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11話

形勢不利と判断した男性たちは一斉に姉上に飛び掛かりましたが、姉上の手元が光り姉上の周囲を光の壁のようなものが包み込みました。男性たちの凶刃は姉上に届かず光の壁に阻まれ、勢いをそのまま跳ね返されて男性たちは尻餅をついてしまいます。

その隙を姉上が逃す筈もなく、再び手元に光を集めていきます。姉上の使う魔法というものは神々しい感じがして好きです。



「我が呼び掛けに応えよ、光を司る精霊たち。…集まれ、整え…我が敵を打て…聖なる槍(ホーリースピア)!」


「うわぁぁぁぁぁ!!」



光の壁が硝子の割れるような音を立てて砕けたのと同時に姉上の周囲に光の球が幾つも現れました。

姉上が呟いていくと光の球は段々と姉上の持つ槍と同じような形に変わっていき、姉上が手を彼等に向けると光の槍は彼等へと向かい肩や手足などを貫きました。

男性たちの耳障りな悲鳴が上がり、彼等の戦意は削がれたようです。…流石(さすが)姉上。


姉上は先程の収納魔法を用いて縄を取り出し男性たちを捕縛していきます。縛り上げるのを手伝うように声を掛けられたので小生も手伝いました。縄を結ぶのは得意ではないですが、姉上の命とあらば…。

重傷とまではいかないようですが、血も流れていて相当痛そうです。まぁ、自業自得というやつですがね。



「よし、と。ヒロト、ちょっとだけ木の上で待機しててくれる?」


「それは構いませんが…姉上はどうなさるので?」


「騎士団に引き渡しに行ってくる。その間ちょっと待ってて欲しいんだ。」



姉上の言葉に頷きはしましたが、騎士団が居る街までどれくらいかかるのでしょう?

この近くの街は大人の足で丸三日かかると聞いたのですが…。

それよりも近い街の話は聞いた事がありません。街ではなく何処かに留まっているとか…、でしょうか?


小生が首を傾げていると姉上は再び魔法を発動させました。大木の幹が輝き始め一筋の光を放ち、姉上が光を開くような仕草をすると大木の幹の筈なのに街のような風景が広がりました。あれは、小生の好きなテレビ…っ!?



「引き渡したら直ぐ戻るね。…って、何驚いてるのよ。」


「姉上…これは、一体…。」


「あれ、見せた事無かった?移動魔法。光属性の素質が無いとそもそも習得出来ないから、誰でも使える訳じゃないけど…。」



術者が行った事のある場所で、鮮明にイメージ出来る場所であれば移動が出来るそうです。なんて便利なものなのでしょうか。

発動までに時間が掛かる事と、術者が無防備になってしまう為に外敵の居ない状況でないと使用出来ない事が難点だそうです。それでも十分便利だとは思いますが、敵に襲われた時に逃げる手段としては使えないでしょうね。


姉上が移動するのはこの国の首都であるセレスタ。国の統治者が住んでいて治安も良く、貿易なるものも盛んで最も栄えている街。騎士団なるものもそこに居るそうで、引き渡しが済んだら直ぐに戻るとのこと。犯罪者を警察に引き渡す…そんな感じでしょうか。

国で一番大きな教会もあるそうで、女神セラフィーナが舞い降りた事もあると噂されているようです。姉上は神官長や他の神官と共に洗礼を受ける為に訪れ、組合の本部もあるとかで何度も行き来しているとのこと。時々出掛けるのは知っていましたが、直ぐに帰って来られるので近場で狩りでもされているのかと思っていました。

…テレビではなかった…。


角兎(ホーンラビット)が巣穴から出てくる可能性や他の生き物が現れる事を考慮して、小生に木の上に避難するように言って下さったのだと理解はしました。

ですが姉上がお強いといえども女性、大の男を何人も移動させるのは困難な筈。負傷もしている男たちは自ら動くのも大変そうですから、少し助力が出来れば…。そう思って姉上がセレスタに男を移動させたのを見送ってから、一人の首根っこを掴んで姉上に続こうとしたところ視界が歪みました。



「…ヒロト、ダメ…っ!!」



姉上に叫ばれて反射的に男から手を離したのですが、視界はどんどん歪んでいき姉上の声も聞こえなくなってしまいました。

姉上が遠ざかっていくような感覚に困惑してもがくように手を伸ばしたのですが急激に気分が悪くなって意識が遠退いてしまいました。

まるで水の中に沈んでいくような感覚がして、不快さが増していきます。猫は水が苦手なんですよ…。


色も音も無くゆっくりと下へと落ちていくような感覚。姉上が「ヒロト」と呼ぶ声だけが耳に残っているようです。

前後、上下、左右、何も感じられません。先程までは落ちるような感覚があったのですが、今は自分の手足の感覚すら危ういです。

何処かを漂っているようにも感じますし、土の上に寝転んでいるようにも感じます。底の無い沼に立っているようにも感じますし、上へと引っ張り上げられているようにも感じます。

気分が悪いのに浮遊感もあって心地良くも感じる、不安定で落ち着かないような落ち着くような…。


目を開けている筈なのに閉じているような暗さ。小生は夜目が利くのに何も見えません。



今更ながら思い出しました、移動魔法について母上に聞いた事があったのを。

魔力なるものの消費が激しい上に光属性の素質が無いと習得出来ない事から、使用者は少ないということ。光の精霊の力で別の場所と今居る場所を繋ぎ合わせているという事。

術者と一緒ではないと空間の繋ぎ目に落ちてしまう可能性が高い、という事…。

先程姉上に聞いた時に思い出せていれば良かった。


小生はその空間の繋ぎ目に落ちているのでしょう。何処に辿り着くのか全く分からないのですが、それも運が良ければの話です。運が悪ければ何処にも辿り着かず空間の繋ぎ目の中を彷徨うこともあるとか。

死にたがりではありませんが、死んでしまうのは致し方ない事だと受け入れる覚悟はあります。ですが、ずっと漂い続けるのは苦痛でしょうね。母上にも姉上にも申し訳なく感じます。


何処かに辿り着く事が出来たら、母上と姉上の元に戻れる手段を探せるかも知れませんが…。


徐々に薄れていく意識の中で、姉上の焦った顔が浮かびます。小生は、出来の悪い弟ですね。心配ばかり掛けてしまっている。…ちゃんと、お別れはしたかったですね…。

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