、様々な魔法を編み出していたのだとか。
小生には、出来ませんねぇ。




